IBM i のウンチクを語ろう
~ その19: IBM i はいつまで続くのか
1988年6月21日にAS/400の名でIBM製オフコンとして発表されて以来、30年近くもの歴史を続けているIBM i ですが、製品名称だけでなくその市場環境は大きく変化しています。かつて十社近くものメーカーがひしめき合っていたオフコン市場の中で、IBM製品は他社オフコンと何が違うのかを訴求する事が我々にとって重要でした。その後いわゆるオープン系システムが流行し、オフコン市場が実質的な体を成さなくなると、IBM i のアイデンティティを、「IBMのオフコン」から何か別の物に切り替えなくてはならなくなりました。オフコンというカテゴリのマシンに対する世間の共通理解、座標の軸とでも言うべきものが失われてしまったのです。私はちょうどこの市場環境の転換期にIBM i に関わりながら、長い時間をかけてそのアイデンティティをどのようにして再確立するべきか、という課題に取り組み続けてきたわけです。(市場を形成するという観点では、競合相手は実は協業相手でもあるのですね。)
今日において出荷台数が最大のサーバーはWindowsだと言えるでしょう。これにUnixやLinuxを加えたサーバーを一括りにして、世間ではオープン系と呼んでいます。かつての汎用機やオフコンは統合型システムであるのに対し、分散型として地歩を築いたサーバー達です。分散型なので複数のシステムが互いにやり取りを行う事が前提にあり、結果的に通信における共通性・オープン性が必須になります。ちなみに分散型が最も流行ったのは1990年代だと思いますが、当時のサーバー市場では、Linuxは未だ十分には認知されていませんでした。
ITの座標軸の中でIBM i は分散型の対極にあるから、オープンとは異なる用語をもって表現しようという発想は自然なものです。だからと言ってレガシーという表現は、実装されている機能の中にそのような要素を含むものの、それだけでは不正確であるばかりか、ネガディブな響きもあり受け入れ難いのも正直なところです。オープンなテクノロジーも備えているからと言って、IBM i はオープン系であるという表現も短絡的で、アーキテクチャーの優位性が消し飛んでしまいます。
かつてお客様から、一言で言うとIBM i はレガシー系とオープン系のどちらなのか、と問われた事があります。無茶な質問だなと思いつつ、その両方です、といったような回答をした事があります。もう少し丁寧に、独自のアーキテクチャーを前提にしながらオープン性も同時に持ち合わせているハイブリッドな統合型システムです(ちょっとわかりにくいかも)、といった説明をした事もあります。どのように表現したところで、IBM i を全くご存知ない方が相手だと理解を得るのに時間がかかります。仲間内ではいっその事、オフコンだと開き直ってしまえ、というワイルドな案が出たりした事もあります。それだけ他にはない極めてユニークな特性を持ったシステムである、というわけですが、うまい言葉がなかなか見つからないのも事実です。
IBM i が旧来のオフコン時代から提供し続けている機能・性質の一つに、アプリケーション資産の継承性があります。IBM i における優位性の最大のものであるわけですが、AS/400登場以来の約30年、もっと言うとその先代の1978年に発表されたSystem/38以来、40年近く継続されているアーキテクチャーによって実現されています。提供期間が極めて長い事からレガシー的機能と表現する事もできるわけですが、これがそのままIBM i はレガシー・システムであるという表現に短絡されてしまい、レガシー・システムに将来はない、だからIBM i もいずれ市場から撤退するに違いない、という漠然とした不安につながってしまうケースも見られます。競合時に他社がそう主張するばかりか、自称コンサルティング会社が、何の調査も行なわずに作成したとしか思えないような、「市場調査」報告書をお客様に提出する事もあるようです。残念な事であるばかりか、このような代物に金を払わされているお客様がいらっしゃるのは気の毒な限りです。
これが杞憂に過ぎない事は、既に多くの方がご存知の事と思います。IBM社からIBM i の将来計画を示す資料が公になっており、私自身もできる限り多くの機会をとらえて紹介するように心掛けています。最も重要なポイントは、IBM i は常にその最新バージョンを基点にして、二つ先のバージョンまでの開発計画を策定し公開する、という点にあります。公式には2016年4月に公開された「Power Systems 向けの統合オペレーティング環境に関する IBM の戦略とロードマップ エグゼクティブ・ガイド」というやや長いタイトルのホワイト・ペーパーのページ16に示されており、IBMのWebサイト(https://goo.gl/H3m144)からどなたでも邦訳版をダウンロードできます。
製品を市場から撤退させることはあり得ない、というメーカーとしての意思表示は、お客様にとっての大きな安心材料になるものと思います。ただそれだけでは十分とは言えません。ビジネス環境が変化するのに合わせて、IBM i に対してもそれなりに投資を行い成長させなければなりません。将来にわたってIBM i を継続的に利用するのであれば、旧態依然としたオフコンのままではいけない、ということです。もう少し具体的に表現するならば、二つの点から見てみる必要があると考えています。
まず新しいアプリケーション環境を支える必要があります。かつての最大の関心事はGUI化・Web対応化にほぼ尽きていました。現在はこれに加えて、IoTやハイブリッド・クラウド、更にはAI活用と拡大しています。これらを直ぐにでも展開したいと考えるお客様は必ずしも多数派ではありませんが、少なくともトレンドとされるテクノロジーを実装できる能力を備えているのかどうか、いずれ実際に検討する際に候補になり得るのかを気にされています。メーカーによる投資の証でもあります。
最新の解の例が、IBM i とWatson Analyticsとの連携です。Watson AnalyticsはWatsonテクノロジーを前提とした、クラウド上にあるデータ分析アプリケーションです。オンプレミスのIBM i と、クラウドやAIとの統合が実現できる、お客様にとってはレガシーなシステムと最先端テクノロジーとの融合という、意外性を持った組み合わせであるように映るようです。多くの方から関心を寄せられているだけでなく、既に実装しビジネスに活用されているお客様もいらっしゃいます。
最先端テクノロジーを活用できたところで解決しない課題があります。旧来のアプリケーション、そのほとんどは古いRPG言語(RPGⅢ)で記述され、手付かずになっているプログラムの存在です。未だ現役のプログラムとして利用されているので、破棄する事もできません。このまま塩漬け状態になってしまうのか、そして保守要員を確保できなくなってしまい、これまでのアプリケーション資産は負債になるのか、といった懸念があります。
これに対しては、フリーフォーム型のRPG言語(以下FF RPG)が用意されています。CやPHP言語と同様の構文が使えるので、他言語の経験があれば違和感なく取り組む事ができます。またFF RPGはRPGⅢと異なり、モジュール型構造をサポートしていますので、大きなプログラムを開発する際に、小さな機能単位に分割・開発する事が可能になります。機能強化を行う時は、モジュール単位にプログラム・コードを入れ替える事ができるようになり、保守性が高まります。そしてRPGⅢをFF RPGに自動変換するツール(ARCAD ObserverとARCAD Converter)が IBM から提供されていますので、塩漬けになりかかっていた古いプログラムを蘇生させることができます。
IBM i は、製品の将来性を明らかにする長期のロードマップが公開されており、それを支えるための新しいテクノロジーが積極的に取り込まれ、同時に旧来のテクノロジーを刷新するためのツール類が用意されている、というわけです。
だからと言って、IBM i だけで市場が成り立っているわけではありませんし、別のサーバーから移行してくる事も、その逆もあります。次回からは他のサーバーとの関係性や比較について考えてまいります。 ではまた