IBM i のウンチクを語ろう
~ その73: 更新されたIBM i ホワイトペーパーとライフサイクル
皆さん、こんにちは。IBM i の製品戦略を記述したホワイトペーパー最新版が、IBMから公開されました。IBM i 7.5の発表を受けて更新されたものです。今回はこのドキュメントのハイライトを何点か紹介してゆきたいと思います。なお当コラム執筆時点で日本IBMによる翻訳版は公開されておりませんので、所々に引用される訳は、執筆者である安井独自のものであることをおことわりします。
ドキュメントのサブタイトルとして付されたのは「A New Level of Integrated Simplicity」、すなわち「統合性がもたらすシンプルさの更なる進化」とでも言うべきものです。かつて「オールインワン」と呼ばれていた統合性は、AS/400の時代から製品が備える特徴の一つとされておりました。本来のオペレーティング・システムとしての機能だけでなく、データベースやセキュリティなどのいわゆるミドルウェア機能も統合されている、といった意味です。ユーザーが用意する必要があるのはアプリケーションだけであり、他に何も要らないので直ぐにシステムとして稼働させることができる、といった簡便性が期待できます。また、メーカーであるIBMはあらゆる機能を開発し最終製品に組み上げるところまで責任を持ちますので、品質的に安定する、というメリットもあります。
現在のIBM i の統合性は旧来のそれを引き継ぎながらも、その内容は大きく様変わりしています。例えばオープンソースのPython、PHP、Node.jsなどといったプログラム言語ばかりでなく、Jenkins(ソフトウェア開発におけるビルドからデプロイまでの支援ツール)、Nginx(Webサーバー)、PostgreSQL(データベース)などがIBM i 上で利用できるのも比較的新しい統合性の表れです。最新のアプリケーションを開発し、稼働させるために必要となる様々なテクノロジーを統合しています。そしてハイブリッド・マルチクラウドの時代になると、IBM i は外部のクラウド上の各種サービスとも連携する需要が生まれます。そのための業界標準テクノロジーがRESTであり、IBM i 上でもサポートされています。これらオープンなテクノロジーは「隔絶」された状態にあるのではなく、例えば旧来のRPGプログラムとも連携可能となっています。すなわち、従来の簡便性・安定性に加えて、統合性はアプリケーションが新たな価値を産み出す源泉ともなっているのです。
ちなみに2019年に公開された旧版ホワイトペーパーにおけるサブタイトルは「A platform for innovators, by innovators」(変革者による変革者のためのプラットフォーム)でした。DXという言葉が流行り始めていたためか、Xの部分、すなわちトランスフォーメーションを強く意識したものになっています。これに対して最新版で前面に出ているのは統合ないし統合性です。変革を推進するための原動力として必要になるのは統合性であるという理解、基本に立ち帰ろうという思いが、最新ホワイトペーパーに込められているのではないかと勝手ながら推測しています。
IBM iのホワイトペーパーですので、当然のことながら主題は製品戦略、IBM社がこの製品の将来に対してどのような姿勢で取り組もうとしているのか、という点にあります。キーワードとなるのは、「ソリューション(最優先事項)」、「選択肢を提供するオープン性」、「統合による価値」、の三つです。
IBM i はビジネス・ソリューション、すなわちお客様の業務を支えるアプリケーションやデータのためのシステムである、という製品の存在意義は、他のいかなる観点よりも重要であることを最初に確認しています。ソリューション拡充のためには様々なテクノロジーを活用する必要があり、ISV(independent software vendor : 独立系ソフトウェア・ベンダー)と協業しながら、アプリケーション開発環境への投資を継続することを明らかにしています。
優れたソリューションを実現するためのテクノロジーは単一ではありません。お客様が現在利用中の環境において変革を進めようとする時、現環境や目指す先に応じて多様な手段、テクノロジーが選択可能であることが必要です。そしてIBM i はオープンソースのプログラム言語やツール類を取り揃え、その選択肢を拡充することで、次世代を担うべき若年の開発者を呼び込んでいます。IBM i 人口の減少が懸念されるといった指摘が良く聞かれますが、例えばPython言語のプログラマの方であれば、容易にIBM i のコミュニティの一員に成り得るわけです。
