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IBMiコラム2021.09.29

IBM i のウンチクを語ろう
~ その63:IBM i 離れは実際に起きているのか

安井 賢克 著

皆さん、こんにちは。他のIBM iユーザーの動向が気になるのは、日本だけの特質ではありません。他人がどうあろうと「我が道を行く」方も中にはいらっしゃるのかもしれませんが、米国においても関心に応えようと、おそらく日本以上に数多くの様々な市場調査結果が公表されています。「隣人の振舞い」を見て、自身が多数派に属している事を知って安心材料にするのが日本だとすれば、競争心を掻き立てて次の行動に繋げるのが米国、といった違いがあるのではないかと勝手ながら想像しておりますが。

今回はそのようなレポートの中から、米国HelpSystems社の「2021 IBM i Marketplace Survey Results」を取り上げてみます。RPG離れ・IBM i 離れを懸念する声は、特にお客様から聞くケースが多いのですが、そのような事が実際に起きているのか、といった視点からこのレポートを眺めようというわけです。残念ながら日本語版はありませんが、ここで紹介しないグラフも多数ありますので、関心のある方はレポート原文にも目を通す事をお勧めします。

最初に見てみるのはIBM i 上で現在採用されているプログラム言語です。IBM i と言えばRPG、RPGと言えばIBM i、という位に両者は切っても切れない関係にあるわけですが、一方では「後継者問題」の元凶と見なされる傾向があるのも事実です。RPGで記述された基幹業務アプリケーションを長年保守してきたベテラン技術者に代わる、後継者であるべき若手技術者がなかなか見つからないとされる問題です。実際にRPG離れは起きているのでしょうか。

結論

結論から言いますと、現在においてもなお、RPGはIBM i の主力言語であり続けていることがデータとして示されています。レポートのページ19に、「新規のIBM i アプリケーション開発のために、現在使用している開発言語は何ですか」(Which development languages do you use today for new development on IBM i?)という問いに対する回答を集計した結果が報告されています。ここで留意しておきたいのは、過去のではなく、現役として採用しているプログラム言語が問われているという点です。結果はRPG 87%、SQL 80%、CLP 64%、Java 45%、PHP 20%と続き、RPGは相変わらず圧倒的シェアを占めている事がわかります。RPGに関しては私が知る限り20年間以上、もしかしたらもっと長い間、この数値ほぼ変わりません。そして第二位SQLが意味するのは、アプリケーションからデータベースにアクセスする手段は、旧来のIBM i 独自のネイティブ・アクセス方式から業界標準のSQLに移行している点です。すなわち現在のIBM i における主流のアプリケーション開発言語は、RPGとSQLの組合せであるということです。実はこの組み合わせは、かつて私がIBM i 開発部門から直接聞いた、お勧めそのものです。

現状は良いとして問題は今後です。IBM i は将来もより一層活用される方向にあるのでしょうか、それともIBM i 離れの傾向にあるのでしょうか。ページ25に、「IBM i に関する予定はどのようなものですか」(What are your plans for the IBM i platform?)という質問に対する回答がまとめられています。結果は「現状どおり」42%、「より一層活用する」25%、「一部アプリを新プラットフォームに移行する」12%、「全てのアプリケーションを新プラットフォームに移行する」9%、「わからない」12%となっています。「わからない」とした方を除いて再計算すると、およそ90%の方が何らかの形でIBM i を利用し続けると回答しています。昔から忠誠度の高さがIBM i のお客様の特徴とされていますが、この傾向は現在においても変わらないようです。残り10%の「全てのアプリケーションを新プラットフォームに移行する」と回答した方について、その実現時期を聞いてみると(When will you migrate all applications from IBM i?)、2年以内39%、2-5年33%、5年以上16%、未定12%とあります。他サーバーへの移行を2年以内に実現したいとする、具体的な計画を持ち合わせていると思われるケースは全体の4%未満という事になります。2年以上先というのは、移行計画が具体化しているというよりは未だ漠然とした構想段階にある、と見なすのが自然だと思います。具体的に検討を進める段階で、計画が修正される可能性もあるでしょう。

