秋のTRがGAとなった今、試してみるべきIBM i の新機能トップ5
今年の秋にIBMがIBM i 7.4および7.5向けのテクノロジー リフレッシュで発表したすべての新機能が、ついに一般利用可能となりました(7.3向けの「TRではない」ステルスTRについても同様です)。12月2日より前にリリースされていたものもありますが、ようやくGA(一般利用可能)となったものがほとんどです。エンタープライズ コンピューティングにとって有用な、実に多くの新機能がダウンロードできるようになっている中で、最初にどれを採用したいと思うでしょうか。
まだクリスマスではないことは分かっています。しかし、これほど多くの新機能があると、最初に何を採用すべきか見極めるのも大変かもしれません。誰にでも、それぞれコンピューティングにおける優先事項があるものですが、どのようなものが進歩を引き起こすのかということについては、私たちなりに思うところがあります。そこで、それを踏まえた上で、ぜひとも今すぐチェックするべきである、2022年秋のTRのIBM i の新機能トップ5を、『 IT Jungle』の公式には非公式のリストとして紹介しようと思います。
1.数々のセキュリティ機能
セキュリティというのは、納得してもらうのが難しいことがあります。結局のところ、皆さんの顧客は、皆さんが顧客の極めて重要な情報を漏洩したり、皆さん自身がハッキングされたりすることはあり得ないと、かねてから信用しきっているはずです。そうした基本的な要件を満たすことは、常に何よりも重要な責務ですが、企業は必ずしも十分に対応できているわけではありません。しかし、7.5 TR1および7.4 TR7の 新たなセキュリティ機能 により、IBMは、サーバーおよびそのデータのセキュリティを確保するための対策を少し講じやすくしています。
セキュリティの機能強化は、IBM i という貨物列車でいくつかの車両にわたって広まっています。IBMの新Navigatorでは監査ジャーナルのサポートが強化され、管理者は、使用するのが安全でない旧Navigatorを使用することなく、ユーザー アクティビティをチェックできるようになります(留意すべきは、IBMは、脆弱性があるバージョンのLog4jが含まれている旧Navのパッチ修正を 行っていませんし、そうする予定もない ということです)。
その他にも、2022年秋のTRでアップグレードされたセキュリティ機能としては、統合Webサービス(IWS)サーバーでの、強化された、よりセキュアなプロトコルの使用があります。また、機微なデータを自己暗号化NVMeドライブに保存しているユーザーは、パスワードを使用して暗号化鍵を保護できるようになりました。さらに、IBMは、Common Cryptographic Architecture(CCA: 共通暗号化アーキテクチャー) Cryptographic Service Provider(CSP: 暗号化サービス プロバイダー)の強化も行なっています。
2.DBにおけるWatson地理空間関数
「何事にも適した時と場所がある」と言います。前者の「時」に関しては、IBMが2016年にDb2 for iに追加したテンポラル表があります。後者の「場所」に関しては、Db2 for i担当ビジネス アーキテクトのScott Forstie氏のチームが7.5 TR1および7.4 TR7で追加した、Watsonグループから導入された新たな地理空間関数があります。
それらの新たな地理空間関数を使用することで、開発者は、地理的データ(すなわち緯度/経度値)や、そうしたデータから作成されたラインおよびポリゴンを使用して、興味深いことを行うことができます。まずは、データベースにユーザー定義の地理空間データを用意する必要があります。その準備ができたら、IBMが提供している49種類の新たな地理空間関数すべてを使い始めることができます。詳細については、 こちらの記事を参照してください。
では、実際にどのようなことができるのでしょうか。まず1つには、2つの地点間の距離を計算して、より正確な配達予定時刻を顧客に提示することができます。また別のリアルタイムでのユース ケースとしては、一定の物理地点の周りにジオフェンスを作成することができます。これは、たとえばデータを発信しているスマートフォンを持ったユーザーがジオフェンスを越えたときに、一定のアクションを自動的に発生させることができるというものです(ただし、必ず、最初にそうしたデータを収集することについて同意を得ておくことが必要です)。
また、たとえば、保険会社が、ある地区での竜巻発生の記録を調査するケースや、コーヒー チェーンが店舗を新設するのに最適な場所を選ぶケース(ブロックごとに出店することもできます。念のため)など、経時的および一括的なユース ケースもあります。
3.Merlin(およびその他のIDE)向けのデバッガー
