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IBMiコラム2022.12.22

IBM i のウンチクを語ろう
~ その78:オンプレとも違うし事業者間でも違うクラウド

安井 賢克 著

皆さん、こんにちは。ITビジネスの中でもクラウド・サービスは、世界的にその市場規模をより急速に拡大させているようです。2022年7月5日に総務省より公開された「情報通信白書令和4年版」の中の「世界のパブリッククラウドサービス市場規模(売上高)の推移及び予測」によると、2018年から2024年に至るまで、前年比2桁パーセントの伸びを続けると予想されています。特に2019と2020年は30%以上、2021年も28%と極めて大きな成長を遂げていますし、2022年は多少鈍化するものの予測値は22%の伸びとなっています。そして米国市場に限るならば、2022年7-9月期の前年同期比伸び率は約30%であるとSynergy Research Group 社はレポートしています。一方で「世界のICT市場規模(支出額)の推移」(情報通信白書令和4年度版)を2018年以降について見てみると、比較的大きく伸びている2021年でも12.5%に留まります。クラウド市場の成長率はIT全体の二倍以上あることになりますね。

ちなみに「ICT」(Information and Communication Technology)は我々が普段「IT」と呼んでいるものとほぼ同義です。少なくともOECD各国においては「ICT」が標準語になっていますので、政府発信情報はそれに準拠しています。

クラウドにはそこで提供されるサービス、すなわち事業者が責任を持つ範囲によって、IaaSやSaaSなどいくつのパターンに分類されることはご存知と思います。各名称とその定義をあれこれと述べることは今回コラムの趣旨ではありませんので省略しますが、ここではIBM社の説明へのリンク(https://www.ibm.com/jp-ja/cloud/learn/iaas-paas-saas)を掲載するに留めておきます。

マシン販売を手掛けているベル・データのような会社にとって、IaaSクラウドはその代替案の位置付けにあります。マシンをお客様に販売しお客様施設内に納入するのか、あらかじめ自社施設内に設置された機器類の一部をネットワーク経由でお客様に貸し出すのかの違いです。あくまでも定義上は、ですが。そしてOSやアプリケーションの管理がお客様に委ねられる点は、マシン販売の時と共通です。ちなみに前者はよくオンプレミスとかオンプレと言われますが、「建物」とか「構内」を意味する「premise」上にあるという英語「on premise」が元になっています。

建物

次期システム更改に向けて、初めてクラウドを視野に入れて検討してみようとするお客様からよく投げ掛けられる質問に、オンプレミスとクラウドとどちらのコストが低くなるのか、というものがあります。マシン購入コストに比べればクラウドの月額料金は桁一つ、構成次第ではもしかしたら二つ違うかもしれない、という肌感覚は持っていて、コスト削減が検討の大きな動機になっているのでしょう。

私の短い答えは、長期的に利用される傾向のある基幹業務システム用途においては、と前置きした上で、構成次第ではあるものの、一般的にはクラウドの方がコスト高になります、というものです。ただしオンプレミスの場合は、自社でマシン設置スペースを確保し、電源・空調などの設備と共に、人手をかけて日々の運用体制を整備しなくてはなりません。クラウドに移行すれば少なくともマシンの運用負荷が無くなりますので、その部分を金額で把握することができれば、コストを抑制できることが明らかになるでしょう、と続けます。社外に出て行くカネには敏感でも、社員が働くのはカネをかけているのと同じ、という事実を数値化して把握するのは必ずしも容易ではないので、多くのお客様はなかなかそこまでは踏み込まないようですが。

クラウドを採用するにあたって、コストはどの位重要な決定要素になっているのでしょうか。総務省が毎年実施しているアンケート調査の最新結果「令和3年通信利用動向調査の結果」(令和4年5月27日公開)の中の、ページ6にある「クラウド・サービスを利用する理由」を見てみたいと思います。

クラウド・サービスを利用する理由
場所、機器を選ばずに利用できるから 50.2(%)
資産、保守体制を社内に持つ必要がないから 41.7
安定運用、可用性が高くなるから 37.6
災害時のバックアップとして利用できるから 33.5
サービスの信頼性が高いから(情報漏洩など対策) 29.4
システムの容量の変更などに迅速に対応できるから 27.2
システムの拡張性が高いから(スケーラビリティ) 22.6
既存システムよりもコストが安いから 19.8

コスト安を理由に挙げた方(19.8%)は意外に少ないな、というのが私の第一印象です。皆さんはいかがでしょうか。コスト以外の価値を重視した結果、クラウドを採用すると決した方がアンケートに回答している一方で、コストを第一に考える方はそもそもクラウドを選んでおらず、アンケートに回答していない、ということではないかと考えています。残念ながらこの推測を裏付けるデータは見あたりませんが。

