待望のPower9搭載のIBM i
IBM iの大多数の顧客にとって、Power9の発表で一番重要な出来事が起こりました。ついにIBMがPower9ベースの「ZZ」システムを発表しました(その話を耳にするようになってもう数か月になります)。それらは、Power S914、Power S922、およびPower S924サーバーとして提供されることになります。
それらは、ZZデザインをベースにした6つのモデルのマシンのうちの3つのモデルであり、何の制約もなくIBM iを稼働できるのはこれら3つのモデルのみです。他の2つのモデル(Power H922およびPower H924)は、Linux上でSAPのHANAインメモリー データベースを稼働することを明確に意図して作られたものですが、それらの総合能力の25%も使えばAIXまたはIBM iをサポートすることも可能です。ZZマザーボードをベースにしたモデルの6つ目はPower L922と呼ばれ、名前から分かるように、ベースとなったPower S922プラットフォームのLinux専用バリアントであり、PowerVMを稼働させますが、OpenKVMハイパーバイザーまたはOpenPower Foundationの後援を受けてIBMおよびGoogleによって開発されたOPALマイクロコードは稼働させません。
下図は、Power9スケール アウト ファミリーの新たな6つのモデルのマシンの基本的な性能データを示しています。
上記のスケール アウト ファミリーの一覧図は、もちろんすべてを網羅しているものではありません。IBMが、HPCおよびAIワークロード向けのIBMのフラッグシップ ハイブリッドCPU-GPUマシンとして、すでに12月に発表している「Newell」Power AC922が載っていません。また、上記のファミリー一覧に載っていないスケール アウト モデルはこの他にもあります。たとえば、「Boston」Linux専用システムをベースにした今後登場予定のマシンなどがそれです。オープンソース データベース、ハイパーコンバージド ストレージ、HadoopおよびSpark、およびRedisおよびMemcachedのようなキー/値ストアなど、多種多様なワークロード向けのシステムであり、第2四半期に登場予定とされています。Bostonシステムは、プロセッサーやI/Oなど、様々な点でNewellおよびZZマシンとは異なります(これについては鋭意取材中です)。IBM iのショップにとって重要なのは、このボックスは最も多くのショップがメインのデータベースおよびアプリケーション エンジンとして導入することができることが明らかになった点です。4ソケット以上のPower7、Power7+、およびPower8マシンのIBM iのショップは、「Zeppelin」および「Fleetwood」Power9 NUMAマシンが発売される第3四半期まで待つ必要がありそうです。
そうなれば、Power9ファミリーの一覧図が完成します。今からおそらく18~24か月のうちにはPower9+世代も登場するでしょう。そして、うまくいけば、ニューヨーク州マルタのGlobalFoundries社の工場からPower10チップが出荷されるのを目にするのに4年は掛からないかもしれません(先週、私は珍しく同社を訪問しました。その模様は後日、『The Four Hundred』の記事でお伝えする予定です)。もっとも、私はPower10の登場までには少なくとも3年は掛かると思っています。それまでには、Suzhou PowerCore社あるいは別の中国のチップ メーカー製のPower9バリアントが出現するかもしれませんが、裁判で命じられでもしない限り、IBMがそれらのメーカーにIBM iまたはAIXをライセンスする可能性は極めて低いでしょう。不可能と言ってもよいと思います。
そうでした。Power9マシンは出荷さえまだでした。それなのにPower9+とPower10が気になっています。やはり、私の性分なのでしょう。
ZZプラットフォームについて、そして前身のPower8と比べてどう違うかということについて少し話してみましょう(IBM iまたはAIXを稼働するPower8+マシンはありませんでしたが、Linuxを稼働するPower8+マシンは1モデルだけありました。それは「Minksy」Power S822LC for HPCで、実際のところ、Power9およびVolta GPUアクセラレーターをベースにしたPower AC922のためのPOC(概念実証)でした)。
フォームファクター:
一番分かりやすいことは、フォーム ファクターが基本的に同じであるということです。1または2プロセッサー ソケット、1Uまたは2Uラックマウント シャーシのバリアントがあります。Power S924はタワー構成です。これは小規模のIBM iのショップにとって大事な点です。
演算能力:
