Steve Will氏、「IBM i に関する大きな発表」についてほんの少しだけ公開
まだご存じでない方にお伝えするとすれば、IBMは、近いうちにIBM i に関する大きな発表を行う予定だということです。IBM i チーフ アーキテクトのSteve Will氏は、最近の「IBM i Guided Tour」ウェビナーでそのように述べています。Will氏は、IBMがその大きな発表に向けてどのようなことを念頭に置いているかについて、大まかな概略は紹介しましたが、具体的な事柄については、わずかに触れただけでした。
IBM i CTOおよびIBM DE(ディスティングイッシュド エンジニア)の肩書きも併せ持つWill氏が2月12日に行った、「 IBM i in 2025 - A Strategic Preview(2025年のIBM i - 戦略的プレビュー)」と題する1時間に及ぶプレゼンテーションは、IBM i コミュニティにとっては、もどかしさの残るものだったようです(このプレゼンテーションの動画には、 こちらからアクセスできます)。
Will氏は、大きな発表が迫っていることについて、触れずに済まそうとはしませんでした。「皆さんは今年、メジャー リリースを期待されていると思います。メジャー リリースは3年ごとに行っているからです」と彼はいきなり述べています。「現時点では、すべてについて、あるいは具体的な内容について発表することはできませんが、皆さんが期待されているのはそのことだろうと思われます。」
紅茶の茶葉占いのように、細かな手掛かりに基づいて、IBMが密かに用意していそうなことについて予想してみることとしましょう。IBMは2022年に、IBM i の最新リリースである、リリース7.5を発表しました。これは、2019年のIBM i 7.4の発表から3年後、2016年のIBM i 7.3の発表からは6年後のことでした。IBM i 7.2の提供開始は2014年でした(7.3との間隔は2年のみ)が、IBM i 7.1は2010年4月に提供開始されています(7.2との間隔は4年)。最近では、マイナー リリース間の平均的な間隔は3年となっています。
では、IBMは、具体的にどのようなことを発表するのでしょうか。明らかなのは、オペレーティング システムの新たなリリースがあるということです。問題は、もうひとつのマイナー リリース(すなわちIBM i 7.6)となるのか、あるいは、まったく新しいバージョン(すなわちIBM i バージョン8.1)となるのかという点です(IBM i 6.0またはIBM i 7.0リリースというものは存在しませんでした。言うまでもなく、 X.0リリースは誰も使いたくないからです。もちろん1988年のOS/400 1.0は別としてですが。同じ理由で、OS/400のV2R0、V3R0、V4R0、またはV5R0というものも存在しませんでした)。IBM i プラットフォーム向けのパッチで目にしてきた初期の資料では、新たなリリースは「IBM i 7.6」と呼ばれているようです。
しかし、ソフトウェアに対する変更の規模の大きさによっては、これも変わるかもしれません。Will氏の言い回しからすると、後者(IBM i 8.1)である可能性が高いように思われます。Will氏は、それが「大きなリリース」となると述べており、これは新バージョンであることを匂わせているようにも思われます。また、時期的な観点からも、大文字の「V」で始まる、新たな「Version」に分があるように思われます。IBMが最後にIBM i の新バージョンを提供してから15年になります(バージョン7.1まで遡るため)。IBMがあと3年待ってから新バージョンを提供するとしたら、新バージョン間の間隔が18年空くということになります。そうなると、このプラットフォームは、全生涯(2028年で40年)のほぼ半分を、バージョン7として過ごすことになります。さすがに、そうなることはなさそうに思われます。
過去の例からすると、ロチェスターは、このOSの完全な新バージョンを準備していると思われます。IBMは、2001年5月にOS/400 V5R1を出荷開始し、約7年後の2008年4月にi5/OS V6R1を公開しました。IBMは、4年間でV4のマイナー リリースを5つ提供し、バージョン5のマイナー リリースは7年間で4つ提供しています。バージョン3のマイナー リリースは7つ提供しましたが、それらはすべて、1994年5月(V3R0M5)から、OS/400 V4R1をリリースした1997年8月までの3年という短い期間で提供しています。こうしたデータを見てみると、新バージョンがそろそろ登場しそうに思えてきます。
