IBM i のウンチクを語ろう
~ その84:テクノロジーの新陳代謝を乗り越えよう
皆さん、こんにちは。より進化した新しい世代が登場すれば、旧世代はいずれその役割を終えて寿命を迎えます。小林武彦著「生物はなぜ死ぬのか」によると、死は生物の進化に必要なのだそうですが、同じことはテクノロジー製品にも当てはまると言えるでしょう。
昨年Power10プロセッサ搭載の新しいスケールアウト・モデルと、IBM i バージョン7.5が発表されました。その一方で、Power8モデルとIBM i バージョン7.3のユーザーは、メーカーによるサポート終了が迫りつつあることを知り、次をどうするか検討するべき時に来ているようです。販売店の営業に相談すれば、買い替えを前提とする前のめり気味の提案を前にすることになるかもしれませんが、前提条件を何も設けずに次期システムを考えたいとする方もいらっしゃるかもしれません。そこで今回は、どのような選択肢があるのかを検討してみようと思います。
最初にIBMの発表情報を確認してみましょう。Power8搭載モデルのサポート終了は、昨年11月15日に公式発表(IBMの発表レター番号AD22-0870)されています。特に最も出荷台数の多いモデルPower S814のサポート終了予定日は2024年5月31日ですから、このコラム公開から残り1年間を切っています。そしてIBM i 7.3のサポート終了の方は昨年9月27日に公式発表(IBMの発表レター番号AD22-0774)され、その予定日は2023年9月30日とされていますので、既にカウントダウンが始まっています。(発表レターの日本語翻訳が少々ぎこちない点はご容赦願います。)サポート終了の話題が出るようになると、当該製品のサポート期間は一体どのくらいだったのか、製品寿命は短くなってはいないのか、といった点が気になるのは私だけではないと思います。念のためにここで確認してみましょう。
以下表は、Power8プロセッサ搭載モデルを含む、過去3世代の初期モデルについてまとめたものです。表の右半分にある、出荷開始からサポート終了までがサポート期間になるのですが、プラス・マイナス1年程度の幅はあるものの、概ね10年間のサポート期間は維持されていることがわかります。
テクノロジー | モデル名 | マシンタイプ・モデル | 出荷開始 | サポート終了 |
---|---|---|---|---|
Power8 | Power S814 | 8286-41A | 2014/6/10 | 2024/5/31 |
Power7 | Power 720 | 8202-E4B | 2010/9/17 | 2019/9/30 |
Power6 | Power 520 | 8203-E4A | 2008/2/29 | 2019/3/31 |
同様に以下はIBM i バージョン7.3を含む、過去3世代についてまとめたものです。IBMは標準サポート期間7年間とさらにその後の延長サポート3年間、合計10年間以上を全サポート期間の目安とすることを明らかにしていますが、このポリシーは維持されていることがわかります。
IBM i バージョン | 出荷開始 | 標準サポート終了 | 延長サポート終了 |
---|---|---|---|
7.3 | 2016/4/15 | 2023/9/30 | 2026/9/30 |
7.2 | 2014/5/2 | 2021/4/30 | 2024/4/30 |
7.1 | 2010/4/23 | 2018/4/30 | 下記注 |
注) バージョン7.1に限り、稼働モデルによって以下のとおり期限が異なります。
Power7/7+ とそれ以前 | 2021/12/31 まで |
Power8 | 2022/4/30 まで |
Power9 | 2024/4/30 まで |
Power8モデルやIBM i 7.3を利用しているからと言って、「貧乏クジを引いていた」わけではありませんでした。次に考えたいのは、今後を見据えた時にどのようなオプションがあるのか、という点です。理屈上考えられるものを列記してみましょう。
- 延長サポート契約を前提に、現行システムを使い続ける
- IBM i の継続利用を前提に、システムを買い替える
- IBM i の継続利用を前提に、クラウドに移行する
- IBM i からの脱却を前提に、システムを買い替える
- IBM i からの脱却を前提に、クラウドに移行する
結論を先に述べますと、お勧めしたいのは上記2・3のどちらか、逆にあまりお勧めしたくないのは1・5・6です。それぞれを詳しく検討してみます。
延長サポート料金は標準サポート料金よりも割高に設定されるのが常ではありますが、オプション1は上記5項目の中でコストも作業負荷も最も抑制されたものになるはずです。そうであったとしても、これをあまり積極的にはお勧めしたくない理由があります。
