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IBMiコラム2022.05.25

IBM i のウンチクを語ろう
~ その71: IBM i バージョン7.5発表

安井 賢克 著

皆さん、こんにちは。数年振りの行動制限の無いゴールデン・ウィークは、数年振りの製品発表のタイミングでもありました。先の5月3日にIBM i バージョン7.5とその関連製品が発表されたことは、既に多くの方がご存知の事でしょう。今回は早速この内容を紐解いてゆきたいと思います。

発表されたのはざっと以下の4つです。

IBM i 7.5
(利用可能日5月10日)
発表レターへのリンク
IBM i 7.4 TR6
(利用可能日5月24日)
発表レターへのリンク
IBM i Merlin ~ アプリ開発テクノロジー
(利用可能日5月20日)
発表レターへのリンク
IBM i サブスクリプション
(利用可能日6月28日)
発表レターへのリンク

IBM i バージョン7.5が今回発表の中心であるわけですが、同時に既存のバージョン7.4においてもTR6が発表されています。TR(テクノロジー・リフレッシュ)はPTFの集合体であり、Windowsで言うところのサービスパックのようなものです。IBM i の新機能を提供するための手段として、最新と1レベル前、すなわち今後当面の間はバージョン7.5と7.4を対象に、春と秋の年に二度リリースされる予定になっています。OSバージョンをアップグレードする事無く新機能を入手できるのがメリットです。ただ、2つのバージョンにおいて提供される機能は必ずしも同等ではありません。バージョン7.5の新機能の中には7.4のTRには含まれないものが多数あるようです。あともう一点確認しておきたいのは、バージョン7.3は最新から数えて2レベル分古くなったために、TR対象から外れたことです。現時点で営業活動やサポート終了の情報は聞こえてきておりませんが、今後は次第に影が薄くなってゆくのでしょうか。

影

さて、IBM i バージョン7.5のハイライトを一つだけを選ぶとしたら、セキュリティ関連機能の強化を挙げたいと思います。何か特定の大きな機能が登場したというよりも、一つ一つは小規模ながらも広範にわたる機能が追加・更新され、出荷時ディフォルト設定値が見直され、システムへのアクセス制御がより厳格化されています。IBM i はセキュリティ面において強固なシステムであることに違いは無いのですが、適切に設定・運用することが前提です。例えば各種のディフォルト設定値が見直されたのは、判断をユーザー任せにするだけでなく、製品側でも安全のために積極的に対処しようという意図によるものなのでしょう。これまで「緩い」アクセス制御のままにシステムを利用されてきた方にとっては、バージョンをアップグレードしたら窮屈になったような印象を抱くかもしれません。ランサムウェアが拡がりセキュリティ・リスクが高まっているこのご時世においては、システムとビジネスを守るための必要な「コスト」だと言えると思います。

ここで全てを挙げることはできないのですが、例としていくつか目に付いた項目を拾ってみましょう。

  • システム値QSECURITY=20の設定ができなくなります。ユーザーIDとパスワードによる認証をクリアすると、全てのオブジェクトに対するあらゆるアクセスが可能になってしまうような設定でした。従来から非推奨とされてきましたが、これで本格的に設定できなくなりました。
  • 権限リストに基づいて、IFSにあるファイルへのアクセスが管理できるようになります。IFSとはWindowsと互換のファイルシステムですが、IBM i のライブラリ・ファイルシステムを対象とするオブジェクト・アクセス管理方法が、セキュリティ強化のためにIFSにまで拡大されたというわけです。IBM i が発症することはまずありませんが、Windows同様にIFSがウィルスに感染する可能性は否定できません。ファイルなどの共有によって、他のクライアントにウィルスをばら撒いてしまうリスクはありますので、IFS専用のアンチウィルス・ソフトが不要になったとは言えないでしょう。
  • オブジェクトのリストを返すようなコマンドを投入した時、ユーザーが*EXCLUDE以外の権限を持っていなければ、当該オブジェクトは存在しないものとして処理されます。従来あったはずのオブジェクトが、権限次第では失われてしまったかのように見える可能性があります。

他にも多数あるのですが、重要なのは新バージョンにおける変更内容を正しく把握することです。詳細は「IBM i プログラム資料説明書7.5」のセクション「セキュリティー関連の変更」(ページ18以降)に掲載されていますので、一度目を通してみることをお勧めします。

読む

セキュリティ以外に目立ったのはzlibというデータ圧縮アルゴリズムの採用です。SAVEコマンド投入時に「*ZLIB」オプションを指定すると、従来以上の極めて高い圧縮効果が得られます。Power10プロセッサ上のアクセラレータを利用すると、パフォーマンスへの影響を回避できるとされています。この機能はバージョン7.5だけでなく、7.4 TR6においても提供されます。