2種類のPower9チップがあり、それぞれに2つの異なるアーキテクチャー オプションがあります。「Nimbus」Power9チップは、1ソケットまたは2ソケット マシン向けであり、チップ上の利用可能なI/Oのすべてが、PCI-Express 3.0、PCI-Express 4.0、CAPI、OpenCAPI、またはNVLinkバスに割り当てられます。4ソケット以上のマシン向けである「Cumulus」Power9バリアントでは、そのI/Oの一部は、プロセッサーを連結させ、プロセッサー コンプレックス全体でそれらのメモリーを共有するNUMAリンクに使用されます(IBMはこれをどうしてもSMP(対称型マルチプロセッシング)と呼ぼうとしていますが、それは間違っています)。
それぞれの種類ごとに、コア当たり4スレッドのスキニー コア(いわゆるSMT4(同時マルチスレッドの略))と、コア当たり8スレッドのファット コア(いわゆるSMT8)があります。Power7、Power7+、Power8、およびPower8+プロセッサーはすべてデフォルトでSMT8であり、それらは、オンザフライでスレッド モデルを変更できました。2016年8月の記事で詳述したように、Power9チップについては、OPAL/OpenKVMスタックを持つLinuxコミュニティは、コア数が多く、SMTが少ない方を求めるとIBMは判断したため、これらのNimbusおよびCumulusチップのバリアントは、1つのダイにつき最大24コアを持つことになります。一方、PowerVM陣営は、コア当たりでの価格設定になっていることの多いソフトウェア コストをなるべく抑えるために、スレッディングが多く、コア数の少ないファットなコアを求めました。Cumulusチップは、Power7~Power8+マシンと同様に、バッファード メモリーをサポートしますが、Nimbusチップは、X86業界のほとんど(ほぼ終わりを迎えているハイエンドのXeon E7プロセッサーを除く)と同じように、標準的なアンバッファード メモリーを使用できます。
IBMがZZシステムで提供しているPower9チップは、4、8、10、または12コアのPower9チップであり、クロック スピードは、10コア タイプのチップでの2.9GHz(最低)から、8コア タイプのチップでの4GHz(最高)まで様々です。Power9チップでは、190ワット、225ワット、または300ワットのパワー エンベロープのプロセッサー オプションを広く組み合わせることができます。IBMから提供された資料から、これらすべてがどうまとまるのかはまだ明らかでありませんが、そのうち分かってくるのでしょう。もうひとつ腑に落ちないのは、IBMはチップごとに最大クロック スピード範囲を設定しようとしており、その理由として、Power9チップには自動周波数ターボ ブースト機能が搭載されているからだと述べている点です。この機能は、それぞれのワークロードに合わせてできる限りクロックを上げようとし、動作しながら、チップ本体の電力バジェットの範囲内で、または必要なら周囲の環境に合わせて処理を完了できるように自動的に調整するものだからです。
我々が言えることは次のことです。Cognitive Systems部門のバイス プレジデント兼オファリング マネージャーにして、Powerハードウェアの生き字引であるSteve Sibley氏と、Power Systems開発およびOpenPower Foundationの指揮を執ってきたIBMフェローのBrad McCredie氏は、以前に聞いていたように、ZZシステムの各種バリエーション モデルのすべてを対象とした、IBM i Commercial Performance Workload(CPW)およびAIX Relative Performance(rPerf)ベンチマーク テストの結果は、2月27日まで待たなければならないと述べました。しかし、一般的に言えば、初期テストの結果に基づいて、Power8システムから同系統のPower9システムへ移行するにあたって、およそ30%~50%のパフォーマンスの向上を顧客は期待するはずです。
メモリー:
ZZシステムは、1ソケットにつき8つのメモリー コントローラーを持ち、それらはPower9チップ上に配置されています。DDR4メモリーの最大2つのチャンネルがそれぞれのコントローラーと接続することができます。IBMは、性能ニーズおよびボックスのサーマル エンベロープに応じて、2.13GHz、2.4GHz、および2.67GHzで動作する、16GB、32GB、64GB、および128GBの容量のメモリーを提供しています。計算してみると、128GBのメモリー スティックを使用すれば、1ソケットにつき2TBということになります。これは、AMDの「Naples」Epycサーバー プロセッサーと同等であり、1ソケットにつき最大1.5TBのIntelの「Skylake」Xeon SPチップを上回ります。IBMは、メモリー帯域幅でXeon SPと比較して約2倍のメリットを提供します。そのことが、はるかに高価なバッファード メモリーを捨てても太刀打ちできている理由の1つです。