延長サポート利用が単なる課題の先送りになってはいないか、が気になるところです。ごく稀なケースではあるのですが、かつて延長サポートの期限が近づいてから次期システムへの切換えの検討を開始したお客様がいらっしゃいました。社内の上申が想定通りに進まなかったためなのか、詳しい事情は知らないのですが、期限に間に合わないことが発覚してしまいます。例外的な再度の延長が実現できるわけでもなく、一時的とは言えサポートの無い状態のままでシステムを使わざるを得ませんでした。結果的に業務に支障が生じるような事態に陥らずに済んだのですが、これは幸運以外の何物でもありません。次期システムへの移行プランを早期に明確化し、標準サポート期限に間に合わない限定された期間のみ、緊急避難的に延長サポートを利用するようにするべきなのでしょう。すなわちこのオプション1を選択するのであれば、単独ではなく他のオプションと組み合わせるべき、ということです。
システムの所在地がお客様施設内と外の違いはあるにせよ、オプション4と5はIBM i からの脱却が前提にあります。闇雲にIBM i に留まるべきと主張するつもりはありませんが、このような志向の動機がどこから生じたのかは、念のために意識していただきたいと常々思っております。レガシーだから、古いシステムだから、というコメントは時々聞かれるのですが、これらはビジネス要件に基づいた判断になっているのか、手段であるはずのテクノロジー先行の議論になっていないのか、今一度確認してみてはいかがでしょうか。
このコラムでも何度か言及したこともあるのですが、IBM i はレガシーシステムと言われながらも同時にオープン性を備えた、ハイブリッド的なシステムです。備えている機能範囲は多岐にわたりますので、何かの機能が不足していると感じられる場合がありましたら、一度販売店に問い合わせていただくことをお勧めします。それでも解決策を見出せないようでしたら、システムの移行はビジネス的にも妥当な判断であると思います。別のシステムへと切り替えるということは、アプリケーション資産の継承性など既存システムのメリットを放棄するだけでなく、作業負荷や失敗リスクなども伴いますので、慎重に判断いただきたいと考えております。
残された選択肢は、IBM i の継続利用を前提としたオプション2のマシン買い替えか3のクラウドへの移行か、もしクラウドならばどの事業者のサービスが適しているのか、となります。そしてITに関わる種々の課題の中で、何を重視するのか次第で方向性が決まります。基幹業務のように長期利用が見込まれる中で、利用したいシステム資源量とその料金だけに着目するのであれば、クラウドはコスト削減策にはならないと考えるべきでしょう。システムのアベイラビリティ向上や、運用の品質向上のためのサービスを期待するのであれば、クラウドは良いソリューションになるはずです。この点について詳しくは、当コラム「オンプレとも違うし事業者間でも違うクラウド」の中で検討しておりますので、目を通していただければ幸いです。
さて次期システムはIBM i を継続利用するとして、どの世代のテクノロジーを採用するべきかを決めなくてはなりません。2023年5月末のコラム執筆時点において、営業活動中であり標準サポートが提供されているのは、ハードウェアはPower9か10、IBM i はバージョン7.4か7.5ですので、計4通りの組み合わせが考えられます。
利用中のソフトウェア・パッケージの制約があるなどの事情が無い限り、Power10とIBM i 7.5の組み合わせを推したいところです。備えているシステムとしての能力や機能、さらにはメーカーから提供されるサポート期間の長さの面において、最も有利になるからです。
一方で製品品質が安定していないかもしれないという不安から、出荷開始から日の浅い製品は採用しないとするポリシーをお持ちのお客様もいらっしゃいます。「枯れた」テクノロジーの方が安定しているとは一般的に良く言われることではありますが、IBM i においてこれがどのくらい実質的な効果をもたらすものなのか、私自身は明確な情報を持ち合わせておりません。15年・20年以上も前であれば、新製品が品質上のリスクを伴うことも稀ながらあったのは事実ですが、昨今はまず耳にすることはありません。品質安定化のために時間経過を待つ意味は、現在においてはほぼ失われているのではないかと思います。
時々思うことではあるのですが、システム置き換えの検討とは別の機会に、現行機・現行バージョンにおいて利用可能なのだけれども実は利用していない、「眠っている機能」を掘り起こしてみてはいかがでしょうか。例えば利用中のバージョンは7.4なのだけれども、利用している機能はバージョン5のまま止まってしまっている、といったお客様は数多くいらっしゃるようです。実にもったいないことだと感じます。
DXの文脈においては、アプリケーション開発・保守体制にアジャイル性が必要とされていることはご存知と思います。旧来のウォーターフォール型のように、計画立案に始まって開発・テストを経て本番稼働を迎えたらプロジェクトを解散するのではなく、小規模ではあっても常時改修できる体制を維持し続けることが、DXを容易にするという考え方です。DXを見据えるためにも、何年かに一度のシステム刷新という大きなイベント時に限らず、常にIBM i の機能向上に目を配っていただければと思っております。
ではまた