IBM i のウンチクを語ろう:その120
- IBM Bobにまつわる質問あれこれ -
皆さん、こんにちは。このコラムを書き始めて今回をもってちょうど丸10年になります。前職時代に投稿を頼まれた時に、まあ何とか続けられるだろうと気軽に引き受けたのが事の始まりでした。実際には毎月のネタの選定に悩むことも多く、安請け合いだったな、などと思うことも一度や二度ではありませんでしたが。当初はIBM i と言えばRPG、RPGと言えばIBM i、といったムード一色。私個人的には斜陽化しつつあると見なされがちなIBM i を市場の中でどのようにして復権させるべきか、が最大のテーマでした。
今でもこの思いは変わらないのですが、IBM Bobの登場により世間の見立ては少しずつ、でも確実に変わりつつあるようです。レガシーだから、後継者がいないから脱IBM i を検討しなければ、だったところに、「でも新登場のBob君が何とかしてくれるんじゃないか」という期待の高まりです。ただ、Bobは実写版ディズニー映画「アラジン」に登場する魔神のジーニー(ウィル・スミスが扮していましたね)ではありませんし、回答に揺らぎがあるから、正解を出す保証がないからと言って、使い物にならないと判断するのは早計と言うべきでしょう。その効果は使い方次第、やはり主体者は人であり、Bobはそのパートナーといった位置付けにあることを忘れずにいたいものです。
今回は、私がこれまでに何社かのお客様にBobを紹介してきた中でいただいた懸念や質問から、いくつかを拾い上げてシェアしたいと思います。
考慮するべき制約は何かあるか
現時点(2026年5月22日)で最大のものは、BobはIBM i のライブラリ内を直接参照できない、といったものでしょう。ベータ版に触れたお客様の中にもこのやり方がわからずに利用を諦めてしまった方がいましたし、私自身も当初は制約を知らずに、できないはずはないだろうとばかりに散々もがいた挙句、何とか参照するところまでこぎつけた、という経緯があります。この顛末は当コラム「IBM Bobベータ版に触ってみた -1」にて詳細を紹介しています。結果的には意味のある努力ではありませんでしたが。
こんなに手間のかかる手順を踏むことが前提なのでは使い物にならないではないか、などと思ったのですが、同様の思いを抱いた方は世界中のあちこちにいて、中にはしばし静観を決め込んだ方もいたようです。この制約は5月21に発表され、6月24日にGAを予定しているPremium Packageのリリースによって解消される見込みです。IBM i におけるBobの実用的な展開は、これが前提になるのだろうと思います。
ただ私自身はしばし静観する案には与しません。生成AIを利用することによって、各個人のスキル格差は大きく縮小されることになるでしょう。IT活用において優位を保とうとするのであれば、どれだけ生成AIの経験値を積み上げておくか、といった点が重要になるはずです。せっかく無償のトライアル版が用意されているのですから、多くの方にできるだけ早期に積極的に試し、本格展開に備えていただきたいと考えています。
プログラマは不要になるのか
この質問は言葉を変えると、Bobの出力を100%信頼できるのか、と同義だと言えるでしょう。良く投げ掛けられる質問ですし、様々な方が回答しているように、結論から言うと答えは明確に「No」ですし、Bobが今後さらに賢くなってゆくとしても、この答えが変わることはないと考えます。ただプログラマに求められるスキルの内容は変質してゆくはずです。
従来のプログラマは、実現するべき機能を念頭に、エディタのアシスト機能を活かし、言語の詳細な仕様に注意を払いながら、プログラムを記述してゆくことが求められておりました。今後は細かな言語仕様についてはBobに委ねてゆく一方で、人は実現するべき機能をどのようにして明確化し、仕様としてBobに投げかけるべきか、そして生成されたプログラムが適正であることをどのようにして見極めるべきか、といった点に集中するようになると思います。このことが結果的に生産性向上に結びつくと考えられます。
プログラミングの生産性はどのくらい上がるのか
ケースバイケース、というのが正確な答えですが、それでは質問者のモヤモヤは解消しないでしょう。一つ明らかなのは、IBMは事例として社内の開発者の生産性が45%向上した旨を述べていることです。この値は当然のことながら使用方法やアプリケーション毎に異なりますので、より自身の環境に即した値を求めるのであれば、トライアル版によって実感を得ていただくことをお勧めしたいと思います。
ここでついでながら、もう一つのメリットにも目を向けておきたいと思います。入門者にとって、IBM i のアプリケーション開発のハードルが著しく下がることです。これは長い目で見れば、人材不足対策になるはずです。
この場で何度かコメントしたことがありますように、私自身はアプリケーション開発を生業にしたことはありません。遊び半分のプログラミング経験においても、RPG言語がその対象になったことはありません。そんな私ですら、Bobを利用してRPGプログラムを作ったり、改修したりすることができます。その出来栄えはベテランの手によるプログラムとは比べ物にはなりませんが、そこそこのレベルには達していると思います。そして手軽にBobに説明を求めることで、ある程度の理解が進みます。
Bobは同じことを何度質問しても、繰り返し丁寧に回答してくれます。これが人間だったら、同じ質問を何度も繰り返すな、などと怒られてしまいそうです。Bobを使うと若い方が学習しなくなることを懸念する声を聞いたこともありますが、学ぶのは先輩から怒られたくないから、などということは果たしてあり得るのでしょうか。怖い先輩がいようが、優しいBobがいようが、人は学ぶ必要があると思えば学ぶものではないかと思います。このことを入門者にとっての生産性向上率に置き換えるとしたら、私の感覚では数倍以上といったところです。入門者であればあるほど、Bobの効果は絶大です。若い方も積極的にこの優秀な家庭教師を活かしていただきたいものです。
