Samsung社がチップを製造してファウンドリーも運営することは、IBMにとっては幸いなこと
IBMは、過去数十年にわたって、莫大な金額(優に数千億ドル、2022年インフレ調整済みドル換算)を投資して、シリコン ウエハーにトランジスタをエッチングし、それらをIBMや他の企業が商用および消費者製品で使用するチップへパッケージングする賢明な方法を模索してきました。そのビジネスは、衰退するまさにその瞬間まではなかなかのビジネスでした。うまくいかなくなった理由は主に、IBMのチップの生産量がますます少なくなっていったのに加えて、より小さいトランジスタを作成し続けるコストがますます高くなっていったからでした。
そのため、2014年にIBMは、テープ アウト(tape out)する代わりにタップ アウト(tap out: 降参)して、GlobalFoundries社に15億ドルを支払ってMicroelectronicsチップ製造事業を引き継いでもらい、すでに出荷していた22ナノメートルPower8チップの製造を続けました。これは、Power9チップ向けにすでに開発していた14ナノメートル プロセスを完成させ、Powerチップ向けの10ナノメートル極端紫外線(EUV)チップ エッチングの開発を引き継ぐためでした。
皆さんご承知の通り、そううまくはいきませんでした。IBMが 2021年6月にGlobalFoundries社に対する訴訟で明らかにしたように、GlobalFoundries社は10ナノメートルEUVプロセスを完成させることができず(Intel社もできないようであるのと同様)、遅延していたPower10チップを7ナノメートルEUVプロセスへ移行することを試みました。その後、2018年8月に、同社はすべてをご破算にして、すでに取り組んでいた12ナノメートルおよびより大きなジオメトリーに注力すると発表しました(付け加えれば、IBMの助けを借りて完成させています)。このことで、IBMのみならず、AMD社も痛手を負います。ただし、AMD社にとっては幸いなことに、同社はすでに、グラフィックス カード ビジネスによって世界最大のファウンドリーとなったTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co)社のパートナーでした。IBMは、Samsung社との半導体プロセス開発パートナーであり(AMD社およびNvidia社と同様)、Samsung社は、ファウンドリーをスマートフォンおよびタブレット向けのチップ製造からサーバー チップ製造へと一段階引き上げようとしていました。これは、おそらくは、Armサーバー チップの市場への参入にかこつけて、あるいは、少なくとも、Ampere Computing社、Amazon Web Services社、Alibaba社、およびHiSilicon社(いずれもArmサーバー チップを製造)の仲間に入るためだったと思われます。
しかし、こうしたことは、IBM i のショップにとって直接的にはまったく関係ありません。IBM i のショップにとって大事なのは、IBMにはSamsung社という安定したファウンドリー パートナーがいるということであり、歴史が参考になるのなら、Power11、Power12、およびPower13プロセッサーが登場する、次の10年へと伸びているプロセスおよびパッケージングのロードマップがあるということです。
Powerプロセッサーの歴史が将来の参考になるかどうかは議論が分かれるため、また別の日の別の記事のテーマとしようと思います。
重要なのは、Samsung社がCPUおよびメモリー メーカーだということであり、同社にはすでに、クライアント デバイスより少しだけさらに堅牢なトランジスタを必要とするサーバー チップ向けに微調整できる、成熟した7ナノメートル プロセス(7LPP)および成熟した5ナノメートル プロセス(SF5E)があるということです。Samsung社は、4ナノメートル、2ナノメートル、および1.4ナノメートル プロセス技術を視野に入れて事業を進めており、IBMは、トランジスタおよびパッケージングにおけるかなりの専門知識を提供して支援しながら付き添うことになります。Microelectronics部門の売却の前後にIBMがGlobalFoundries社で行ったのと同様です。もちろん、対価はあります。IBMが無償で何かを行うことはありませんでした。IBMは、将来のチップにどのようなプロセスを使用するかについて述べていません。1年半程前、たとえば5ナノメートル プロセスを使用して、ソケット互換のPower10+を作ってみるように私たちはIBMに強く勧めていましたが、IBMが私たちのアイデアに耳を傾けてくれるかどうかは大いに疑問です。
