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IBMiコラム2025.01.29

IBM i のウンチクを語ろう:その103
- 若手技術者が活性化するIBM i の将来 ~ IBM i RiSING -

安井 賢克 著

皆さん、こんにちは。皆さんの企業でIBM i に関わっている方の年代は、概ねどのあたりにあるでしょうか。ベテランが主力となっていて、引退時期が近づいているためにIBM i の次世代要員確保は待ったなしの状況にある方もいらっしゃるかもしれません。世代交代を図るために若手を指名してはみたものの、ご自身が必ずしもIBM i の進歩に追随できているわけではないとしたら、どのようにして若手に最新テクノロジーを教えたら良いのか迷われるケースもあるでしょう。若手の方にとっても、元々要員数が少ないため「孤独」の中でIBM i を学ぶとしたら、技術力向上も心もとないのではないでしょうか。何かを学ぶのに同じ境遇の仲間と共に切磋琢磨できる環境は、継続的な動機付けと学習効率の観点から、欠かすことのできないものなのだと思います。

メーカーであるIBMもこのような課題を認識し解決するべく、次世代エンジニアを対象に、昨年よりIBM i RiSINGというコミュニティ活動を主宰しています。通常のセミナーとは異なり、参加者自ら選んだテーマに基づいていくつかのチームを作り、チーム毎の自主的な活動によって成果物を作り出すことを目指します。昨年は74名の若手が参加し、その成果物をQiitaに公開しています。約半年間の業務の合間を縫った自主的活動を通じて、最新テクノロジーを学び成果物を産み出すに至ったのは、切磋琢磨する環境に加えて若手ゆえの習得の速さと柔軟性の成せる業ではないでしょうか。成果物に是非一度目を通してみることをお勧めします。

確認

選定テーマとして目立つのは、生成AIやオープンソースの開発ツールVSCodeの利用など、最新テクノロジーを取り上げている点です。実験的なレベルに留まっているとか、機能の追求の仕方が足りないといった指摘を受ける可能性はあるのかもしれませんが、先行する機能との比較をしながらも、必ずしもそれらに囚われること無く新テクノロジーを検証している点は素晴らしいと思います。長年にわたって慣れ親しんだテクノロジーがあると、どうしてもそれが判断の基準になってしまい、後継テクノロジーの足りない点ばかりを強調しがちです。若手主体のコミュニティであるためか、どちらか一方へのこだわりは無く、極めて中立的である印象があります。新しいテクノロジーに触れる時の、あるべき姿勢なのではないかと思いました。

IT現場で実際に使い物になるかならないかわからない、登場したばかりのテクノロジーにも積極的にチャレンジした様子がうかがえます。試してみたけれども期待通りの結果が得られなかったケースも成果物には記載されています。失敗事例というのは意外に役立つものです。そしてIBM i の基幹業務システムの世界に長年身を置くと、どうしても安定性の追求が最優先になりがちです。これはこれで大事なポイントではありますが、持てる時間の一部は技術的な探索にあててみる、という姿勢も同時に必要なのだと感じます。もしかしたら、オープン系システムの文化とはこのようなものなのかもしれません。従来のIBM i にはなかなか見られなかったものです。

安井個人的には、これらの成果物に触発されて、ベテランの方も新テクノロジーに触れてみようとする動きが出てくるのが理想だと思っています。IBM i をレガシーだと揶揄する声は巷でよく聞きますが、もしかしたら私自身も含めてこれを取り巻く人間がレガシーなのかもしれません。人がレガシーから脱却していれば、製品への評価も変わることでしょう。IBM i RiSINGはその起爆剤になる可能性を秘めていると考えています。

ここでせっかくですので、IBM i RiSING主宰者である古閑さくらさんからうかがった内容をご紹介しておきたいと思います。

古閑さんアイコン

日本IBMに入社されて3年目を迎えている古閑さん自身も、参加者と同じ若手技術者です。入社前はIBM i はもちろんのこと、そもそも化学を専攻されていてITに携わった経験はほとんどありませんので、参加された多くの方々よりもITないしIBM i の経験値はむしろ少なかったかもしれません。コミュニティ参加にあたって自身のスキルが至らなくて、周囲に迷惑をかけるのではないかと躊躇される方もいらっしゃいますが、そのような心配は無用のものだと申し上げておきたいと思います。チームの中で共に学べば良いだけのことです。

古閑さんが初めてIBM i に触れたのは、いわゆるグリーン画面または黒画面とも呼ばれるエミュレータでした。古いとか洗練されていないと形容されることも多いのですが、基幹業務システムの画面とはこういうものなのか、とごく冷静に受け止めたそうです。そもそもUNIXもLinuxも、IBM i 同様に基本は文字による入出力をベースにしたCUIシステムです。長いコマンドを打つとタイプミスし易く再入力も面倒、これに対してIBM i のCUIではプロンプトが出るので扱い易い、とむしろ肯定的な印象を抱きました。もちろん実運用上はUNIXにせよLinuxにせよGUIの利用が一般的ですし、IBM i についても市場への浸透度は今一歩ですが、Navigator for i というブラウザ・インターフェースが用意されています。