もちろん、IBMは、春にはIBM i 7.6をリリースし、新たなPower11マシンが登場する秋にはIBM 8.1をリリースするということもあるかもしれません。
新たなリリース番号あるいは新たな名称がどのようになるかが明らかになっても、間違いなくより重要なのは、IBMが新たなミッドレンジOSでどのような新機能および性能を提供するかということです( PKS Software 社のHeidi Schmidt氏は、 2008年4月以来となる、 新たな名称へ変更すべき時期かもしれないと提言しています)。Will氏は「Guided Tour」で、どのような新機能が導入されるのか、いくつかのヒントを示しています。
「私たちの戦略は根本的に変わっていないと思います。しかし、どの戦略的分野でも、新しい技術が生み出されています」とWill氏は述べています。「様々なものがあります。やはり、私が実際に発表できることには制限がありますが、アンカーとして拠り所となる機能がいくつかあります。」
そうした、いわゆるアンカー機能としては、AI、セキュリティ、オープンソース、アプリケーション開発、ハイ アベイラビリティー、クラウド、Db2、ACSおよびNavigator for i パワー ツールなどがあります。
AIの分野では、IBMは、RPG Code Assistと呼ばれる(あるいはCode Assist for RPGとも)、RPGコーディングを支援するために設計されたAI搭載コパイロットの開発について 公言してきました 。この製品は、現在、開発中で、今年第2四半期にベータ版リリース、今年後半にGA(一般公開)の予定です。
Will氏は、新たなリリースでのAI機能の追加を匂わせています。「Db2にAIを組み込んで、Db2データをAI環境と容易に共有できるようにしたいと思っています。独自のAI機能を構築しているソリューション プロバイダーが、Powerおよびその機能を使用できるようにして、IBM i の基盤が、必要に応じて、より効率的に、緊密に統合された形でそれらのソリューションを使用できるようにしたいと考えています」と彼は述べています。
「IBM i に接続されているAIワークロードのデプロイメントや管理を簡素化し、問題を管理および予測する際に支援が得られるようにしたいとも思っています」とWill氏は続けます。「2025年のうちに、これらすべてについての発表をお届けできるわけではありませんが、根本的な基盤を整えつつあるため、私たちの環境で必要性が高まり、技術的により成熟するのにつれて、それぞれに対する取り組みを進めることができます。」
Fortra社の毎年恒例のIBM i 市場調査「 IBM i Marketplace Survey 」によれば、セキュリティは、 9年連続でIBM i のショップの1番の懸念事項となっています。そのため、IBMは、顧客がより簡単にシステムをセキュアに構成できるようにすることを目指しています。
「セキュリティは、私たちの取り組みの重要な部分になるでしょう」とWill氏は述べています。「セキュリティについては、その次のリリースの際に、たっぷり話をすることになると思います。」
IBMのアプリケーション開発戦略は、オープンソースに大きく依存しています。Python、Node.js、およびPHPなど、新たな言語のサポートは、PASE AIXランタイムで稼働するオープンソース ソフトウェアを通じて提供されてきました。より最近では、オープンソースのVS Code開発環境の採用が、IBMが支援してきたCode for IBM iの普及とともに急増しています。
「それは、紛れもない恩恵でした。RPGを知らない新卒のプログラマーを雇用する側にとっては、まさにメリットそのものです」とWill氏は述べています。「それは、IBM i の将来に向けて、アプリケーション開発やアプリケーション モダナイゼーションやAIをどのようにサポートするかについて意思決定を行う助けになりました。」
プログラミング以外でも、IBM i での作業の仕方やIBM i 環境の管理の仕方は、よりオープンかつ「Linux的」になるべきだとWill氏は述べています。
