無理なWindowsへのマイグレーションは失敗のもと
IBM iからWindowsへのマイグレーションを決める際に、入念な計画を立てている企業はほとんどないようです。これは、経営陣が現在保有しているシステムについて理解しておらず、またそのシステムがどのように機能しているか、あるいは新たなシステムの導入に伴い、どのような事態が起こるのかについて理解していないことに起因しています。急いで下した決断により、多大の犠牲を払うはめになることがあります。数十万ドルが無駄になってしまいます。
先日、LinkedInに投稿したブログでBob Losey氏は、そのようなマイグレーションに対して、そしてそれらの多くがなぜうまくいかないかという点に対して批判的なまなざしを向けています。
『IT Jungle』では、先週、電話インタビューを行い、Losey氏にこのブログのトピックについて詳しく話を聞かせてもらいました。このトピックは、LinkedInの1,000人以上の読者に加えて、ソーシャル メディア サイトのGoogle+への投稿により、数知れないほどの読者の注目を集めたようです。
彼のマイグレーションに対する物の見方は、20年以上の間、IBMミッドレンジのユーザーと話をしてきたことを通じて育まれたものです。Losey氏は、1979年に自身の会社、Source Data Products社を設立して以来、ずっとIBM i市場に携わってきました。彼は、1990年代半ばに様々な理由によってAS/400プラットフォームから離れていく企業の不平や不満を聞き始めました。
Source Data Products社は、ハードウェア、ソフトウェア、およびコンサルティング サービスを専門としているIBMビジネス・パートナーです。同社はまた、IBMのほか、MicrosoftおよびOracleソフトウェアも販売しています。 Losey氏の頭の中には、IBM iのERPマイグレーションが暗礁に乗り上げてしまう様々な理由のリストがあります。ERPがソフトウェア ベンダー製か、自社製かは関係ありません。マイグレーションを行うという判断は、ベースになっている考えはたいていが浅薄であり、マイグレーションがどれくらい迅速にかつ安価で実現できるかという点に関してはひどく楽観的です。
「経営陣レベルでは、その複雑さは理解されません」と彼は述べます。「すべてのサブシステムがどのように組み合されているか理解する気はないのです。」
管理者および権限の強いユーザーが彼らのアプリケーションを深く理解するために時間を割いていない、と彼は続けます。彼らはトランザクションを理解していません。代わりとなるシステムに目を向けても、フィールドやファイルに注意を向けません。そのため、彼らは1つのシステムから別のシステムへデータをうまく変換できないかもしれません。
これはほんの序の口に過ぎません。
多くの実例において、冗長になっているファイルが存在します。テンポラリー ファイルは頻繁にパーマネント ファイルを更新しています。そして、マイグレーションは、パーマネント データがどこに位置しているか把握してしないかもしれません。そのため、1つのシステムから別のシステムへデータをマッピングするプロセスで、間違ったファイルからデータが取り出されてしまうこともあります。
GUIやグリーン スクリーンに着目すれば、既存のシステムでカスタマイズされている機能に注意を払わずにいて、サブシステムを移植できず、IBM iプラットフォームからのマイグレーションが完了できなくなっている例をいくつか見てきたとLosey氏は述べます。「サブシステムをスクラッチから書き起こすのは費用が掛かり過ぎ、新しいシステムはこうしたプログラムを変換してくれません。それが10年続くこともあり得るのです」と彼は述べます。この問題は、しばしばマイグレーション支持者を驚かせることになります。「計画不足、統合不足、および業務理解の不足が原因であり、それらすべてが実装作業の長期化や予算超過のもととなるわけです。」
Losey氏のブログによると、IBM i プラットフォームに留まる場合と比較して、Windowsへのマイグレーションを実施すると、ソフトウェア、ハードウェア、インフラ、および人員に5~6倍多くの費用が掛かってしまうそうです。
この点については、何も行わないコスト、あるいはエンドユーザーの期待に応えるために既存のシステムをアップグレードするコストなど、考慮すべき多くの要因があるため、はっきりさせるのはかなり難しいものがあります。しかし、Windows環境を管理するのにはより多くの人員が必要となる、というLosey氏の指摘はその通りです。スケール アウト システムは、スケール アップ システムに比べてより多くの人員を必要とし、システム自動化の機能は、その差は狭まりつつあるも、IBM iプラットフォームの方がまだまだ優れているからです。その一方で、IBM iの管理スキルを持つ人材は、見つけるのが難しく、見つかっても給与は高額になりがちのようです。
IBM iのスキルが退職によって失われつつあることは彼も認めるところですが、それが終末へ向かうシナリオというわけではありません。
「iプラットフォームで働いている30代および40代の優秀な人材はまだまだたくさんいます」と彼は述べます。「経営陣はどこに目を向ければよいか分かっていないこともあると私は思います。」
Windowsへのマイグレーションでは投資対効果が得られないということの裏付けとしてLosey氏は、マイグレーションを決める過程で、Windowsサーバーでは、買掛金勘定、棚卸し、購買といった項目用のサーバーごとにERPアプリケーションを分割する必要が生じるといった要素が軽視される点を指摘します。そうすることにより、サーバー ファームの複雑性は増し、クライアント サーバー ネットワークはより複雑化していきます。
Losey氏はブログの最後をコンサルタントの友人の言葉で締めくくっています。それによれば、Windowsへのマイグレーションを防ぐ方策は、現システムに留まることで避けられる問題や、節約できる費用について経営陣を教育することから始まる、ということのようです。
Windowsを支持する傾向は抑えられないでしょうし、Losey氏がマイグレーションを後押ししているわけではありませんが、なかには企業にとって有意義なマイグレーションもあります。しかし、より正確に期間や費用を見積もり、マイグレーションに伴い実際にどのような事態が起こるのか理解を深めることで、大惨事になりかねない型にはまった決断を頓挫させることができるかもしれません。
Losey氏のブログの記事、「Where Is The ROI To Leave IBM i In Favor Of Another Platform?(IBM iから他のプラットフォームへの移行時にROIを考慮しているか?)」は、ここ(here)で読むことができます。