メニューボタン
IBMi海外記事2025.01.15

IBM、次世代Powerプロセッサーの情報を少し明らかに

Timothy Prickett Morgan 著

スタンフォード大学でHot Chips 2024カンファレンスが開催されていた8月には、誰もが2025年に登場すると思っているPower11プロセッサーの性能データの一部についてIBMが実際に明らかにしたのは意外だったとコメントを記しました。また、 ラスべガスでTechXchange 2024パートナー イベントが開催されていた数週間前には、IBMが、生成AIアプリケーション向けのアクセラレーテッド システムのようなものに取り組んでいるのは間違いないと確信したものです。そしてその翌週には、誰の目にも明らかな組み合わせは、WatsonXモデルまたはMeta Platforms社のLlamaファミリーのような他のオープンソース モデルを稼働する、 Power Systemホストと、数多くのIBM独自の「Spyre」AIアクセラレーター との組み合わせであったことを思い出させられました。

IBMがTechXchangeでパートナーにこっそり話したのはこのことだったのだと考えるに至り、年明けには、Power11プロセッサーについて何らかの新たな情報がもたらされるだろうと思っていたところでした。

ところが、年明けではなく、すでに今、そのような状況になっているようです。IBMが公表禁止としてパートナーと顧客に明らかにした多くの情報が入って来つつあります。

理由は単純です。Power11は、多くの人が予期しているものではないかもしれないからです。Power11は、チップレット アーキテクチャーを使用するのではなく、Power Nextプロセッサー(おそらくPower12と呼ばれることになるでしょう)で使用されるであろうアーキテクチャーの基盤を築くことになりそうです。しかし、そうは言っても、2025年の第3四半期初めに提供されることになるPower11は、いくつかの困難や遅延を切り抜けて、まさにIBMがその時までに進んだ到達点ということになります(そうした困難や遅延は、GlobalFoundries社が10ナノメートルおよび7ナノメートル製造プロセスで提供できなかったことによるところが大きく、IBMはSamsung社と提携して、当初計画されていたものとはまったく異なるPower10を提供することを余儀なくされました)。そして、結局のところは、実際のAIXおよびIBM i 顧客により適していたものと、HPCそしてAI市場向けにサーバーCPUソケットにますます多くのコアを追加しようと躍起になっているX86およびArmサーバーのCPUメーカーを追い掛けようとするIBMを反映しなかったものということです。

約束が果たされないとしてIBMがGlobalFoundries社を提訴したことを伝えた2021年6月の記事では、ロードマップの変更のすべてについてじっくりと見直しを行いました。ちなみに、この提訴は、IBMの支援によってGlobalFoundries社が完成させて市場に出した、14ナノメートル プロセスでエッチングされたPower9プロセッサーの供給をIBMが十分に確保した後のことでした。Power11およびPower12を比較する際の基準としてもらえるように、古いものから順番に、過去のロードマップを以下に示して行こうと思います。

これは、IBMとGlobalFoundries社が10ナノメートルをスキップして、7ナノメートルへ飛び移ることを決めた時点でのプランだと思われます。ご覧の通り、Power10は、本質的には、マイクロアーキテクチャーの変更とプロセス シュリンクが行われた2つのPower9チップでした。すべてが白紙に戻ったことで、IBMは、従来のスーパーコンピューター ビジネスと、Nvidia GPUとのNVLinkメモリー コヒーレンスのサポートから離れ、その時間を使って、エンタープライズ顧客のニーズや、彼らの大量ではあるものの常識的なAI処理のニーズにはるかに適したPower10チップを開発することとしました(Nvidia社は独自のArmサーバー チップを提供する強い願望を抱いていて、おそらくNVLinkのライセンス料に高額を設定するつもりだったのだと思われますが、これは憶測に過ぎません)。

そのような経緯があって出来上がったのが以下のロードマップです。

したがって、現在、私たちの手元にあるのは、2020年初めに発表されたGlobalFoundries社の7ナノメートル プロセスでエッチングされた、ソケット当たり24個のコアを持つ一対のPower10チップレットではなく、ダイ当たり16個のコア(ただし、そのうち15個のみ使用)を持つ、Samsung社の7ナノメートル プロセスで実装されたPower10チップです(ハイエンド マシンには2021年の秋に、エントリーおよびミッドレンジ マシンには2022年7月に搭載)。実際のところ、GlobalFoundries社のチップを使用したオリジナルのPower10の公開も、2020年3月に宣言されたコロナウイルス パンデミックによって、完全に台無しとなったでしょう。したがって、GlobalFoundries社が10ナノメートルおよび7ナノメートル プロセスから撤退した際に、確かに、IBMは経済的にダメージを受け、窮地に追い込まれることになりましたが、いずれにせよ経済的にダメージを受けることにはなったということです。そしてIBMは、Samsung社の7ナノメートル プロセスへの移行の遅れで生まれた時間を活用して、基本的にはPower11のプランからの多くのアイデアを前倒しする形で、Power10チップを作り上げました。