OS以外の発表内容にも目を向けてみましょう。

IBM i MerlinはIBM i 向けの新しいDevOps環境、すなわちアプリケーションの開発・品質保証・展開・運用をサポートすることで、そのライフサイクル全体を管理する機能群です。OpenShiftコンテナ上で稼働しますので、構内またはクラウド上のRed Hat Enterprise Linuxが必要になります。アプリケーション開発・運用者はブラウザからMerlinにアクセスして各種の作業を行い、Merlinはネットワーク越しにコンパイラやアプリケーションを搭載するIBM i サーバーにアクセスします。Merlinはいくつかのコンポーネントで構成されています。

アプリケーション開発ツール(IDE: Integrated Development Environment)としてVisual Studio CodeをベースとするChe-Theiaを含んでいます。コンテナ上で稼働するRDi(Rational Development for i)のような製品だと思っていただけると良いでしょう。開発部門がまとめた資料によると、ソースコード・エディターはIBM i のRPG、COBOL、CLなどの言語をサポート、すなわち文法チェックの機能を備えているだけでなく、RPGについてはフリーフォーム形式への変換や、アプリケーションの分析機能も備えているようです。

もう一つの主要コンポーネントはJenkins、すなわちDevOpsの中にあって、CI/CD(Continuous Integration / Continuous Delivery: 継続的インテグレーションと継続的デリバリ―)の自動化を実現するオープンソース製品です。耳慣れない言葉が続きますが、大雑把にはCIとはエンジニアによってバラバラに開発されたプログラムを統合して検証すること、CDはそれを本番環境に展開することです。アプリケーション開発において、プログラミングだけでなくその後の展開に至るまでの、あらゆるプロセスを含めて効率化を追求することを狙っています。

狙う

MerlinとはIBM i に特化したOpenShift上のIDEとCI/CDで構成されるDevOps製品であり、アプリケーション開発プロセスのモダナイゼーションを実現します。Che-TheiaにせよJenkinsにせよ、「生」のままパッケージングされているのではなく、GUIを通じてIBM i のアプリケーション開発に関わる様々な操作が簡単に行えるような作り込みがなされています。IBMがARCAD社との協業によって作り上げた全く新しい製品なので、知名度を高めるためにも開発部門としては洒落た名前を付けたかったそうです。MerlinはModernization Engine foR Lifecycle IntegratioNの略称であると共に、ブリタニア列王史という架空の歴史書に登場する魔術師でもあります。

サブスクリプションというビジネス・モデルが、IBM i コミュニティにも新たに取り入れられようとしています。IBM i サブスクリプションとはサブスクリプション・ライセンスを背景とする新しい料金体系です。これまでは、定められた金額の一括払いを前提に永続ライセンスを得る、というのが通常のビジネスのやり方でした。サブスクリプションにおいては、ライセンス期間を1から5年のどれかに限定する代わりに、期間に応じて減額された金額を一括払いする、といったやり方が選択できるようになります。期間延長といった考え方は無く、必要であれば再度新たにサブスクリプション・ライセンスを発注します。初期コスト低減に役立ちますが、利用期間が長期になる場合はコスト高になる可能性があります。

当初はPower S914 4-コアモデル、すなわちプロセッサ・グループP05のIBM i オペレーティング・システム基本機能のみが対象になります。いずれP30に至るまでの上位モデル、OS以外のライセンス・ソフトウェア、さらにはハードウェアとのバンドリング、といった具合に拡張する意向があると、発表レターの中に述べられています。IBM i はその機能だけでなく、ビジネス・モデルも進化させようとしているのですね。

以上ざっと発表内容を概観してまいりました。試してみたくなる魅力的な機能はありましたでしょうか。もしかしたらIBM i のユーザーにとって新機能以上に重要なのは、システムの将来性かもしれません。これまでホワイトペーパーのページ14に示されていた、「IBM i サポート・ロードマップ」をご覧になったことがあるものと思います。開発部門ではバージョン7.5の発表に伴って、ホワイトペーパーを更新するべく作業を進めています。既存ロードマップ上の「IBM i Next」がIBM i 7.5に書き換わり、より遠い将来を見通すよう時間軸をスライドさせることが期待されます。皆様のビジネスを支えるために、今後も安心してご利用いただけるシステムとしての地位を盤石なものにしつつある、と言えるのではないでしょうか。

ではまた。

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著者プロフィール

パワーシステム・エバンジェリスト

安井 賢克
やすい まさかつ

2017 年 11 月付けで、日本アイ・ビー・エム株式会社パワーシステム製品企画より、ベル・データ株式会社東日本サービス統括部に転籍。日本アイ・ビー・エム在籍時はエバンジェリストとして、IBM i とパワーシステムの優位性をお客様やビジネス・パートナー様に訴求する活動を行うと共に、大学非常勤講師や社会人大学院客員教授として、IT とビジネスの関わり合いを論じる講座を担当しました。ベル・データ移籍後は、エバンジェリストとしての活動を継続しながら、同社のビジネス力強化にも取り組んでいます。

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