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IBMiコラム2026.07.22

IBM i のウンチクを語ろう:その121
- IT市場の中でIBM Bobを眺めてみる -

安井 賢克 著

皆さん、こんにちは。IBM i ユーザーにIBM Bobを直接紹介する機会が増え、多くの方に関心を持っていただけるのはシンプルに嬉しいものです。久し振りに誰もが関心を持ち、歓迎したくなる新機能に出会ったような気がします。

背景にあるのはIBM i のアプリケーション開発における人材不足問題であり、期待の高さを支える最大の要因の一つは、料金体系などにおける手軽さにあることは間違いないと思います。生成AIの出力には、揺らぎや、ハルシネーション(hallucination:幻覚)と呼ばれる自信たっぷりな勘違いが含まれる可能性は否定できない、とされています。それでも生成AIというキーワードと無償トライアル版の存在、さらには個人契約タイプで最低一人月額20ドル(Pro版)という手頃な料金設定は、人々の関心を惹きつけるのに十分な効果を発揮しているようです。私のこれまでの経験では、「現物」に触れたことのある方はまだ少数なので、期待値の方が先行しているのは事実でしょう。

市場の期待に触れていると、調査会社のガートナー社が提唱する「ハイプ・サイクル」を思い出します。これは新しいテクノロジーによるイノベーションが市場でどのように推移するのかを説明する枠組みで、初期の方から順に、黎明期、過度な期待のピーク時、幻滅期、啓発期、生産性の安定期、の5つのフェーズがあるとされます。現在のBobを取り巻く状況をこれに当てはめると、おそらく二番目の、過度な期待のピーク時にあるのではないかと思います。

これから多くの方がトライアル版などを利用して実際に試すフェーズに進むと、Bobの現実に触れ、その回答精度は期待していたような品質に達していないと幻滅するケースが目につくようになるのかもしれません。メーカーであるIBMはこのような生成AIの弱点を放置しているわけではなく、既にその対策を進めており、さらに今後の機能強化も行おうとしています。とは言っても、何かの単一の策が万能薬のような効果をたちどころに発揮する、といったほどシンプルなものではないようですが。

販売会社にいる私達がやるべきなのは、それらを学んで世間に広め、できるだけ早く幻滅期を脱して啓発期、さらに次の安定期への移行を後押しすることだろうと思っています。ここでうまく啓発期を乗り越えることができなければ、市場から退場しなければならなくなります。この障壁がいわゆるキャズム(Chasm: 深い溝の意)、すなわち市場へと浸透してゆく上でクリアしなくてはならない試金石ですね。

回答精度問題の原因の一つとしてよく聞くのはプロンプト、すなわち生成AIに対する指示の曖昧さにあるとされています。人にとっては十分に正確・精密に見えたとしても、生成AIから見れば人の指示は「穴」だらけなので、確率的にその内容を解釈するわけですが、必ずしもその想定が当たるとは限らないというわけです。前提を間違ってしまえば的外れな回答が生成されるのは致し方ありません。生成AIが世に出た時に、これを回避するには適切なプロンプトの出し方、すなわちプロンプト・エンジニアリングが重要だ、などという声がよく聞かれました。言うのは簡単ですが、実践するのは意外に難しいのではないかと思います。

例えばBobに既存のRPG/400(RPGⅢ)プログラムをFF RPGに変換してもらう、といったシーンを想定してみましょう。このシンプルなプロンプトで済ませてしまうこともできなくはないですが、精度の高さを求めるのであれば、もっと細かく作業項目を指示しておいた方が安全です。相手を中堅社員ではなく新人社員だと見なそう、というわけです。人間だったら相手によっては「いちいち細かく言わないで欲しい」と怒られそうなところですが、Bobは文句を言いません。そして指示の中には、最初の行を「**Free」で開始しなければならない、ループや条件分岐において適切にインデント(桁ずらし)を適用して欲しい、各種仕様書をdclで始まる宣言文に置き換えて欲しい、といった最低限の用件もあるでしょう。

人の手でこれら全てを指示するにはそれなりのスキルを必要とします。IBM i のスキルある人材を確保するのが困難になりつつあるからBobを使おうとしているのに、Bobを使うためにはIBM i のスキルが必要というのでは元も子も無いですね。そこでBobは自分自身でプロンプトを強化し、作業開始前にユーザーからその承認を得る、といったプロセスを追加することができます。Bob IDEと呼ばれるBob用のインターフェース画面右下にある、十字形の星印「追加コンテキストでプロンプトを強化」をクリックするだけです。これならばIBM i のスキル有無に関わらずどなたでも手軽に使えますね。FF RPGに変換する際の、冒頭の「**Free」やインデントなどの指定は、Bobの自主的なプロンプト強化の中に含まれているものです。

不足があると感じられたら、さらなる指示を書き加えることもできます。変数名をわかりやすいものに置き換えて欲しい、データベースへのアクセスをレコード・レベル・アクセス(いわゆるネイティブ方式)から業界標準のSQLに置き換えて欲しい、サブルーチンを切り出してプロシージャ化して欲しい、といった点を加えたくなるかもしれません。