IaaSクラウドにおける、マシン運用の責任がサービス事業者にあることの意義を、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。マシンの設置場所は災害対策や電源確保、マシン・ルームへの入室管理などの物理セキュリティの観点において、オンプレミスよりも一般的に良い環境にあります。運用する方の熟練度は、サービス事業者の方がオンプレミスよりも高いと言って差し支えないでしょう。複数ユーザーのシステムを事業として集中管理するのか、いくつかの仕事をこなしながら自社システムも管理するのか、両者の違いを考慮すれば明らかです。

IaaSクラウドにおいても、OSやアプリケーションの管理・運用責任がお客様側にあることは、オンプレミスと何ら変わりはありません。ですがマシンが事業者施設内にあることを活かして、お客様の作業を肩代わりするような、付加価値的なサービス・メニューを充実させているケースが多いようです。お客様にとっても、可能な限りの運用負荷を低減したいと考えるのは自然な成り行きだと言えます。巷間言われるところの、一人情シスや後継者不足などへの対策です。

対策

特に差が顕著になるのが計画外停止、すなわち障害発生時の対応です。専任ハードウェア技術者による24時間365日の監視体制を敷き、現地にある程度の交換用部品も確保してあるケースは、私の知る限り最も万全を期したものです。バックアップ機を設定するのには及びませんが、アベイラビリティを向上させる上で極めて効果的です。もちろん事業者が自力で回復できないような事象が発生する可能性はありますので、必要に応じてメーカーによる保守サービスと連携します。よく見られる体制は、不測の事態を検知したらオペレータの方が現地に駆けつける、というものでしょうか。この点はオンプレミスと変わりませんね。専任ハードウェア技術者を常駐させるケースよりも、復旧までの時間が長目になるのは止むを得ないところでしょう。

電源・設備点検など計画停止への対応においても、クラウドを利用した方が一般的に有利になります。適切に構成された事業者設備に余裕資源があれば、LPM(Live Partition Mobility)機能を活かして、稼働中のアプリケーションをそのまま別筐体に移転することができますので、お客様は停止を意識する必要がありません。移転先が余裕資源というわけです。クラウド事業者は余裕資源の有無以外にも、システム構成などLPM実現のための前提条件をいくつかクリアしなければならないので、この考え方を実装していないケースもあるようです。もちろんオンプレミスでも実現は可能ですが、必ずしも万人向けではありません。

余裕資源を活かせば他にも様々なことが可能になります。例えばOSバージョンのアップグレードは、新機能を利用しようという積極的な動機によることも多いのですが、一方でメーカー保守を継続的に得るためのやむを得ない作業とされることもあります。この点はオンプレミスであれIaaSクラウドであれ、変わりはありません。オンプレミスにおいてよく見られるのは、古いマシンと古いバージョンのOSによる現行本番環境と、新しいマシンと最新バージョンのOSによるテスト環境を一時的に並行稼働させ、テスト終了後に乗り換えるというやり方です。クラウドならば、テスト環境を短期間利用すれば、マシンやOSライセンスへの新たな投資を必要とせずに、同様のことが実現できます。一連の工程の中で、バックアップを取得するとか、データを移行するなどの作業が発生しますが、クラウド事業者が提供する様々なサポートサービスを組み合わせれば、お客様の作業負荷を大きく削減できます。マシン更改のサイクルに縛られずにOSバージョンをアップグレードできるというわけです。ただし、利用中のソフトウェアの規約上、単一ライセンスを前提に一時的であれ二台のマシン上で利用できるのか、など可否を確認しておく必要はありますが。

確認

以上ざっとではありますが、IaaSクラウドはオンプレミスの代替策であって、コストのみがその決定要因になる、という見方は必ずしも妥当ではないことを説明させていただきました。さらにクラウド・サービス事業者においても、アベイラビリティを高める仕組みや、保守・運用体制には違いがあるので、やはりコストだけで比べられるものではありません。クラウド事業者を選定するにあたって、上記を参考にしながら何を得たいのかを今一度振返っていただくことが望ましいのだと思います。ちなみに今回ここに述べたクラウド事業者による様々なサポート項目は全て、ベル・データのPower Cloud for i というIaaSクラウドと共に利用いただけるものです。何かありましたらご相談いただければ幸いです。

ではまた。

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著者プロフィール

パワーシステム・エバンジェリスト

安井 賢克
やすい まさかつ

2017 年 11 月付けで、日本アイ・ビー・エム株式会社パワーシステム製品企画より、ベル・データ株式会社東日本サービス統括部に転籍。日本アイ・ビー・エム在籍時はエバンジェリストとして、IBM i とパワーシステムの優位性をお客様やビジネス・パートナー様に訴求する活動を行うと共に、大学非常勤講師や社会人大学院客員教授として、IT とビジネスの関わり合いを論じる講座を担当しました。ベル・データ移籍後は、エバンジェリストとしての活動を継続しながら、同社のビジネス力強化にも取り組んでいます。

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