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IBMiコラム2025.03.26

IBM i のウンチクを語ろう:その105
- ADTSの一部機能の終焉にどう向き合うべきか -

安井 賢克 著

皆さん、こんにちは。いくつかあるIBM製のIBM i 用アプリケーション開発ツールの中で、1988年のAS/400登場以来という最も歴史ある製品は、ADTS(Application Development Toolset)であることはご存知のことと思います。そして5250エミュレータという古いテクノロジーを前提としていることに加えて、製品体系が少々ややこしいこともあり、IBMからの最近の発表が一部誤解されているケースに直面したことがあります。ADTSが近いうちに利用できなくなるということなのですが、部分的には正しいものの、実際にはADTSの全機能が対象になるわけではありません。望ましくないニュースというものは、故意ではないにしても拡大解釈されてしまう傾向があるものなのでしょうか。今回の当コラムの狙いは、IBMの発表内容を見ながら正確な情報を確認すると共に、どのような事実・思惑がその背景にあるのかを考えてみることです。そして最初に結論めいたことを一言述べるならば、ADTSに含まれるPDMとSEUについて、出荷とサポートが終了するという発表・兆候は少なくとも現時点では一切見られません。また、公式な裏付け情報は無いため確実とは言えませんが、安井個人としては、市場に大きな動きが無い限り、この状況は変わらないのではないかと考えています。

早速IBMの発表内容を見てまいりましょう。参照するべき情報は実は二件あり、まず目を向けたいのは、IBMによる2024年5月7日付け発表レター「ソフトウェアの営業活動終了およびサポート終了: IBM i Modernization Engine for Lifecycle Integration (Merlin) 1.0.0、 IBM Rational Developer for i 9.6、および IBM i ポートフォリオのその他の一部の機能」(AD24-0477)です。タイトルが長いばかりでなく様々な内容が盛り込まれているのでわかり難いですが、IBMはIBM i 7.5, 7.4, 7.3, 7.2のADTSに関わる以下機能群のサポートを2025年4月30日付けで終了する、とあるのがポイントです。実質的に現在市場にある全バージョンが対象です。

  • 報告書設計ユーティリティー (RLU)
  • 画面設計機能 (SDA)
  • ファイル比較および組み合わせユーティリティー (FCMU)
  • 拡張プリンター機能 (APF)
  • 文字作成ユーティリティー (CGU)
  • データ・ファイル・ユーティリティー (DFU)

上記の意味するところを正確に理解するために、ここで一旦製品体系を確認しておきましょう。最上位に位置するのが「IBM Rational Development Studio for i」(製品番号: 5770-WDS)という製品です。ここには大きく分けて3種類の機能群、すなわちRPG/400(RPGⅢ)などをサポートするHeritageコンパイラ、固定フォームやフリーフォームRPGをサポートするILEコンパイラ、そして開発ツールであるADTSが含まれます。これらは選択式オプションなので、5770-WDS発注時にどのオプションが必要なのかを指定します。そしてADTSを選択した場合は、下記の全8機能が提供されます。上記リストと対比していただければわかるとおり、RLUからDFUまでの6つの機能は発表レターに記載されていますが、PDMやSEUは記載されていない、すなわちサポート終了対象ではないことがわかります。

  • プログラム開発管理機能 (PDM)
  • 原始ステートメント入力ユーティリティー (SEU)
  • 報告書設計ユーティリティー (RLU)
  • 画面設計機能 (SDA)
  • ファイル比較および組み合わせユーティリティー (FCMU)
  • 拡張プリンター機能 (APF)
  • 文字作成ユーティリティー (CGU)
  • データ・ファイル・ユーティリティー (DFU)

さらにもう一つの発表を見てみましょう。こちらの方は発表レターではなくIBMのWebサイトに掲載されている文書ですので、日本語訳は提供されていません。参照したいのは「Upgrade planning - Future software releases」(安井訳:将来のソフトウェア・リリースに関する、アップグレード計画情報)です。そしてここに「IBM i バージョン7.5は以下機能を提供する最後のリリースです」(安井訳)という記述があります。バージョン7.5の次のリリースにおいて当該機能は提供されない、ということです。以下のとおりADTSに含まれる以下6つの機能もこの対象リストの中にあります。原文は英語なのですが、念のために右端に日本語名称を付記しておきます。

