IBM i のウンチクを語ろう:その124
- コスト削減は生成AI導入の最大の目的なのか -
皆さん、こんにちは。IBM Bobとその概要をお客様に紹介する際に、話が料金体系や従量制課金に及ぶと、大抵「一体どのくらいのBobcoin(Bobの利用量を測る指標)を消費すると見積もれば良いのか」といった質問をいただきます。一括の固定料金ではなく、Bobcoin消費量に基づいたサブスクリプション方式の従量制課金が適用されるので、コストの規模感が全くわからない、というわけです。またBob自体も従来には無かった全く新しいサービスであるために、導入効果を測定することが難しいのも事実です。生成AIは魅力的ではあるのだけれど、効果もコストもわかりにくい、こんな思いを抱いている方も多いのではないでしょうか。これに対してシンプルに答えることはできませんので、Bobcoin消費事例を紹介するか、ご自身で感覚を掴んでいただくために無償のトライアル版を勧めるか、ということになるわけですが。
最近、「費用対効果」という用語は日本のITを束縛するマジックワードなのではないか、という思いを強くしています。いくらの費用を支払えば、いくら分のメリットが生じるのかを算出し比較する、という発想は合理的であることに異論はありませんし、これを蔑ろにして無節操に得体のしれない代物にカネを投じるのはあり得ません。ただ、生成AIの導入を検討するに際しても、費用対効果を見極めることができなければ先に進まないというのは、ちょっと違うような気がするのです。カネを投じるにあたって、費用対効果を算出することが可能であり、そのようにするべき領域と、費用対効果の算出が困難であり、それは二の次にすることを許容するべき領域とが存在するのではないでしょうか。
旧来から存在していて、費用対効果を事前に把握するのが困難なソリューションの例として、BI(ビジネス・インテリジェンス)、すなわちデータ活用を挙げることができると思います。ライセンスとか導入に関わる費用については、ベンダーが見積書を持ってくるので概ね把握することができます。一方で、迅速な経営判断という効果を定量的に把握した、という話は寡聞にして聞いたことがありません。IBM i 向けにBIを導入するプロジェクトを率いた方に、かつて次のような質問を投げかけたことがあります。「プロジェクトを始めるにあたって、経営層の納得を得るために、費用対効果をどのようにして見積もったのですか。」
昔のことでもあり正確な言葉遣いは忘れてしまいましたが、答えは「仮定に仮定を積み上げて、それらしく辻褄を合わせた数字を作り上げ、それに定性的効果を組み合わせてダメ押ししたに過ぎない。」といったようなものでした。必ずしもしっかりと検討できたわけではなかった、という謙遜も含まれていただろうと思います。一方で、「うまくいけば絶対に元は取れる」という確信もあったそうです。他の方からは、社内でそれなりに力のある方なので影響力を発揮できた、という発言も聞かれました。「xxxさんがああ言うのだからきっと大丈夫だろう」といった、細かく追及されないだけの信用があったのでしょう。非科学的と言ってしまえばそれまでなのですが、勘と経験と度胸に裏付けられた属人性がモノを言ったわけですね。その時は何となく、「費用対効果という言葉を敢えてちょっと脇にどけておいて、力づく(?)でコトを運ぶという世界もあるのだな」と思ったものでした。特にBIにかかるコストは今とは比べ物にならないほど大きな時代です。「BI事情とIBM i 」に書いたことがありますが、BIソフトウェアのライセンス料金だけで、1,000万円超になることもあり得た時代でした。
Bobについて何も無いままでは困りますので、ここでサンプル的に費用対効果を試算してみましょう。汎用性はありませんが、どのくらいの規模感になるのか感覚を掴むのが目的です。
まずは費用に目を向けてみると、Bobの課金体系は従量制なので、「量」を仮定しなくてはなりません。例えば一年間に5人のIBM i 開発者が一人あたり800 Bobcoinを消費すると仮定したら、詳細な計算式は省きますが、そのコストは90万円弱程度になります。いわゆるベースBobに加えて、5人全員がPremium Package for i を利用する前提です。初期のBIソフトウェアと比べると、投資額は圧倒的に小さいですね。次に効果については、IBM社は自社の経験に基づいて平均45%の生産性向上を報告しています。単純計算すると、5人で7.25人分の仕事を成し得る(=5×1.45)、すなわち2.25人分の仕事を追加でこなすことができることになります。ここで日本のITエンジニアの平均年収である469万円(doda: 「ITエンジニアの平均年収はいくら?」)を適用すると、効果は1,055万円相当と算出されます。90万円が1,000万円超の価値を産み出すわけですから、その費用対効果は圧倒的です。仮に数倍の見込み違いがあったとしても、効果があるという結論は揺らぎそうにありません。これだけの差があると、計算精度を高めようという気はしてこないですね。
生成AIが適用できるシーンは更に拡大してゆくと聞いています。予告なく変更・中止される可能性はある、というお決まりの注釈は付きますが、IBM Bobの将来構想の中には、SQLパフォーマンスの向上、開発と運用を統合してアプリケーションを迅速に展開するDevOpsの統合、RAGによるIBM i 製品スキルの活用、が含まれています。費用対効果のさらなる改善が見込まれるので、精緻にこれを算出する動機はさらに薄れてゆくのでしょう。
ここまで書いているうちに、ITはコストか投資か、といったようなテーマでこのコラムを書いたことがあるのを思い出しました。DXがブームの最中にある中でしたためた、「ITはコストであるという呪縛」です。得られる効果を固定的に捉えるコストという発想ではDXは進まないのではないか、と考えたことがきっかけでした。例えば会社の中で、システムを大過なく稼働させ続けなければならない一方で、IT関連予算を昨年比10%削減することを求められる。このような環境下にあってはDXは望むべくもありません。投資によって得られる効果は、期待値を下回るリスクはあるかもしれないけれど、企業風土・文化を変革する可能性を追求しながら期待値を大きく上回ろう、という態度は持ち続けるべきではないかという主張です。
IT業界の主要関心事がDXから生成AIに置き換わる時期になって、「そうだ、生成AIもコストではなく投資であるべきだよな」と感じます。もっともDXは追求するべきビジネス課題、生成AIは何らかの課題を達成するための技術的な手段に過ぎないので、両者の次元は全く異なります。そして単に関心度の高さの順序が変わっただけで、DXという課題を達成するための強力な手段として、Bobなどの生成AIが利用可能になった、というのが本来の意識の持ち方なのだと考えています。DXはオワコンでこれからは生成AI、は何かがズレているように思うのです。
先に費用対効果はITを縛るマジックワードかもしれない、とお話しました。コストと投資という言葉の使い分けを意識していないというだけなら余計な心配をする必要は無いのですが、Bobをコストと見なす発言が時々聞かれるのは、個人的には少々気になっております。従来よりも高機能なアプリケーション開発支援ツールとして位置付けて、開発生産性が向上したらそこで目標達成、では極めてもったいない話です。
これまでのIBM i は、DXを推進しようにも人手が足りない、コストがかかる、といった阻害要因に阻まれることが多かったようです。費用対効果を超えて、これらの制約を大幅に緩和することが可能になり、ビジネス環境の変化やテクノロジーの進化に即応するこが容易になる。Bobの効果をこのように捉える必要があるのだと思います。
ではまた
