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IBMi海外記事2026.01.14

IBMがついにMerlinを終了させた理由

Alex Woodie 著

しばらく前から前兆はありましたが、ついにIBMから正式な発表がありました。10月7日、IBM i 向けテクノロジー リフレッシュの一環で、IBMは、Modernization Engine for Lifecycle Integration(通称Merlin)製品の営業活動およびサポートの即時終了を発表しました。Merlinは、それまでの課題をいくつか改善するなど、意図するところは良かったものの、最終的に欠点を克服できなかった製品としてIBM i の歴史に名を残すこととなるでしょう。

2022年5月 のMerlinの導入は、IBM i でのアプリケーション開発に対するIBMのアプローチが大きく変わったことを表すものでした。それ以前は、IBM i 向けに従来のILEアプリケーションをモダンな手法で開発するほぼ唯一の方法は、Rational Developer for IBM i(RDi)を使用することでした。このJavaベースの統合開発環境(IDE)は、十分に確立され、機能が豊富でしたが、高価であり、速度が遅いという面もありました。IBM i 開発者の大多数はRDiを使用しましたが、SEUやPDMのようなグリーンスクリーン ツールを使い続けようとする開発者もかなりの数でした( 永らくのご愛用に感謝します)。

アプリケーション開発の将来は、軽量でオープンなWebベースのIDEにかかっていると、その当時、IBMの幹部は正しく予測していました。Microsoft社のVisual Studio Codeは、2010年代後半までには、この分野における傑出したIDEとしての地位をすでに確立しています。VS Codeは、同社のフル機能のVisual Studio IDEの、無償で(大部分が)オープンソースのバージョンであり、様々な開発ツール、言語、およびランタイム向けの何千ものサポート済みライブラリーおよびプラグインを備えていたことから、コミュニティによって広く採用されることとなりました。比較的新しいIDEであったため、VS Codeは、コンテナやマイクロサービスを介したアプリケーションのクラウドネイティブなデプロイメントだけでなく、GitやJenkinsのようなDevOps手法およびテクノロジーもネイティブにサポートしました。2019年には、すでに何百万ものユーザーによって使用されていました。

IBM i CTOのSteve Will氏は、何もかもがVS Codeを中心にして進んでいるのを目の当たりにして、IBM i にもVS Codeが必要だと考えました。Will氏は、IBM i ユーザー ベースの大部分が、まだレガシーな開発ツールおよび手法に浸りきっているのを目にします。彼らは、フリー フォームRPG IVやSQLのようなより新しい言語を採用するのではなく、SEUを使用して、RPG IIIやレガシーRPG IVおよびDDSコードで開発されたより古いグリーン スクリーン アプリケーションの保守を行っていました。Will氏は、DevOpsテクノロジーや、サポート済みコンテナおよびマイクロサービスと完全に統合された、モダンなフリー フォームRPGアプリケーションを開発するためのオープンな軽量のWebベースの環境を提供できるとしたら、ユーザーは好意的な反応を示すだろうと考えました。

これらは、ルイジアナ州ニューオーリンズのPOWERUp 2022カンファレンスで正式にMerlinを発表したときにIBMが掲げていた大まかな目標でした。しかし、Merlinは1つの単体の製品ではなく、まったく異なるツールおよびテクノロジーの集合体でした。結局のところ、そのことが、Merlinが王国から追放される原因の1つになります。

まず、IBMは、IDEの中核となる要素は、VS Codeそのものではなく、CheおよびTheia(2つのEclipseベースのオープンソース プロジェクト)にすることを決定しました。CheはVS Code開発スペースを再現し、一方、TheiaはIDEを開発するためのツールでした。昨年、IBM i ビジネス アーキテクトのTim Rowe氏が Merlin 2.0のリリースの際にIT Jungle 』に説明したように、IBMがこれらのコンポーネントを選択したのは、当時はVS Codeが完全にオープンソースではなかったからでした。Rowe氏は、MicrosoftがVS Code開発スペースをオープンソース化した後に、IBMはMerlin 2.0でCheの使用を止め、全面的にVS Codeを採用すると述べていましたが、おそらく、その時にはもう手遅れだったようです。

VS Codeのようなコアの上に、IBMは、他のいくつかのツールを組み込みました。IBMは、パートナーの ARCAD Software 社を頼りにして、ソース コード管理向けのGit、および継続的インテグレーション/継続的デプロイメント(CI/CD)パイプライン向けのJenkinsとの統合を提供しました。また、IBMは、Transformerと呼ばれるARCAD社のRPG変換ツールも採用し、Merlinオファリング向けにConverterへと名称を変更しています。ARCAD社とのパートナーシップが 独占契約であった ことから、Merlinの円卓に招かれなかった、一部のIBMの変更管理のビジネス パートナーは不快感を覚えることになりました。

IBMは、Merlinの魔法の鞄の中に、もう1つの魔法を入れました。すなわち、 Red Hat OpenShiftです。Kubernetesが(もちろん)プラットフォームの将来像であったことから、IBMは、MerlinがOpenShift Kubernetesプラットフォーム内のコンテナとしてデプロイされる必要があることとしました。これは、Merlinが別個のLinux環境を必要とすることを意味しました。そしてこれは、クラウドでも、別個のLinuxボックスでも、Power Systemsサーバー上で稼働しているLinux区画でも稼働することができました。しかし、Kubernetesは、IBM i でネイティブに稼働していませんでした。そして、IBM i インストール ベースの一定の部分、特に、これまでモダナイゼーションに抵抗してきたインストール ベース部分で、どの程度機能するかは周知の通りでした(すなわち、うまく機能しません)。