私自身も実際に変数名について追加指示を出したところ、ユーザー(私のことです)にとってわかりやすいのは日本語である、という判断が働いたのでしょう。Bobは変数名を日本語にしたプログラムを生成しました。もちろん言語の仕様としてサポートされないので、変数名を英語にするよう再度指示したのは言うまでもありません。以降は変数名については、「わかりやすい英語」に置き換えるように指示しています。本来の目的を考えればわかりやすさの程度にも制約があるはずだ、といったところまではさすがに気が回らなかったようです。

ちなみにBobの追加モジュールであるPremium Package for i を利用すると、プロンプト強化と同等の機能が内部に組み込まれるので、Bobcoin消費を抑えながら精度向上を図ることができると聞いています。詳細については環境が整い次第確認してみるつもりです。

上記に留まらず、各企業は独自のプログラミングの流儀をお持ちかもしれません。必要であればそれらをプロンプトの中に加えるだけでなく、あらかじめマークダウン形式で記述された共通のドキュメントにまとめておいて、常にBobに参照させる方法もあります。生成AI向けのREADMEファイルのようなもので、「Agents.mdとは」をキーワードにWeb検索すると様々な文書が見つかります。Bobでも同様に機能

アプリケーションの生成や解析を行うためのツールは、既存のものがいくつもあります。中には長い時間をかけて、市場の中で優れた品質を追求し続けてきたものもあるでしょう。これら既存のツールと比べた時に、Bobは廉価で手頃であることは明らかですが、その回答に揺らぎがあるので、品質は必ずしも優れるとは言い切れないという意見もあると思います。そのような時に私が思い出すのは、「イノベーションのジレンマ」(1997年クレイトン・クリステンセン著)という書籍において展開されている理論です。

ざっとこんな筋書きでした・・・既存テクノロジーを元に形成されている市場があって、そこに全く新しいテクノロジーが登場する。コストや使い易さなどのメリットがある反面、大抵その性能は既存テクノロジーには及ばない。新テクノロジーのメーカーなどはその点を認識しており、弱点を克服するべく努力を重ねてゆくので、いずれは市場における最低要件レベルを超えることになる。一方で既存テクノロジー企業はさらなる性能向上を図るが、市場が求めるレベルを既に超えているので、むしろ新興企業に市場を奪う隙を与えてしまう。いずれ新テクノロジーは旧来のビジネスモデルを破壊してしまうことから、これを破壊的テクノロジーと呼ぶ。

我々も日常生活の中で、これまでいくつもの破壊的テクノロジーを目の当たりにしてきています。例えば、フィルム式カメラに対するデジタル・カメラ、LPレコード盤に対するCD、さらにはストリーム配信、現在進行形と言えると思いますが、ガソリン車に対するハイブリッド車または電気自動車、などです。Bobなどの生成AIは、旧来の各種ソフトウェア・ツールに対する破壊的テクノロジーになる可能性は十分にある一方で、破壊ではなく新しい共存の道を歩むのかもしれません。私が見る限りでは、既存の各種ツール・メーカーは生成AIとの競合ではなく、共存戦略を取る傾向があるようです。一方で生成AIの方は、その汎用性を頼りに目先の課題である回答精度向上や機能充実に注力していて、現時点では共存にあまり関心を示していない、といった違いを感じます。

これまで見てきたことからまとめると、あくまでも理屈上ですが、Bobなどの生成AIの今後は、旧来テクノロジーに対して破壊力を発揮する、旧来テクノロジーと共存する、幻滅期に入りキャズムに落ち込んでそのまま消滅する、のいずれかだと言えそうです。

キャズムを超えずに消滅する、と考える方はまずいらっしゃらないものと思います。AIはこれまで、人が教えるのではなくシステムが自ら学ぶ機械学習へ、エンジンに相当する仕組みとして脳細胞の動き(ニューラル・ネットワーク)を模したディープラーニングへ、さらに今後は生成AIからエージェントAIへと進化の方向性が概ね見えています。これら一連の動きは、キャズムをクリアするための対策だったと言えるでしょう。残るは破壊的テクノロジーとして旧来テクノロジーを薙ぎ払ってしまうのか、旧来テクノロジーとの共存に落ち着くのか、このあたりの動向はケースバイケースなのだと思います。そして一旦共存に落ち着いたように見えても、継続的に成長するBobがじわじわと旧来ツールを押し退けてゆく可能性も否定できません。生成AIは一体どこまで行くのか、楽しみ半分、不気味さ半分、といったところでしょうか。

ではまた

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著者プロフィール

パワーシステム・エバンジェリスト

安井 賢克
やすい まさかつ

2017 年 11 月付けで、日本アイ・ビー・エム株式会社を経てベル・データ株式会社に入社。IBM 時代にエバンジェリストとして IBM i の優位性を社内外に訴求する活動を行う傍らで、大学非常勤講師や社会人大学院客員教授として、IT とビジネスの関わりを論じる講座を担当しました。ベル・データ入社後も継続しているエバンジェリスト活動が米国 IBM にも認められ、2021 年以降 IBM Champion の称号を得ています。

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