  • Report Layout Utility (RLU): 報告書設計ユーティリティー
  • Screen Design Aid (SDA): 画面設計機能
  • File Compare and Merge Utility (FCMU): ファイル比較および組み合わせユーティリティー
  • Advanced Printer Function (APF): 拡張プリンター機能
  • Character Generator Utility (CGU): 文字作成ユーティリティー
  • Data File Utility (DFU): データ・ファイル・ユーティリティー

先ほど同様に、ADTSの中でPDMとSEUを除く全ての機能が対象に含まれています。PDMとSEUについてはサポートや出荷中止の対象になることを示唆する情報は現時点で一切無い一方で、ADTSの他の6機能は終焉を迎える、ということです。

なお念のためですが、アップグレード計画情報はIBMの計画や方針を表明するものであり、予告無く変更・中止される、または誤りや網羅性に欠ける可能性がある、という定番的な注釈が付きます。この点は通常の発表レターとは位置付けが異なるのですが、だからと言って安井の知る限りにおいて、意向が修正・撤回されたケースを知りません。取り敢えずは額面通りに受け取ってよろしいものと思います。ここまでが事実確認です。

さて、疑い出したら際限がないのですが、古いテクノロジーであることは間違いないのだから、PDMやSEUに関する懸念が払拭されるわけではない、これら機能を今後も継続的にサポート・出荷するという意思表明はどこにもないではないか、という主張も聞いたことがあります。もっともではあるのですが、IBMの発表は何かを実施することを明らかにするためのものであり、実施しないことを主張するためのものではありません。このあたりは致し方無いのかもしれません。

そこでPDMやSEUを巡る状況を考察してみて、漠然とした不安を放置するのではなく、何が言えそうか考えてみたいと思います。ここから先は安井個人の考察です。

まず考えたいのは、ADTSはどのような位置付けにあるツールなのかという点です。最後に機能強化されたのは2008年のバージョン6.1のタイミングでした。この時に以降の機能強化はなされない旨が明らかにされており、以来、今年(2025年)で17年を迎えます。

当時から、オープンソースのEclipseをベースとしてIBM i 用に開発されたもう一つの開発ツール、RDi (Rational Developer for i )は次第にその利用者を拡大しつつあるところでした。Javaで記述されたこのツールは、登場当初は比較的大きな資源量を必要としていたので市場になかなか浸透しませんでしたが、インストール先のPCのスペックが次第に向上するにつれ、懸念は自然に解消されようとしておりました。開発に必要となるエディタ、コンパイラ、デバッガなどが一つのGUIパネルにまとまっており、現在においても継続的に機能強化されています。この時点ではどの世代のRPG言語を採用するべきか、すなわちRPG/400かILE RPGか、どの開発ツールを採用するべきか、すなわちADTSかRDiか、という選択は、相互に影響し合うことなく独立しておりました。

この状況に変化が生じたのは、2013年にILE RPGの機能強化版、すなわちFF RPG(フリーフォームRPG)が登場したことによります。オープン系言語との親和性の高さや、移行ツールが整備されていることから、既存のRPG/400や固定フォームのILE RPGから切り替える動きが次第に出てきます。この時にADTSの中のエディタ(SEU)は機能強化されず、FF RPGの構文を理解できないままでしたので、FF RPGプログラムを開発するためにはRDiを利用しなくてはなりません。さらに2022年のIBM i 7.5と同時に登場したMerlin、その後オープンソースのVSCodeが新たにIBM i 用開発ツールのメンバーとして加わることで、より一層FF RPGへのシフトが明確になります。これらの新しいツールは、RPG/400やILE RPGよりも、FF RPGとの互換性に優れているためです。すなわちFF RPGの浸透は脱ADTSを後押しすることになります。