当時のIBM i プロダクト マネージャーのAlison Butterill氏によれば、IBMがOpenShiftをMerlinの構成要素として組み込むこととしたのには2つの理由があったということです。まず、コンテナのおかげでIBMは、「私たちが提供したかった多くのこうした機能をカプセル化し、非常に簡素化されたやり方で管理できるようになった」と 2022年に彼女は述べています。次に、コンテナによって、IBMは「いくつかのOpenShift機能を組み込む」ことが可能になったと彼女は述べます(つまり、IBMは、IBM i のショップにKubernetesを採用させるための手段としてMerlinを利用することにしたということです。それは、もちろんプラットフォームの将来像ですが)。

ざっとまとめると、IBMは、Merlinで多くのことを正しく行いました。IBMは、オープンな軽量のブラウザベースのIDEが、今後の開発者にとって望ましい環境となることを正しく見極めています。また、DevOpsツールおよび手法への移行は、モダンなビジネス プラットフォームにとって選択の余地がないことについても正しく見極めました。これらは、Merlinを成功させることができた要素です。

しかし、IBMは、Merlinに関して、いくつか判断ミスを犯しています。そして、その判断ミスが最終的に転落の原因となりました。IBMは、オープンソースおよびプロプライエタリ オファリングを組み合わせてデプロイし、それらに対してかなりの額の課金を行いました。また、IBMは、当初はVS Codeを選択しませんでしたが、最後になってVS Codeへの転換を試みました。そして、IBMは、変更管理のビジネス パートナーを排除しました。しかし、最悪だったのは、IBMが、IBM i でネイティブにサポートされない(サポートできない)、IBM i のショップにとって戦略的価値を持たないテクノロジー、すなわちKubernetesの採用をIBM i のショップに強制したことでした。

幸いなことに、IBMが必死になってMerlinで提供しようと試みたモダンな開発機能は、すべて他の方法によって利用可能です(Kubernetes部分を除く)。VS Codeは、世界で一番人気のIDEの1つになっています。そして、IBMは、オープンソースのCode for IBM i(Code4i)プラグインを通じてVS Codeを完全にサポートしています。

Liam Allan 氏がCode4iを開発したのは、 Seiden Group社でコンサルタントとして仕事をしていた 2021年 のことでした。Merlin 1.0が公開されたわずか6か月後の2022年11月には、プロジェクトが管理されている GitHubリポジトリ からのCode for i のインストール数はすでに10,000回を数えていました。現時点では、Visual Studio Marketplaceの Code for i のページ によれば、このプロジェクトは60,000回を超えるインストール数を誇るということです。

Merlinのインストール数が そのレベルに近付くことは一度もありませんでした 。また、IBM i 開発者の間で一番人気のあるIDEとして、Code4iがRDiを上回っているのはほぼ確実と思われます。2024年末に実施された、 Fortra 社の「2025 IBM i Marketplace Survey 」調査によれば、Code4iのシェアは、RDiに対して1パーセント ポイント差まで迫っていたということです(54%対53%)。これに対して、Merlinのシェアは、前年から1%増加して、2%でした。数か月後、Fortra社から2026年版のIBM i 市場調査の結果が公開されますが、そこでCode4iがRDiを上回っていないとしたら、驚きの結果ということになるでしょう。

IBMは、2022年春にMerlinを公開したわずか数か月後にAllan氏を社員として迎え入れました。Allan氏は、IBMのエンジニアリング リソースをCode4iに向けて集結させる支援をするのに貢献しています。Allan氏を迎え入れて以降、IBMは、Code4iデータベース拡張機能や Code4iテスト拡張機能 (IBM i 7.6 TR1および7.5 TR7で提供開始)などを通じて、Code4iツールセットの構築に相当な額の資金を充ててきました。

IBMが、Code4iをこれらの機能を提供するための最善の手段と見なしているのは明らかです。Merlinは、データベース拡張機能やデバッガーなど、一部のCode4i開発作業による恩恵を受けたかもしれませんが、一方が大成功を収め、他方はそうでないのに、重複する手段を維持する理由はあるのでしょうか。Code4i製品向けの専門家による技術サポート プランが提供開始されたばかりであり、IBMはCode4iからそれほど収入を得られていないかもしれませんが、Code4iは、IBM i 市場が本当に必要としている最新のアプリケーション開発機能を提供しています。それだけで十分ですし、それこそがIBMがする必要があることなのです。

Will氏は、Code4iの圧倒的な成功が、Merlinの開発中止に影響を及ぼしたことを認めています。その一方で、現在Allan氏が取り組んでいる、VS Codeプラグインとして機能することになる、Project Bobというコードネームが付けられた 最新のAI搭載IDEの立ち上げにも関わっています。

「Merlinを終了させる1番の理由は、市場が向かおうとしている分野により効率的に集中するためでした」と、IBM i チーフ アーキテクトおよびDE(ディスティングイッシュド エンジニア)は、先週の『 IT Jungle 』インタビューで述べています。「VS CodeのようなIDEの周りや、私たちがコード アシスタントで向かおうとしている分野では、標準化が行われてきました。そのため、それが本当に主な理由でした。私たちは、まさに今、市場が求めるものに焦点を絞ろうとしているのです。」

IBMのMerlinに関する発表レターは、 こちらでご覧になれます。

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