Power11がデザイン ブックに載っていることは分かっており、IBMがPower11まで待つとしても驚きではないでしょう。これはおそらく、シングル ソケットでの、実質的には4つの16コアPower10チップであるもののデュアル チップ実装となるでしょう。Power10はすでに、全部で16コアのうちの1~12コアがアクティベートされる、デュアル チップ モジュールであることを思い出してください。そして、5ナノメートルへのシュリンクを行うことによって、IBMはおそらくコアを倍増することができ、それによって、Power Systemsマシンのスループットをほぼ2倍にすることができるでしょう。おそらくクロック スピードは、適切な熱設計ポイントに留まるためには、当然、多少下げなければならないでしょう。おそらくPower11では、何らかのマイクロアーキテクチャーの改良がなされるでしょう。また、整数、ベクトル、および行列演算でのクロック当たりの処理命令数(IPC)を向上させるのに十分な程度の変更もなされるかもしれません。IPCの向上とクロック スピード低下でバランスを取ることで、ソケット当たりのスループットを2倍以上向上させることができるでしょう。いずれ分かることです。
Samsung社は、ゲートオールアラウンド(GAA)ナノシート3Dトランジスタ デザインを採用した、同社の3ナノメートルSF3プロセス ファミリーが複数のテープアウトで使用され、5ナノメートルSF5Eプロセスに比べて50%少ない電力消費、30%少ない面積で、トランジスタ パフォーマンス30%向上を実現したと発表したところです。
先週の技術フォーラム イベントでSamsung社は、モバイル プロセッサー向けに使用されている、同社の4ナノメートルSF4Eプロセスの改良についても述べています。これは、元になっているベースSF4Eプロセスに比べて25%高いパフォーマンスを実現する、同社が「HPCアプリケーション」と呼んでいるもの向けの新たなSF4Xプロセスによるものです。このSF4プロセスは中間のノードであり、当初、Nvidia社の現行の「Hopper」GH100 GPUおよび将来の「Grace」ArmサーバーCPU向けに作成されたTSMC社のカスタム4Nプロセスと同様です。これはTSMC社の5ナノメートルおよび3ナノメートル プロセスの間に位置します。
このSamsung SF4Xプロセスは将来のPower10+またはPower11チップでも使用できるでしょうが、どの先端プロセスも、特にEUV技術を使用しているものは、コストがより掛かることを思い出す必要があります。ここ数年IBMは、プロセスについては、成熟度とコストの低さを見比べつつ、少し手控えようとしてきましたが、変わっていないようです。しかし、Samsung社は、SF4プロセスは、SF5プロセスに比べて欠陥密度が低く、ランプ アップが速いため、将来のPower10+またはPower11チップにとってのより優れた選択肢になるかもしれないと述べています。
先週のSamsung Foundry ForumでSamsung社は、2027年までに先端プロセス ノードの生産能力を3倍に拡大する予定であり、また、2025年までに2ナノメートル製造および2027年までに1.4ナノメートル プロセスの量産を目指すとも述べています(Samsung社は、Intel社が取り組んでおり、18Aと呼んでいる1.8ナノメートル ノードをスキップする可能性もあるようです)。これらの先端ノードは、TSMC社およびIntel社(今日、世界に先端ファウンドリーは他にはありませんが)の同じようなプロセスがそうするのと同様に、GAAナノシート デザインを使用するでしょう。また、Samsung社は、同社の2Dおよび3Dパッケージング技術についてもより積極的になりつつあり、AMD社が現行の「Milan-X」Epyc 7003および将来の「Genoa-X」Epyc 9000でそうしているように、IBMがPowerチップに垂直キャッシュを搭載するのを目にするとしても驚きはないでしょう。
また、Samsung社は、非モバイル チップ(いわゆる自動車用チップおよびHPCチップ。IBM Power CPUは後者に含まれる)が、2027年までに同社の「ファウンドリー ポートフォリオ」の50%を超えるだろうとも述べています。これは、ウエハーまたはチップ数ではなく、顧客数およびデザイン数のように思われます。しかし、それは、5年前の数字、あるいは現在の数字と比べても、はるかに多いものになります。
ここで重要なのは、Samsung社は、IBMのような顧客のために尽力しており、GlobalFoundries社が断念したPowerおよびSystem zチップ ビジネスを獲得してイケイケな状態だということです。他方、IBMはと言えば、Power CPUラインでもっと攻めの姿勢を取りたければ、IBMには選択肢があります。IBMは攻めるというムードのようには思われませんし、データセンターでも、実に保守的な姿勢のようです。Powerエコシステムを拡大し、そうしたエコシステムおよびそのアーキテクチャーの維持拡大のコストを担ってもらえるパートナーを見つけることを目指したOpenPower Consortiumで、望ましい効果が得られなかったこともあるのかもしれません。