新たなテクノロジーが登場すると、開発者やお客様はその潜在能力を評価し、価値があると判断すれば、ソリューションを進化させる際の新たな構成要素としてそれらを取り込もうと考えます。数多くのこのようなテクノロジーを製品の中に組み込むことで、IBM i はさらにその価値を高めてゆきます。「統合性」がサブタイトルのキーワードになっているように、ホワイトペーパー最新版が強く意識しているのはこの点だと考えられます。
これら三つの点について、どこかで聞いたことがあるような気がする、と感じられた方は、旧版ホワイトペーパーに目を通したことがあるIBM i の良き理解者だと思います。一言一句比較したわけではありませんが、これらの部分は旧版からほとんど変更されていないのです。製品戦略ですからそうそう簡単に変わるものではない、ぶれない製品戦略ということなのでしょう。
ホワイトペーパーに掲載される情報の中で、最も関心を呼ぶのはIBM i のサポート・ロードマップのチャートではないでしょうか。最新版ではページ15に掲載されており、実は私が真っ先に確認したのはこの部分でした。期待通りにより遠い将来が描かれていることを確認でき、とりあえず一安心、というのが正直なところです。
チャートの外観は横長長方形になっていますが、上辺と左辺は直線であるのに対して、下辺と右辺は何故かギザギザになっています。本当はもっと遠い将来に至るまでの、いくつものバージョンを含む長期計画が描かれた大きな紙があるのだけれども、ホワイトペーパーに掲載するのはその一部分だけだから、左上の部分だけを手で千切って提示してみた、といった見栄えにしているのでしょうか。芸が細か過ぎて、作者の意図がどの程度伝わるのか疑問ではありますが。そして掲載されるのはIBM i の最新バージョンを基点に二つ先のバージョンまでとなっており、それらは「IBM i Next」と「IBM i Next+1」という仮の名前で表現されています。この考え方は従来と変わるところはありません。そして旧版は2032年までだったのに対して、最新版においては2035年までが示されています。
青いバーが示すのは、各バージョンに対するIBMによるサポート期間です。濃い青は標準サポート期間を表しており概ね7年以上、薄い青は延長サポート期間(SE : Service Extension)で3年以上、合計で10年間はサポートされる、というのがこれまでの実績です。バージョン7.1の延長サポートは従来と違って二つのパートに分かれています。薄い青で塗りつぶされた部分は、標準的な延長サポート(SE1)を表しており、さらにその右の斜線部に示される追加の延長サポートの期間は、稼働マシンが搭載するプロセッサ世代によって異なります。テクノロジーが新しければ、より長い追加延長サポート期間が設けられる、といった具合です。そして延長サポートは標準サポートが終了する数ヶ月前に発表されますので、現時点ではバージョン7.3以降にSE部分は示されていません。なお、このチャートに示される具体的な日付を確認されるのでしたら、英語ではありますがIBMのWebサイトを参照いただければと思います。
各バージョンが登場するサイクルにも目を向けてみましょう。チャートには示されておりませんが、バージョン7.1までは概ね2年おきに新バージョンが登場しておりました。開発部門では頻繁過ぎると判断し、バージョン7.2を登場させるにあたって4年間ほど空けたのですが、これでは長過ぎたため、以降は3年間というサイクルが維持されています。チャート内のIBM i NextとIBM i Next+1は、3年毎の登場サイクル、7年間の標準サポート、というペースが維持される前提で描かれていることがわかります。念のためですが、将来については正式発表されたものではありませんので、予告無く変更、取りやめになる可能性がある旨をIBMは必ず注記しています。ただ、多少のタイミングのずれはあるものの、想定が完全に裏切られてしまうような変更があったことは、私の知る限りこれまでに一度もありません。
「IBM i バージョン7.5ベータ・プログラム体験記」に述べたように、当コラムの「IBM i バージョン7.5発表」で紹介したバージョン7.5の様々な新機能が、安定した品質で提供されているとの実感を私達は得ています。そして今回このコラムで見てきたように、最新ホワイトペーパーはIBM i の製品戦略をあらためて確認すると共に、これまで以上に遠い将来に及ぶサポート期間を明らかにしています。新しいバージョンが発表されたからと言って、直ちにアップグレードできるものではないとは思いますが、できるだけ早期に新機能に触れる機会を作っていただきたいと考えております。
ではまた。