IBM i のウンチクを語ろう
~ その62:IBM i ユーザーのEDI移行は進んでいるか
皆さん、こんにちは。DXをメインテーマに据えて先日開催したIBM i Forum全6セッションの中に、明確に存在する期限を意識した話題が一つだけありました。EDIの移行です。ご存知のとおり2023年一杯をもって、NTT東西日本によるISDNディジタル通信モードの提供が終了します。多くのお客様において、現在利用中のJCAや全銀手順によるEDIを、ISDNから別のテクノロジー上に移行しなければなりません。セミナーでは既に移行を完了したお客様の事例を紹介しながら、他のお客様にも役立ちそうな知見を紹介しました。
ベル・データでは、技術的な方法論を紹介し移行を促すために、これまでも何度か様々な規模でEDI関連のセミナーを実施してまいりました。当コラムでも2019年8月には、「2024年に訪れる通信の「崖」」というテーマでこの話題を取り上げています。今回は私の手元にあるこれまでのセミナー・アンケート結果を眺めながら、世間の意識がどう変わってきたのか、もしくは変わらないままなのかを考察してみようと思います。当初は時を追って動向を観察してみようという意識は無かったので、アンケートの質問を設定する際に一貫性を持たせなかったのは、今更ながら少々残念な事をしたなと思っております。
2018年11月に、IBM i 最新情報とISDN終了対策をテーマに掲げたセミナーを開催しました。ベル・データとしてISDNの問題を意識した初めての公式セミナーです。SaaS型クラウドサービスである「クラウドEDI-Platform」を紹介したのですが、オンプレミス向けのソリューションは未だ出揃っていませんでした。この時のアンケートによると、87%もの参加者がEDIを利用中と回答しました。そしてこの中でISDN回線を利用しているのは85%、すなわち全体の74%がISDN上でEDIを利用していることになります。サンプル数は多くはありませんが、IBM i ユーザーのざっと4人中3人は影響を受けるという事です。この時点ではISDN提供終了まで5年以上もの余裕があるためか、対策はほぼ進んでおらず、何もしていない、もしくは情報収集中と回答した参加者は88%に上ります。予想はしておりましたが、影響範囲はかなり大きいので、今後も粘り強く情報発信してゆく必要性を感じさせる結果でした。
1年後の2019年11月と12月にあらためてISDN終了対策セミナーを実施しました。「クラウドEDI-Platform」だけでなく、オンプレミスで利用できるソリューションである「Toolbox JXクライアント」や「Toolbox全銀TLS+」を紹介しました。EDI移行の検討状況についてのアンケート設問は無かったのですが、それぞれの製品について関心があるとした参加者の割合は、Toolboxが二製品まとめて84%、クラウド型EDIサービスが58%でした。当時はIBMのPower Virtual Serverの提供も開始されておらず、クラウドの関心度が低目に出たのは止むを得なかったかもしれません。ただ製品であれSaaSであれ、情報収集に前向きの参加者は全体で90%に上ったのは事実です。残りの10%の理由は明確ではありませんが、少々気になるところです。4年も先の事なので、どの様な製品やサービスを検討するべきなのか、方向性が未だ定まっていなかった、といったところなのでしょうか。
コロナ禍にある2020年8月に再度同じテーマのセミナーを実施しました。ソリューションの品揃えは前回と変わりません。この時のアンケートではEDI移行の検討状況について質問を投げ掛けています。EDIの移行が明らかに必要としたのは62%、必要と思うが未確認は24%、すなわち何らかの形で必要性を意識している参加者は合計で86%に上ります。また、想定されている作業完了時期についても質問しており、回答を見てみると2021年末10%、2022年末23%、2023年6月47%、2023年末20%という結果でした。期限まで3年以上あるので、各企業の中では移行スケジュールは明確化されておらず、個々人の漠然としたイメージが反映されているのだと思いますが、3分の2が最終年に集中している状況は気になりました。私達としても引き合いが一時期に集中し過ぎれば、お客様のサポートに手が回らなくなってしまう恐れがあります。
先日のIBM i Forumでも再度ISDN終了の話題を取り上げて、移行事例を詳しく解説すると共に、ファームバンキングにおける新たなサービス「AnserDATAPORT」を紹介しました。結果的にはほぼ年に一度のペースで、このテーマのセミナーを開催している事になります。ここでもEDI移行の検討状況をアンケートの中で聞いています。結果は移行完了済み8%、移行必要だが詳細未確認45%、移行不要28%、わからない19%でした。わからないとした方を除いて再計算すると、移行対象になるのは全体の66%になります。これまでも2018年の74%、昨年の86%という結果を見てきましたので、ざっと70%前後以上のIBM i ユーザーは影響を受けると見て良さそうです。そして想定している移行完了時期は、2021年末17%、2022年末48%、2023年末35%でした。前回と比較してみると、2021ないし2022年一杯とする方は合計で33%から65%へと倍増、一方で2023年内とする方は67%から35%へと半減しています。スケジュールの前倒し傾向が明らかなのは、私達にとっての安心材料となりますが、作業完了予定に十分な余裕があるのかは気になるところです。
EDI移行期限は2023年末です。これまでに回線の見直しやアプリケーションの改修作業を終えるだけでなく、他社との接続テストも実施・完了させなければなりません。既に移行を完了しているお客様からは、テストのためのスケジュール調整に意外に手間取ったという声をよく聞きます。通信という要素が入る以上、自社都合だけでテストを進めることはできません。そこで今回のセミナー・アンケートの中で、テストを実施するとしたらどの位の期間が必要になると推定しているのかを質問してみました。結果は1-2ヶ月20%、3-6ヶ月50%、6ヶ月以上30%でした。セミナーにおいても紹介した私達のお客様のケースでは、回線見直しとアプリケーション改修を3ヶ月で完了させながら、接続先会社数39に対するテスト期間は延べ9ヶ月を要したという事実があります。相手会社数やテスト実施の時期にも依存しますので、上記アンケート結果の妥当性について一概には何とも言えません。ただし、必ずしも期待したようには進捗しないものだと心の準備はしておく方が良さそうです。
想定外の出来事に備えるためにも、早目に改修作業を完了させ、十分なテスト期間を設けておく必要があります。様々な実績に鑑みて、先の私達のセミナーでは2022年一杯までのアプリケーション改修完了と、以降の1年間で接続先会社毎にテストを進めながら、徐々に移行するスケジュールを提唱しました。こうすればどのような会社においても万全である、というよりは、詳細を煮詰めていないのであれば、取り敢えず設定するべきスケジュール、といった意味合いのものです。最新のアンケート結果に見られるように、移行スケジュールの明確化と共に前倒しが進むとすれば、多くの会社において問題は生じないものと思われます。残された2年と少々の中で、テスト期間を十分に見込んだ上で、無事にEDI移行を完了されますよう願っております。
ではまた。