これには、全面的に改良されたPower命令セット アーキテクチャーと、まったく新しいコア デザインが組み込まれています。このコア デザインには、AIおよびHPCワークロードの処理性能を向上させるために、ベクトル ユニットだけでなく行列演算ユニットも含まれています。これまでのところでは、AMD社およびArm社グループのコア デザインにベクトル ユニットがありますが、行列ユニットは、Intel社のXeon 5およびXeon 6コアのみです。実際、IBMが実現したこの性能は、市場全体を見渡しても、断然、先を行くものでした。そして、IBMは、シングルスレッド性能、コア当たりのスレッド数、ソケット当たりのスレッド数、およびシステム当たりのソケット数という点で、エンタープライズ顧客のニーズに合わせた強力な8スレッドのコアを市場に送り出しました。Power10は、これらの点で引けを取る相手はいません。このことは、SAP HANAインメモリー データベースや、さらに言えば、ERP、CRM、およびSCMバック オフィス システムを支えているリレーショナル データベースに、Power10システムがますます選ばれるようになっている理由の1つです。AMD社は2ソケットまでの構成で、Intel社は、明らかに4ソケットで、サーバーを製造するOEMによっては8ソケット構成となっています。確かに、それらはコア数が多いですが、共有メモリー、クロック スピード、メモリーおよびI/O帯域幅、一定の種類のワークロード向けでのソケット当たりのパフォーマンスのいずれについても、Power10を上回りません。確かに、それらはより安価ですが、IBMが行っていることは高難度で、量産勝負ではないために、必然的により高価になります。

そして、以下に示すのが、Power11向け、そしてPower12と推定されるもの向けのロードマップです。

「今回は、そもそもスタート地点がかなり良い場所でした」と、Power SystemsのDE(Distinguished Engineer)で、Power10およびPower11プロセッサーのチーフ アーキテクトのBill Starke氏は『 The Four Hundred』に述べています。「そのため、すべてがガラッと変わるというようなことにはなりません。Power11アーキテクチャーは、Power10アーキテクチャーをベースにして拡張したものだからです。DDR5バージョンでのOMIメモリーで、私たちは大きな高揚感を覚えており、OMIについては、Power10で最初のOMIを世に出したときよりも、さらにいっそうワクワクしています。そのため、OMIは、Power11システムアーキテクチャーで最適化され、密接に関連する重要な構成要素となっています。また、Spyreアクセラレーターと、AI関連の進化も重要です。Spyreは、Power11およびそれ以降のポートフォリオの重要なピースとなるでしょう。」

Power11は、5ナノメートル プロセスでエッチングされるのではなく、IBMがクロックを上げ、熱性能を向上させるのを可能にする、Samsung社の改良された7ナノメートル プロセスがベースとなります。

Power11のメモリー アーキテクチャーおよびAI拡張機能については、それぞれ深く掘り下げて、相応の論評を加えたいと思ってはおりますが、安心してください。この記事では、ロードマップについて述べるだけです。

したがって、ここからは、Power FutureあるいはPower Next、あるいは敢えて呼ぶならPower12についてです。チップレット アーキテクチャーについてStarke氏と話をするようになって、何年くらいになるのでしょうか。IBMは、2005年のPower5+プロセッサー以降、Powerラインのチップレット実装を出荷してきました。そのため、IBMにとっては使い古されたものであるに過ぎません。

もっと最近の例では、Power9およびPower10プロセッサーのデュアルチップ モジュール(DCM)実装がありましたが、これらは、単に2つのチップを1つのソケットへ配置しただけであり、ソケットを独立したコンピュート、メモリー、およびI/O要素に分けることなく、様々なニーズに応じて様々な割合でそれらを使用しています。

それが導入されるのは、Power12だと思われますが、正直に言うと、Power11で期待していたところはあります。しかし、IBMは、2025年と誰もが予想していた5ナノメートルではなく、3ナノメートルへのプロセス シュリンクと思われるものと併せて、2.5Dインターポーザー技術およびチップレット デザインでSamsung社と協働することを望んでいると思われます。もちろん、Starke氏はこれについては何も認めませんでしたが、7ナノメートルから5ナノメートルへの移行では、IBMにとってそうするだけの十分なメリットは得られなかったとは述べています。IBM i およびAIXショップの現実的なパフォーマンス向上のために取り組めることは、他にもいろいろあるからです。

どのような展開になるかは明かにされませんでしたが、Starke氏は、いくつかヒントを示してくれました。それらについては、今後の記事で取り上げる予定です。乞うご期待。

あわせて読みたい記事

PAGE TOP