2025年のFORTRA社による市場調査結果によると、RPG三世代(RPG/400・ILE RPG・FF RPG)の中で、FF RPGをこれからの主力開発言語と位置付けるお客様は74%に達しています。逆に言うと、74%のお客様はADTSを使用しないか、旧来からあるRPG/400・ILE RPGプログラム開発・改修用の補完的なツールとして位置付けることになります。ついでながら、RPG/400は6%、ILE RPGは20%のシェアを占めています。

ADTSの先細り傾向は致し方無さそうですし、サポート体制を維持するのは負担になるはずですので、メーカーとしてはできるだけ速やかに古い製品を市場から一掃したいところかもしれません。万が一サポート期限後に継続的に利用するお客様がいたとしても、製品として安定しているのであれば、実質的な影響は回避できます。上に述べた発表はその意図の現れだと考えられそうです。

では何故PDMとSEUだけが延命されているのでしょう。IBMが市場の状況を見極めた上で決めた施策、混乱を避けようという配慮だと考えています。このあたりを少し見てみたいと思います。

★

先ほど参照した市場調査結果において、利用されている開発ツールのうちADTSのシェアはトップであり、77%に達していると報告されていることに着目したいと思います。先細り傾向にあるはずなのに、過去のデータと比べても脱ADTSのスピードは非常に緩慢であり、現在においても意外なほどに大きなシェアを保っています。そしてADTSとの相性がよろしくないFF RPGのシェア74%と整合しているようには見えません。おそらく多くのお客様では、今後はRDi・Merlin・VSCode のいずれかを利用してFF RPGプログラムを開発する方針だけれども、一部残されている古いRPG/400・ILE RPGプログラムを保守するために同時にADTSも使っている、と考えるべきなのでしょう。だとするならば、少なくとも当面の間はADTSが市場から一掃される可能性は極めて低そうです。参考までに開発ツールのシェア次点はRDi 54%、さらにVS Code 53%と続きます。

先細りであることに間違いは無いし、その傾向を加速させたい(と予想される)一方で、未だに多くのお客様が利用している。これがADTSを取り巻く状況でした。このような時は、最低限の機能を維持しながら、付加的な機能のサポートと出荷を取り止める、という策が順当なのかもしれません。そしてADTSの全8機能の中で、オブジェクト管理のためのPDMとエディタのSEUは特に利用者が多いこともあり最低限必須の機能、それ以外は付加的機能、として位置付けようという判断が、背景にあったのではないかと安井は受け止めています。だとするならば、状況に大きな変化が無い限り、PDMとSEUは現状のまま維持されてゆくはずです。

付加的機能のユーザーはどうするべきか、という次の課題に関しては、iWorldサイト「ADTS 一部機能のサポート終了について」の中のセクション、「代替機能の有無」に委ねたいと思います。機能毎に、代替機能を特定できるもの、環境次第で代替機能が決まるもの、代替機能は無いがそもそも使われていないと考えられるもの、といったようにまとめられています。もし不明点などがある場合は、一度ベル・データの営業にご相談いただければ幸甚です。ただいずれにしても、よりモダンな言語、モダンなツールへの移行を推進いただきたいですし、ADTS(PDMとSEU)の継続利用は止むを得ない場合の限定的な策と見なしていただきたくのが良さそうです。

ではまた

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著者プロフィール

パワーシステム・エバンジェリスト

安井 賢克
やすい まさかつ

2017 年 11 月付けで、日本アイ・ビー・エム株式会社パワーシステム製品企画より、ベル・データ株式会社東日本サービス統括部に転籍。日本アイ・ビー・エム在籍時はエバンジェリストとして、IBM i とパワーシステムの優位性をお客様やビジネス・パートナー様に訴求する活動を行うと共に、大学非常勤講師や社会人大学院客員教授として、IT とビジネスの関わり合いを論じる講座を担当しました。ベル・データ移籍後は、エバンジェリストとしての活動を継続しながら、同社のビジネス力強化にも取り組んでいます。

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