OpenVMSのスピンアウトはIBM iの将来の前触れか?
世の中に「legacy」及び「venerable」のレッテルを貼られるいくつかのオペレーティングシステムが有ります。この語句の解釈のひとつはある種の「時代に合わない」及び「非常に古くさい」を意味し、他のひとつの解釈は「レガシー:新しいものが出現したが、長年使われ、完全に捨てることができない、古いが尊い技術を意味し、ときには「畏怖」の意味さえ含みます。OS/390と呼ばれてきて、最近はz/OSとして知られるMVSプラットフォームは、正確性と豊富さを望まない人にとってはたしかに前者を意味し、またその人たちにとっては以前i5/OSでいまIBM iと呼ばれるOS/400も然りです。
またDigital Equipment Corp.のItaniumシステム、VAX、及びAlphaに向けたVMSオペレーティングシステムもこれに当てはまります。このオペレーティングシステムは現在OpenVMSの製品名でHewlett-Packardが管理しています。
これらのプラットフォームが、Windows、Linux、及びUnixの激しい追い上げにもかかわらず存続している事実はまさに素晴らしい、の一語に尽き、顧客たちにとって高い価値を持続しているひとつの証拠です。一時期、OpenVMSは末期が近いとみられていました。しかしながら今、さらなる新たな未来を得て力強く生き続けており、この事実はIBM i オペレーティングシステムの長期将来性を示唆しているといえます。
HPは公式にOpenVMS 8.4をサポートすると言っていますが、少なくとも2020年までTukwila Itanium 9300上で稼働する現在のリリースは、その開発とサポート業務の大部分をインドに移行してしまっており、Poulson Itanium 9500チップにOpenVMSを移植することをコミットはしていません。これはそれぞれ4コアと8コアのふたつのItaniumプロセッサー間の互換性のレベルを考えると、極めて注目に値することです。HPから将来のKittson Itaniumをサポートする言葉は一切有りません。当初Kittson Itaniumは今秋に出荷が予定されていたのですが、Intelは今現在もなんら動きを見せていません。
これは数千に及ぶOpenVMSの顧客にとって好ましい状況ではありません。どれくらい多くの顧客が世界中に残っているかを推測するのは難しく、確かな数字は誰にも判らないのですが、私は100,000と400,000の間だと考えています。HPのMission Critical Systems 部門のVPでゼネラルマネージャーのRandy Meyerは、ItaniumベースのOpenVMS、NonStop、及びHP-UXシステムを販売していますが、顧客数を単に数千と言っています。
まさにすべての希望が失せたかのように思えるとき、VAX、Alpha、ItaniumのディストリビューターでリセラーのNemonix Engineering社は顧客に向けて稼働するOpenVMSのプロプラエタリーマシーンを30年以上にわたって維持してきており、OpenVMSのライセンスについてHPと交渉を行ってきています。同社はライセンスを得ることにより、サポートのみならず拡張が可能になります。
HPとNemonixはすでに金銭的条件の詰めに入っていると推測されます。Nemonixは融資を得て別法人のソフトウエア開発とサポートを提供する会社、VMS Software社をすでに立ち上げています。
なお、NemonixとHPは、VMS Software社がOpenVMSオペレーティングシステムの将来のリリースとバージョンの独占的な開発者になることを明らかにしました。結局のところ、HPはOpenVMS 8.4のPoulson Itaniumプラットフォームへの移植をほぼ完了しているということです。このプラットフォームはIntegrity rx28000 i4 ラックとIntegrity BL8xx4 ブレードサーバーを含むもので、VMS Software社はこの移植に対する最終的なドライバー開発と認証テストを行います。すべてが上手く行けば2015年早々に準備が完了します。OpenVMSは多くのスケーラビリティーを有していますが、4コアのプロセッサーから8コアプロセッサーに移行することは簡単なことではありません。しかしながら、IBM iのショップと同じで多くのOpenVMSのショップはワークロードが極めて少なく、多くのコアを必要とはしません。またこれらのショップはハイアベイラビリティーとスケーラビリティーに向けてクラスターを行う傾向があります。
OpenVMSによる共有ストレージのクラスターは常識的になっており、VMS Software社が関心を持っている理由のひとつです。VMS Software社がOpenVMSを販売及びサポートするビジネスを立ち上げることは大変ではないでしょうが、OpenVMSをItaniumからx86プロセッサーに移植するために70人から100人のソフトウエア技術者をニューイングランド州で探して採用することが大変なことだと思います。
