IBM、中国のシステム開発研究所を閉鎖へ
40年という歳月は、どれほど大きな変化をもたらしたのでしょうか。そして、米国と中国との関係に関して言えば、10年の歳月でさえ、さらに大きな変化をもたらしています。
40年前、IBMが本格的に中国に進出した頃には、中国がいつの日か経済的および軍事的に米国のライバルになるかもしれないと信じる理由は、人口の膨大さ、天然資源の幅広さと奥深さ、および統制経済の忍耐強さと粘り強さだけでした。中国は、いわゆるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)経済圏の中核でした。そして、IBMが中国に進出した約30年後には、購買力平価ベース(商品・サービスのマーケット バスケットが購買力で均衡するように調整された経済指標)の国内総生産では、BRICsのシェアが、 G7諸国(米国、ドイツ、フランス、イタリア、日本、英国、カナダ)のシェアに匹敵 するようになり、それ以降、G7のシェアが低下し続けるのにつれて、次第により大きな割合を占めるようになっています。
したがって、このことからすると、 今年、IBMが中国の2つの主要な開発研究所を閉鎖するというのは驚きかもしれません。しかし、こうなったのは、中国が国産技術での自立を求めるようになったからでした。そして、この10年の間に、PowerチップのISAをオープンソース化し、中国の製造業者をOpenPower Consortiumに招き入れたり、サーバー製造を米国およびアイルランドから中国およびシンガポールへ移したりしましたが、与党中国共産党を満足させるのには十分ではなかったようです。
結果として、かつて盛んだった中国でのPower Systemsビジネスも、ほとんど商売上がったりとなり、その結果、IBMは今年始めにChina Development Lab(CDL)を閉鎖し始め、そして先週には、China Systems Lab(CSL)を閉鎖するに至りました。 『日経新聞』の報道によれば 、IBMによる中国でのレイオフは、北京、上海、および大連の従業員、約1,600人に影響を与えるということです。CDLは、アプリケーション ソフトウェアを開発しており(たとえばIBMのWatsonX AIモデルおよびそれらの稼働のためのフレームワークの構築に貢献)、1,000人を超える従業員を抱えています。一方、CSLは、IBMのメインフレームおよびPowerプラットフォーム向けのコンパイラーおよびシステム ソフトウェアに取り組み、約700人の従業員を抱えているということです。
IBM i プラットフォームに関する多くの研究開発業務は中国で行われているのではないかと以前からずっと疑っていましたが、証拠は何もありません。また、多くの業務はインドで行われているとも思います。バンガロールのIndia Systems Development Lab(ISDL)は、 IBMのInfrastructure部門における「最大の開発ハブ」であるようです(Infrastructure部門はSystem zおよびPower Systemsプラットフォームの組み合わせです)。
CDLおよびCSLでのレイオフの結果として、IBMは、バンガロールで業務を引き継ぐべく、中国のソフトウェアおよびハードウェア エンジニアの代替要員を探しているという噂話がありました。IBMが、プロジェクトを継続するために中国から世界各地の他のラボへ移転する可能性を顧客に示唆していたかどうかは明らかでありません。
『 The Four Hundred』の取材で、IBMは中国のラボの閉鎖を認めましたが、どのような計画なのかに関しては、以下の声明以上の詳しいことは述べませんでした。すなわち、「IBMのクライアントへの最善のサービスの提供に資するために、IBM Powerの開発任務を他の拠点へ統合することとしました。この任務を、すでに業務を行っているところへ移転することにより、クライアントに継続性および信頼性を保証しつつ、持続可能な長期的成長の達成を目指すものです。」
まず、私たちがそもそも米国人であり、私たちの家族の長い歴史が西欧をルーツとしているのだとしても、中国で良い仕事に就いていた約1,600人以上が仕事を失うことには、やはり深く同情するものがあります。しかし、そうは言っても、IBMの中国ビジネスが、中国の国産IT技術推進の取り組みによって締め出されたのであれば、そうした仕事の一部(すべてとまではいかないにしても)が、北米ならロチェスター、オースティン、ローリー、ポキプシー、およびトロントへ、あるいは欧州各地のラボへ戻って来ることが期待されます(ただし、欧州では雇用するのが非常に難しいものがあります。欧州は解雇規制が非常に厳しいからです。これは、雇用される側にとっては素晴らしいことですが、雇用する側にとってはそうではなく、当然のことながら、雇用をためらわせる原因になります。契約が長期間に及ぶ可能性が非常に高いためです)。ここには、Power SystemsおよびSystem zの顧客がいます。日本(東京)およびスイス(チューリッヒ)のIBMのラボは、勢いづくかもしれません。フランスのモンペリエのラボやドイツのベーブリンゲンのラボも同様です。
いずれ分かるでしょう。あるいは、実際にどうなるかは私たちには分からない可能性の方が高いかもしれません。IBMがそれについて多くを語るわけではないからです。そして率直に言えば、本当に大事なのは、PTFのパッチや、ファームウェア、オペレーティング システム、ミドルウェア、および開発ツールで、定期的なリリース周期がきちんと守られ、現実の問題の解決に狙いを定めた真の改善がもたらされることなのです。