修正

忠誠度が高い理由としてよく指摘されるのは、アプリケーションの資産継承性です。既存アプリケーション資産は、IBM i を刷新するのであればそのまま活かすことができますが、他サーバーへと移行するのであれば、全面的な見直し作業が必要になります。IBM i を継続利用するのであれば、スイッチング・コストの発生を抑えることができる、というわけです。ところがこの価値に派手さは無いためか、残念ながら忘れられてしまうケースもあるようです。

次期サーバーを選定する際に初期投資額の大小に目が行きがちですが、ビジネス的には得られる効果との対比、すなわち投資対効果(ROI: Return On Investment)の視点で捉える方が妥当です。レポートにおいても「IBM i サーバーのROIは他サーバーよりも優れていると思いますか」(Do you believe your IBM i server gives you a better ROI than other servers?)という質問に対する回答がページ26に示されており、92%のユーザーがこの見方を支持していることがわかります。HelpSystems社のコメントによると、過去にこの値が90%を割った事は無いそうです。IBM i は従来から優れたROIを提供してきた「廉価な」サーバーである、と言えるでしょう。この見方はIBM i を維持し、より一層活用しようという動きにつながってきます。IBM i に関する予定について、「現状どおり」とする42%だけでなく、「より一層活用する」という回答が25%だったことは先に紹介したとおりです。

この設問は、お客様がIBM i 以外のサーバーと比較できることを前提にしています。念のためにページ11の設問「オンプレミス環境ではIBM i 以外にどのOSを使用していますか」(Other than IBM i, which operating systems do you run on servers in your on-premises IT environment?)への回答を見てみましょう。結果はWindows 79%、x86 Linux 36%、IBM i と同一筐体のAIX 15%、IBM i とは別筐体のAIX 15%、その他のUNIX 13%、と続いています。Windowsが最多であるのは予想通りといったところですが、それと比べてもROIに関してはIBM i の方が優れているという見方が優勢だということです。

優れている

とは言え、新プラットフォームへと全面的に移行するとした10%の動向が気になる方も多いのではないでしょうか。レポートのページ25に示されている移行先内訳は、Windows 47%、クラウド 44%、Linux 33%、AIX 9%、汎用機 2%、その他 12%となっています。Windowsが最大なのは納得できますが、その割合は意外に小さいように感じます。私にとって更に意外だったのは汎用機2%という値です。この理由は明らかではありませんが、自社にとって最適なプラットフォームは何なのかを検討した結果であって、少なくとも「隣人」と同じならば安心、という発想から生まれたものではないと思います。

Windowsに次ぐクラウド44%の内訳は示されていませんが、この中にはPower Virtual Server上のIBM i への移行も含まれているはずです。アプリケーション資産の継承は可能ですので、他のOSを前提にするよりは有利になります。こう考えると、先に述べた4%未満というIBM i 離れの可能性は更に小さなものになるでしょう。

日本の数年先を行くと言われるアメリカにおいても、レポートを見る限りではIBM i 離れ・RPG離れの全般的な兆候は見当たらない、と結論付けるので良さそうですね。

ではまた。

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著者プロフィール

パワーシステム・エバンジェリスト

安井 賢克
やすい まさかつ

2017 年 11 月付けで、日本アイ・ビー・エム株式会社パワーシステム製品企画より、ベル・データ株式会社東日本サービス統括部に転籍。日本アイ・ビー・エム在籍時はエバンジェリストとして、IBM i とパワーシステムの優位性をお客様やビジネス・パートナー様に訴求する活動を行うと共に、大学非常勤講師や社会人大学院客員教授として、IT とビジネスの関わり合いを論じる講座を担当しました。ベル・データ移籍後は、エバンジェリストとしての活動を継続しながら、同社のビジネス力強化にも取り組んでいます。

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