あなたの会社のIT予算は世界全体の傾向を反映しているか
時として、数字が大き過ぎると、ほとんど意味が分からなくなってしまうことがあります。たとえば、1兆ドルか5兆ドルを差し上げますと言われたら、実感は湧くでしょうか。同じ桁数の他の数字と比べない限り、違いは感じても実際の金額の大きさを実感することはできないのではないでしょうか。
このことを念頭に置いた上で、Gartner社のIT支出の最新予測を見てみましょう。同社の最新の予測では、2024年対2025年での増加率の数値は、わずかながら大きくなっていますが、皮肉なことに、それら両年のIT支出の絶対額自体は、前回の昨秋時点での予測に比べて、それぞれ少なくなっていることが見て取れます。
11月初めの記事で記したように、昨秋、Gartner社は、2024年のIT支出額は5兆2,598億ドルに達し、2025年には9.3%増の5兆7,473億ドルまで伸びるとの予測を示していました。2024年の支出および2025年の予測の最新版では、Gartner社は、2024年の世界全体でのITハードウェア、ソフトウェア、およびサービスに対する支出額は5兆1,148億ドルにとどまるとしています。これは、前回予測額と比べると1,450億ドル少ない額ということになります(参考までに言えば、これはIBMの2024年の売上高の数倍に相当する金額です)。そして、現時点でGartner社は、2025年のIT支出は5兆6,178億ドルに達すると予測しています。これも、同社の10月時点での予測に比べると1,295億ドル少ない額ということになります。
このことから分かるのは、会社の予算を組む際は、関連のある支出額で決めるのではなく、IT市場全体の支出増加に照らして設定するべきだということです。
世界IT支出予測(百万米ドル単位)
2024年 支出額 |
2024年 増加率(%) |
2025年 支出額 |
2025年 増加率(%) |
|
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データセンター システム | 329,132 | 39.4 | 405,505 | 23.2 |
デバイス | 734,162 | 6.0 | 810,234 | 10.4 |
ソフトウェア | 1,091,569 | 12.0 | 1,246,842 | 14.2 |
ITサービス | 1,588,121 | 5.6 | 1,731,467 | 9.0 |
通信サービス | 1,371,787 | 2.3 | 1,423,746 | 3.8 |
IT全体 | 5,114,771 | 7.7 | 5,617,795 | 9.8 |
出典:Gartner社(2025年1月)
驚くべきと思われるのは、生成AIインフラストラクチャーに対する多額の支出によって、データセンター システム全体の支出がどれくらいいびつになっているかということです。2023年のデータセンター システムに対する支出は、前年比4%増の2,360億ドルでしたが、昨年は、39.4%増で3,290億ドルまで伸びています。2025年は、さらに23.2%増で4,060億ドルに達するとの予想です。また、Gartner社の数値データを基にざっと概算したところでは、2028年にはおよそ5,900億ドルになりそうです。
「2025年には、ITサービス企業とハイパースケーラーが支出の70%以上を占めることになります」と、上図の引用元のレポートで支出予測をまとめた、Gartner社のディスティングイッシュド バイスプレジデント アナリスト、John-David Lovelock氏は述べています。「2028年までには、ハイパースケーラーは総額1兆ドル相当のAIに最適化されたサーバーを運用することになりますが、それは従来のビジネス モデルやIaaS市場の枠を超えての展開になるでしょう。ハイパースケーラーは、寡占AIモデル市場の一角を占めるように方向転換しようとしています。」
1兆ドルのAIシステムです。100万ドルのマシンなら100万台。10億ドルのマシンなら1,000台です。実際のところは、後者の方が可能性は高そうです。あるいは、100億ドルのAIマシン100台というのも考えられるかもしれません。
何度となく指摘してきたことですが、皆さんの会社のIT支出が、世界の平均とどのように対応しているかを確認してみることをお勧めします。慎ましい予算で運営されている会社の場合は、状況によって、たとえばハードウェアまたはソフトウェアに対する支出を多めにするなど、一般的な傾向を参考にして配分を調整することもできます。要は、いずれにせよ、ITショップは将来への投資を続けなければならないということです。そうしなければ、過去に囚われ、技術的負債というラ・ブレア・タールピッツ(天然アスファルトの池)にはまり込んで動けなくなるだけです。そして、それによって、皆さんの勤務先の企業の選択可能性、つまりは企業の将来性が限定されることになります。と同時に、皆さん自身の選択可能性および将来性も限定されるのです。