「スキル問題のいくつかは、IBM i の扱い方やIBM i 独自の流儀を知らないということです。そのため、よりオープンなツールで使い方を学ぶことを通じて、IBM i を扱えるようになってもらう必要があります」と彼は述べています。「オープンソースの経験と言う場合、そのほとんどは、Linux環境で稼働するオープンソースということになります。そのため、これまで以上に、Linux的な方法で使いやすくなるようにする必要があるでしょう。」
Will氏が触れなかったトピックが1つあります。それは、中にはSystem3の時代から存続しているものもある、一部の年代物のユーティリティが、新たなリリースまで生き残るかどうかということでした。たとえば、SEUは存続するのでしょうか。2023年にLiam Allan氏が、SEUは廃止されるべきかと問い掛けたところ、 かなりの数のフィードバック が寄せられました。IBMは、2024年5月のIBM i 7.4および7.5向けテクノロジー リフレッシュで、年代物のグリーンスクリーン ユーティリティの 廃止に着手 し、いくつかのツールがサポート終了となっています。
このトピックについては、Will氏は「IBM i Guided Tour」で触れませんでした。「私たちが目指してきたことは、明日または今日のIBM i が、過去のIBM i のままではないようにすることです」とWill氏は述べています。
ハイ アベイラビリティーの領域では、PowerHAおよびDb2 Mirror製品が着実に採用されているようです。昨年10月、 IBMは新たな「Migrate While Active」オファリングを発表しました 。これは、Db2 Mirrorデータ レプリケーションを利用して、IBM i 環境を、オンプレミスから、IBM Cloudで稼働するIBMのPower VS環境に移行させるオファリングです。Will氏は、「While Active(アクティブなまま)」技術の拡張があることを匂わせています。
「ワークロードをクラウドに移行する支援に適用されている、Db2 Mirrorベースのテクノロジーについて少しお話ししました」と彼は述べています。「また、特にそれを使用してミラーリングされた継続的可用性環境を実現しているわけではない場合でも、そうした同じようなテクノロジーは、より多くのユース ケースや、クライアントのダウンタイムの削減にそのテクノロジーを役立てているより多くの実例を通じて、より多くのユーザーに適用されることになるということについてもお話ししています。」
Will氏および彼のチームは、IBM i プラットフォームの開発の指針とするために、 IBM Ideas Portal や顧客アドバイザリー カウンシルからの顧客フィードバックを非常に頼りにしています。そのため、新バージョンでもテクノロジー リフレッシュでも、既存製品に対して一定数の機能強化が行われることになると彼は「IBM i Guided Tour」で述べています。
「私たちが取り組もうとしている大仕事以外でも、新たなDb2機能、新たなSQLサービス、新たなNavigatorおよびACS機能、そしてセキュリティ機能に関して、IBM Ideas Portalに提案されたアイデアや、私たちのアドバイザリー カウンシルから寄せられた提言について絶え間なく評価を行っているため、今年もそうした機能のすべてに、新たな機能強化が追加されるのです」と彼は述べています。「私たちが行う発表やカンファレンスでの講演などを通じて、それらの背後にある詳細情報についても、お伝えできればと思います。」
では、その発表はいつになるのでしょうか。どうやらIBMは、大きな発表を火曜日に行うことが多いようです。本日から、カリフォルニア州アナハイムのディズニーランド ホテルで COMMONのPOWERUp 2025カンファレンスが開催される5月19日までの間に、火曜日は11回あります。それらのうちのどの火曜日が、重要な火曜日となるのでしょうか。『 IT Jungle 』では、引き続きそれを追い掛けます。
【 訳注 】
4月8日にIBM i バージョン7.6と7.5 TR6が公式に発表されました。バージョン7.6のハイライトの一つは多要素認証(MFA: Multi Factor Authentication)がOS標準機能として組み込まれた点で、それに伴うシステム管理機能の強化がなされています。Steve Willによる発表概要説明については、iWorldサイト「IBM i 7.6およびIBM i 7.5 TR6の発表」をご覧ください。