また、VMS Software社はPowerとARMプロセッサーにも目を向けています。理由は、Harrisによればこの会社をX86チップに限定したくないからとのこと。OpenVMSはその信頼性とネットワークの性能がゆえに原子炉、レーダーシステム、原子力潜水艦、及び化学製造におけるプロセス制御など幅広く使われていることを考えれば、VMS Software社がARMとPowerに移植することは大いに頷けます。
HPとNemonixはOpenVMSに関して締結したライセンスに関わる契約の金銭的な詳細は明らかにしていません。またVMS Software社はまだ開発チームを組成していないので、OpenVMSのx86への移植に要するコスト及び必要とする期間については予想が立っていない模様です。VMS Software社はOpenVMSをHP ProLiantサーバー上で稼働させるために調整することは必至です。しかしながら、このことは他のハードウエアをサポートしないという意味ではありません。なお、HP とVMS Software社間のライセンスは後者がコードを開くことは許容されていません。
HPはOpenVMS 8.4のアップデートで作業してきた開発者を保有しているので、HP Integrity上 のリリースに向けてサポートサービスを継続して提供できます。HPはOpenVMSの古いリリースを含めてサポートを継続して提供し、またライセンスを販売することができ、VMS Software社に第1及び第2レベルのサポートを提供します。
したがって、顧客はHPと継続するか、直接VMS Software社に切り替えるかを選択できます。VMS Software社は向こう5年間、すべてのリリースを標準サポート契約に基づいてサポートしてゆきます。
なお、IBMにはIBM iオペレーティングシステムの拡張とサポートを軽視しているような兆候は決して見られません。1年に2回のTechnology Refreshを通してIBM iと真剣に取り組んでおり、AIXとLinuxの最新のハードウエア上でのIBM iの稼働を確保しています。
私は、一般的にオペレーティングシステムの新しいバージョンとリリースが最近はどちらかといえば必要最小限に留まっていると感じます。しかしながらWindowsやLinuxを含めてこれがすべてのオペレーティングシステムの真実です。スケーラビリティーとスタビリティーがこれらのプラットフォーム上の大多数の顧客に共通する課題でした。しかしながらこれらの課題は多くの取組を経てずっと以前に解決されています。
HPはOpenVMSを手放して、一般の大企業が大きな課題に取り組んでいながらも、顧客を見捨てることなく、顧客がうなずける正しい道を作ることができる実例を示しました。HPは顧客の要求が理由で、NonStopフォールト・トレランスのデータベースとオペレーティングシステムをIntelのXeon E7プロセッサーをベースにしたハイエンドのX86マシーンに移植していますが、自身でOpenVMSをX86に移植しようとしなかったことは明白です。OpenVMSとNonStop双方の顧客は自身のアプリケーションを開発する傾向があります。しかしながら、OpenVMSはRdbと呼ばれる自身のリレーショナルデータベースを有しており、これは過去20年間Oracleのコントロール下にありました。
OracleがRdbをOpenVMSのX86バージョンに移植することは全く有り得ないと思います。これがVMS SoftwareがX86チップ上で稼働するItaniumプロセッサー、WAX及びAlpha用にコードのコンパイルを可能にする静的及び動的トランスレーターのセットを追加するひとつの理由かもしれません。Advanced Micro DevicesのOpteronチップのマーケットシェアが昨今低いことを考えると、VMS SoftwareがIntel Xeon チップのみをサポートすると予測することに合理性があります。
私は、IBMがPowerプロセッサーとこれをベースにしたシステムの設計と製造から手を引くことを示唆しているのではありません。また、IBM iのショップがPower6、Power6+、Power7、あるいはPower7+プロセッサーを使えなくなる可能性を示唆しているのでもありません。我々すべてがそのようなことが起きないことを知っています。
しかしながら、IBMがハードウエア事業から外れて認知システムやビッグデータ等に焦点を絞ろうとしている最近の動きをみると疑問が湧いてきます。
約150,000のIBM iショップが存在しており、その約五分の一はSoftware Maintenanceのサポートを受けて、自分たちのハードウエアを比較的新しく維持しています。OpenVMSのベースはこれよりも古い製品です。HPとVMS Software社がひとつの前例を作ったことを知っておくべきでしょう。すなわち、ある日、他の会社にバトンを渡して、(冒頭で説明した語句)venerableでlegacyなプラットフォームを生存させるひとつの選択肢です。選択肢は常に存在します。もちろん我々はOpenVMSがIBM iと競合することなど望みません。しかしながら、そのような競合は上記の選択肢よりは多分まだ良いでしょう。IBMは過去に持っていたOpenVMSからOS/400への移植ツールを引っ張り出して来ようとするかもしれません。