また、このコミュニティを語るのに「若手」とか「次世代」という言葉を使うので、自分は年齢的に若手とは言えないのではないか、と躊躇されてしまうケースがあるかもしれません。実は参加者の年齢制限はありません。募集要項に明記されているのは、昨年に引き続いて参加することができるとした上で、「IBM i の経験が10年以内の技術者」または「新テクノロジーにチャレンジしてみたい技術者」といった条件のみです。言葉を変えると、ベテランではないこと、ベテランであっても新テクノロジーに触れたい方、ということになるでしょう。門戸はかなり開かれているのです。

古閑さん自身もいきなりこのような若手コミュニティを着想したわけではありません。当初は既存のIBM i コミュニティに関わるなどしてきたのですが、同年代の若手はおらず、ベテランが中心であるために、IBM i の最新テクノロジーやIBM i を取り巻くキャリア形成といった話題が会話の中で登場することは滅多にありません。せっかくIBM i に携わるようになったにもかかわらず、古閑さん自身もそうだったのですが、「仲間」がいないために孤独を感じ、相談する先も無い現実を何とか改善したいと思うようになりました。最初は情報交換のための仲間作りを想定されていたのですが、単に集まるだけではなく若手なりの視点でスキルアップする活動につなげようという思いも芽生え、現在のIBM i RiSINGの構想に至りました。募集前は20人も集まればと思っていたのですが、冒頭に述べたように参加者は74人に達しています。

74

あくまでもチームよる自主活動なので一概には言えませんが、概ね一回当たり一時間、月に二回の活動を継続することで成果物を産み出せたそうです。参加された方々のコメントは概ね以下のようなものでした。ここに見られるのは、参加者自身が十分な動機を感じ、活動そのものを楽しんでいる様子です。

  • 他社にも自分と同じような若手がいて、仲間として活動できたことが嬉しい
  • IBM i の情報がインターネットになかなか無いので、自分達が先駆者となって情報を作り上げ発信するのは楽しい

IBM i RiSING 2025においても、昨年以上の参加者を得たいと古閑さんは意気込んでいます。コミュニケーションがチーム内に閉じてしまう傾向が見られたこと、同一チームの参加者に経験年数や関心分野のバラツキが見られたこと、などの昨年の問題点を踏まえ、今年はこれらを改善して臨みたいとしています。

最後にIBM i RiSING 2025への申し込み方法を簡単に整理・紹介しておきましょう。念のためですが全て無料で登録することができます。手順はやや複雑であり、IBM i RiSINGとは無関係に見える箇所での登録などを求められるので、サイトを順に辿っていくと深みにはまるような印象がある点は否めません。以下の一連の手続きにおいて不明点がある場合は、IBM Community Japan事務局(ICJOFC@jp.ibm.com)にお問い合わせただければと思います。募集締切は1月30日ですので、早目に処理されますようお願いします。下記の「2025年ナレッジモール研究」サイトには1月31日と表記されていますが、古閑さんよりIBM i RiSINGとしては締切日を1日前倒したいとの意向をうかがっています。

最初に取り組むべきは、IBMの各種サービスを受けられるようにするためのIBMidの取得であり、それを前提に各種のコミュニティ活動への参加資格を得るためのIBM Community Japanへのメンバー登録です。ご自身がIBMidを取得済みなのか、IBM Community Japanのメンバーになっているか定かではない方は、IBMの「Tsunagaru Square (ツナガル・スクエア) 」の「メンバー登録 (無料)ステップ」の中にあるボタン、「IBMidでログインしてメンバー登録」または「IBMidの作成とメンバー登録」から確認または新規登録申請を上げることができます。新規登録申請の場合は、1-2営業日が経過した後に承認された旨のメールが申請者に届きます。これを見落とすことがないようにご注意ください。

次に「2025年ナレッジモール研究」サイトから申込みます。IBM i RiSINGはナレッジモール研究のテーマの一つという位置付けにあります。このサイトの中で下の方までスクロールし、「TC-04 : IBM i RiSING - IBM i 次世代エンジニアのための技術交流」のところを展開すると、このプログラムの詳細がわかります。内容に問題無ければ少し上にスクロールして、「2025年ナレッジモール研究に申し込む」ボタンを押すとようやく申込みに至ります。この時に第三希望まで指定しなければならないのですが、全部「TC-04」を指定するので差し支えありません。

ベル・データからも昨年に引き続き数名の若手技術者が参加する予定です。お客様、販売店、メーカーの枠を越えて、多くの方がこのプログラムに参加することが、IBM i の将来をより一層明るいものにできると確信しております。

ではまた

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著者プロフィール

パワーシステム・エバンジェリスト

安井 賢克
やすい まさかつ

2017 年 11 月付けで、日本アイ・ビー・エム株式会社パワーシステム製品企画より、ベル・データ株式会社東日本サービス統括部に転籍。日本アイ・ビー・エム在籍時はエバンジェリストとして、IBM i とパワーシステムの優位性をお客様やビジネス・パートナー様に訴求する活動を行うと共に、大学非常勤講師や社会人大学院客員教授として、IT とビジネスの関わり合いを論じる講座を担当しました。ベル・データ移籍後は、エバンジェリストとしての活動を継続しながら、同社のビジネス力強化にも取り組んでいます。

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