I/Oおよびストレージ:
新たなPower9マシンは、様々な容量の2.5インチ ディスクおよびフラッシュ ドライブを搭載でき、一部のフラッシュ ドライブは、PCI Expressポートを介したNVM-Express直接接続をサポートすることが可能です。NVM-Express接続は、オペレーティング システム カーネルおよびI/Oスタックをバイパスしてコンピュート コンプレックスとより直接にやり取りすることで、フラッシュ デバイスのスループットを劇的に向上させ、レイテンシーを短縮します。このようなNVM-Expressフラッシュ ドライブはかなり高価ですが、パフォーマンスからするとそれだけの価値はあり、どのサーバー メーカーも採用するようになっています。唯一、厄介なのは、フラッシュの価格がメイン メモリー価格同様、この1年半で急騰したことであり、メモリー メーカー(特にMicron/IntelおよびSamsung)は急いで増産して価格を下落させるようなことはしません。彼らは、今この瞬間もがっぽり稼いでいるのです。
ZZシステムには、一群の普通のI/O拡張ドロワーと、メイン システム シャーシに繋がるディスクおよびフラッシュ拡張ドロワーがあります。これまでと同様に、ローエンド マシン(この場合、Power S914)には、4コアのバリアントがあります。メモリーは64GBのみでI/O拡張のない、小規模のP05クラスのIBM iのショップを狙いとしたマシンです。このニュースレターの今後の記事で、このマシンが、Power S812 Mini(IBMが昨年のバレンタイン デーにIBM iのショップ向けにアナウンスしたシングルコア マシン)やPower S814と比べてどうなのか見てみる予定です。IBMでは、Power S812 Miniの販売は2019年まで続けるとしているため、お探しの場合でもまだ心配ありません。
価格設定:
Power Systems事業が苦境にあるときは、IBMは、優位にある市場分野に比べ、後追いしている市場ではコンポーネントの価格を低めに設定します。AS/400とRS/6000の統合の初めの頃には、IBMは、AS/400フィーチャーに対しては、RS/6000フィーチャーに比べてかなり高めの価格を設定していました。そして、あれこれ酷評された結果、IBMはフィーチャーとその価格を統合しました。その後、Linuxワークロードを狙ったときには、IBM iおよびAIXでは高めの価格設定になっており、Linuxシステムでの同じフィーチャーの価格は低めに設定されました。
PowerVMを基盤とする3つのオペレーティング システムすべてにまたがっているPower9 ZZシステムにおいては、IBMは、メモリー、ディスク、フラッシュ、およびI/Oフィーチャーの価格を、製品ライン間で差が出ないように設定しようとしているようです。このことは、Linuxの顧客に向けた価格を高くすることを意味するのではなく、IBM iおよびAIXの顧客に向けた価格を安くすることを意味しています。いかほどなのかは現時点では分かりません。また、IBMはすべてのPower9プロセッサー フィーチャー カードのコアをすべてアクティベートしています。同様に、システムに搭載されているすべてのメモリーもアクティベートしています。コアのアクティベーションも必要なければ、1GBのメモリー チャンクのアクティベーションも必要なくなります。これでずっとシンプルになったとSibley氏は述べます。その通りです。けれども、このことは、顧客にとっては初期支出がおそらくは多くなるということも意味します。アクティベートされていないために料金は発生していない潜在的なキャパシティーといったものもないからです。うまくいけば、正味の価格としては安くなるかもしれません。時が来たら、分かるでしょう。
費用対効果:
ごく一般的に言って、AIXまたはLinuxを稼働するPower9ZZマシンがもたらす費用対効果は、前身のPower8に比べて20%~30%程度高いはずだ、とSibley氏は述べます。これには、構成済みのハードウェア システムおよびオペレーティング システムのコストが含まれ、また、現在、Power9マシンにPowerVMが無償で組み込まれていという事実も含まれています。IBM iでは、組み込みのリレーショナル データベース管理システムが含まれているため、そのような価格性能比は多少低くなります。そして、このコストは基礎となるハードウェアのコストより高くなることもよくあります。
スロット、ワット、仕様データ、価格、いった様々なデータを集めた上で、分析しいろいろと計算を行ってみるつもりです。その結果については、今後の記事に乞うご期待。