IBMは、 今年5月にMerlinを発表しましたが、その発表は、IBMの開発ツールに対するアプローチの転換点となりました。唯一のIBM公認の開発環境としてRational Developer for i(RDi)を推進する代わりに、IBMは、軽量な代替製品として、VS CodeをベースとしたWebベースのIDEを推進するようになりました。
ただし、問題が1つありました。Merlin向けのデバッガーがなかったことです。デバッガーなしでのリリースということで、順番が違うという見方もありますが、そうなったのは、Merlinには、 ARCAD Software社提供による統合されたDevOps機能など、他にも重要な側面があったからでした。さらに、IBMは、公式のIBM i Debugger向けの 使えるプラグインがある と述べていました。これは、Rational Development Studio for i(RDS)を介して提供されるILE言語コンパイラーで使用されており、Merlinで動作するものでした。
そのプラグインが、7.5 TR1および7.4 TR7で公式に利用可能となりました。これにより、開発者は、Merlinを使用してILEプログラムを書くだけでなく、それらをデバッグすることもできるようになります。しかし、別の面もあります。デバッガーを切り離すことで、 Microsoft社のVS Code上に構築された多くのものも含め、他のIDEをIBM i で使用することにも門戸が開かれます。すぐに思い浮かぶのは、Code for IBM i です。これは、現在はIBMの一員となっているLiam Allan氏によるオープンソース オファリングであり、 ますます人気上昇中 です。
4.データベースおよびSQLのアップデート
どのテクノロジー リフレッシュにも、データベースおよびそのSQL機能に対するアップデートはいくつか組み込まれています。そして、IBM i 7.5 TR1および7.4 TR7も例外ではありません。実際、Forstie氏が数えたところでは、最新リリースでは新たに30種類のSQLサービスが追加され、15種類以上のサービスが機能強化されているということです。「すべてのユーザーにとって何かががあります」と彼は述べています。
今回のTRを振り返ってみて、Forstie氏は、SELF(SQL Error Logging Facility: SQLエラー ロギング機能)を、最新アップグレード サイクルの目玉の1つとみなしているようです。SELFは、SQLステートメントでどのエラーまたは警告が発生しているかに関する詳細情報を捕捉するためのデータベース メカニズムを提供し、従来のSQL Performance Monitorの代わりとして使用できると彼は述べています。
データベース エンジニアは、たいてい、データに関して自分で作業するのを好みます。7.5 TR1および7.4 TR7では、データベース エンジニアは、ふさわしい名前が付けられた新たなQSYS2.REPLICATION_OVERRIDE関数によって、余分な多くの作業を行うようデータベースに要求することなく、SQLを使用してデータベースで行を手作業で移動することができます。その他にも新たな機能および関数が多数あります。詳細については、 こちらの記事 を参照してください。
5.RDiとRPG
厳密に言えばIBM i の一部ではありませんが、IBMは、TR向けと同じ通例のリリース スケジュールで、RDi向けの機能強化およびアップデートをパッケージして提供しています。RDiの最新リリースでIBMは、TRで提供されるRDSのRPGコンパイラーに対する機能強化に加えて、IBMのフル機能を備えたIDEに信頼を置いているILE開発者が喜びそうな新機能を提供しています。
IBMがRDi 9.6.0.12で リリースする 機能強化には、CRTPGMおよびCRTSRVPGMで生成されるコンパイラー エラーのサポートがあります。また、新たなRPG機能のサポート(後述)や、JTOpen 11.0およびJava 8 JVMのサポートも追加されています。
また、RDiユーザーは、サブルーチンおよびプロシージャー向けの新たなLPEXフィルター、コンテキスト アシストおよびデフォルト挿入モードに関する2つの設定オプションの変更、アウトライン モードでの新たなLeft Hand Indicators、レコード フォーマットに対するホバー テキストでのファイル名の表示、およびその他のいくつかの機能強化を利用できるようになります。
また、IBMは、RDSを通じて、RPG言語そのものにも、いくつかの新機能を提供しています。新たなストリング操作機能や、ストリングを処理するための新たな組み込み関数(BIF)もあります。また、ストリングまたはポインター パラメーターの新たなプロトタイプパラメーター オプションもあります。
では、10月前半に発表された新機能のうち、まだ利用可能となっていないものは何でしょうか。それは、ソフトウェアベースのハイ アベイラビリティー製品、PowerHA SystemMirror for iのアップデートですが、もちろんこれは予定通りのことです。