Bobの今後の計画は
お客様から質問されたというよりも、IBM開発部門がこのように見て欲しい、と説明していたことについての私なりの理解をお伝えしたく思います。Bobの開発部門における機能強化の経験が蓄積されることで、状況はいずれ変わってゆくのかもしれませんが。
少なくとも現時点では、通常の製品機能強化のようには事を進めることができないようです。すなわち機能強化の構想があったとしても、その実現に向けてBobをどのように、またどの程度の分量のトレーニングを積めば、得られる回答の精度が満足できるレベルに達するのかを見積もるノウハウは存在しないと考えるべきなのでしょう。新機能をサポートできるようになるのはまだまだ先になるだろう、と想定したものがごく近い将来になったり、またその逆の事象が生じたり、ということはある程度避けられないようです。
このことは例えば受験勉強において、一日何時間、何日間継続すれば入学試験に合格できるようになるのか、と問うのと似ているのではないでしょうかね。人が違えば勉強の仕方や効果の現れ方も千差万別のはずです。そして時々模擬テストを受けてみることで、現在の実力を知ることができます。突然飛躍的な伸びが観測されるかもしれませんし、あと一歩のところでしばらくもたつくかもしれません。
他のLLMとの違いは何か
この質問の背景には、Bobではない他のLLMにおいてもIBM i のプログラミングをサポートできるという事実があります。私自身は比較したことはないので、例えば生成されるプログラムの質だとか、そのための速度などについて述べることはできません。ただ少なくとも明確に言えると思われる点を、指摘しておきたいと思います。
Bobが網羅しようとしている機能領域は、プログラミングだけではなく、アプリケーションを取り巻く管理・運用にまで及んでいます。IBMはこのことを、SDLC(Software Development Life Cycle)、ソフトウェア開発ライフサイクルという言葉で表現しています。プログラムの設計段階から、開発、テスト、本番環境への展開、さらにはより新しいモジュールに置き換えられて引退するまでを意味しています。今後の機能強化を待たなくてはなりませんが、スコープの違いは明らかではないでしょうか。
プログラミングのトレーニングにおいても違いがあると言えるでしょう。かつてIBMは、実際に業務で使用されているアプリケーションを貸して欲しい、と世界中のソフトウェア開発会社やユーザーに呼びかけたことがあります。言語の仕様書を読み込むだけならば、どのLLMでも実施できるでしょう。実用化されているプログラムによるトレーニングは、他社だと多くは望めないでしょうね。
Bobの利用料金を決定するBobcoin数をどのようにして見積もれば良いのか
企業である以上、何かに投資するのであれば、その見積額を事前に把握しなければならないのは、至極もっともなことです。企業向けBobの料金プランは従量課金制、すなわち主な構成要素は、利用者数と消費されるBobcoin、必要ならば有償のサポート・サービス、の3つです。さらにオプションではありますが、IBM i ユーザーならばほぼ必須になると思われるIBM i用のPremium Packageは、その利用者数に応じて料金がかかります。そして最後のサポート料金は利用者別料金とBobcoin料金の合算に依存します。利用者数はあらかじめ特定することができるので、残された不確定要素はBobcoinということになります。
1つのBobcoinは、生成AIが内部で処理する情報の最小単位であるトークン数400,000に相当します。RPGプログラムや生成されるドキュメントの規模の影響を受けますが、例えば1,000ステップのRPGⅢプログラムからのドキュメント生成はXX Bobcoin、といった具合に一意に決定されるものではありません。また出力精度を高めたり、何らかのエラーが生じたりした時に、Bobによる処理をやり直す必要が生じれば、その都度Bobcoinを消費します。
だからと言って、購入するべきBobcoinが1,000で済むのか、10,000が必要なのか皆目見当がつかないのでは先に進めません。対応案の一つとしては、実際にBobを使用した事例を参照して自社のケースに当てはめて推定する方法が考えられます。ただ、必ずしも自社の環境にマッチする実績値が公表されるとは限りませんので、もう一つの対応策もあわせて検討するべきでしょう。すなわち実際に作業対象になるプログラムの中から典型的と思われるものを選定し、それに関わるBobの作業を実際に行うことでBobcoin消費量全体を見極めるのです。
Bobcoinをサンプル的に消費してその全体消費量を見極めるわけですが、見積もるためのBobcoinはどうするのだと指摘されそうですね。ここで利用していただきたいのが前にも述べたトライアル版です。個人契約タイプで、30日間40 Bobcoinを無償で利用できます。
上記手法を駆使して見積もったとしても、想定通りになる保証はありません。Bobcoin消費量を随時モニターし、必要に応じて追加購入するなどの対応が求められます。結果的に場当たり的になってしまうのですが、そうなる事態を全く容認できないとするのか、大勢に影響は無いので対処可能とするのか、皆さんの企業ではどちらになりそうでしょうか。Bobcoinの追加購入単位は1,000であり、その標準料金は概ね8-9万円であることを思い出していただければと思います。多少の見立て違いは致命的にはならずに済むのではないでしょうか。
ではまた
