IBM、Log4j問題を受けてNew Navの開発を加速
昨秋、IBMがNavigator for iの新バージョンを発表した時点では、エグゼクティブたちは、顧客の間で徐々に導入が進んでいく中で、この新製品の機能を充実して行く時間が取れると考えていました。ところが、旧バージョンがLog4jによって深刻なセキュリティ脆弱性に晒されたことで、そうした計画は一変してしまいました。そして、IBMは、プロモーションおよびアウトリーチ活動を強化するのと同時に、New Navを基にした構築作業を前倒しする必要が生じているようです。
2021年9月、IBM は、最新のIBM i 7.3および7.4向けのテクノロジー リフレッシュ(TR)のアナウンスの際に、Navigator for iの新バージョンを発表しました。New Navと呼ばれているこの新製品は、動作のしかたの点と、使用されている基礎となるテクノロジーの点の両方で、旧バージョン(Old Nav)から大きく変わっています。しかし、現行リリースを使用している顧客のみに利用可能であることで、ちょっとした窮地に陥っているユーザーもいるようです。
テクノロジーの面から見てみると、New Navは、Angular(JavaScriptフレームワーク)およびPrimeNG(Angular向けのポピュラーなコンポーネント ライブラリー)を使用して開発されました。それによって、New Navには、ユーザーがWebで使い慣れている最新のルック&フィールがもたらされました。また、Toolbox for Javaを使用して開発され、1995年に初めてリリースされた旧バージョンのNavigator for iに比べて、応答性がはるかに向上しています。
また、New Navは、この数年間、Db2 for iビジネス アーキテクトのScott Forstie氏と、ミネソタ州ロチェスターの彼のチームが開発してきたSQLサービスをベースにしています。SQLサービス(IBM iサービスとも呼ばれる)は、ユーザーがシステムと対話したり、システム リソースにアクセスしたりする方法として主に用いられてきたCLコマンドおよびAPIを、徐々に置き換えつつあります。現時点で数百のSQLサービスがあり、さらに多くの開発が進行中です。
機能の面で言えば、New Navはまだ開発途中ということになるでしょうか。New Navは、多くの領域で機能が向上しています。しかし、機能が備わっていないせいで、ユーザーがOld Navを使用することを強いられたり、5250インターフェースでのCLコマンドの使用やAPIでの作業を余儀なくさせられている領域もあります。
New Navには、好感が持てる点がたくさんあります。たとえば、New Navでは、ユーザーは1つの画面から複数のIBM iシステムまたはLPARを監視および管理することができます。これは、Old Navでは複数のタブを開くことなしにはできなかったことです。
これは、IBM iユーザーが長年、不満に思っていた機能だったと、IBM i開発ツール担当IBMビジネス アーキテクトであり、この製品の開発を主導する1人であったTim Rowe氏は述べています。
「これは、顧客から不満に思っているということを知らされた機能の1つでした」とRowe氏は述べます。「この機能は、この新たなインターフェースの開発時の、設計の見地からの大きな重点項目でした。実際、新たなインターフェースは、システムのすべてに容易にアクセスでき、管理作業を行いやすい、システム間を行き来しやすいダッシュボードとなるように意図されています。以前のソリューションでは不可能だった、ライブ マルチ システム、マルチメトリック モニタリング機能が加わったということです。」
旧製品にはなかった機能で、New Navに追加された小さな機能もたくさんあります。たとえば、New Navは、製品ライセンスに関するレポート機能をサポートします。また、ファイル共有に暗号化が必要かどうかについて、より詳細な情報をユーザーに提供する機能も追加されています。
また、管理者は、無効化されたユーザーIDのリストを表示するダッシュボードを、簡単に表示できるようになりました。これは、以前は簡単には行えなかったとRowe氏は述べています。「それらは、長年の、システム管理者にとっての泣き所でした」と彼は『 IT Jungle』に述べます。「要望を受けて、提供された機能ということです。」
見方によってはプラスにもマイナスにもなるかもしれない機能があります。それは、New Navのインターフェース自体に備わる特性です。つまり、New Navのインターフェースは、ユーザーによって全面的にカスタマイズすることが可能であり、ユーザーは何を確認したいかに応じてダッシュボードを構成することができるという点です。ユーザーは、画面で確認したい要素をドラッグ&ドロップすることができます。Old Navでのやり方に慣れているユーザーには、多少の慣れが必要かもしれません。
「Active Jobs」ダッシュボードでは、New Navで提供されるメトリクスは、Old Navに比べて2.2倍に増えているとRowe氏は述べています。
「Old Navで利用可能だったものを見てみると、おそらく、データを返すことができる、およそ35~40のメトリクスがあったと思います」と彼は述べます。「New Navには100以上あります。非常に多くのメトリクスが新たに利用できるようになっています。」
以前は利用可能でなかったメトリクスもいくつかあります。これらのメトリクスを使うことで、カスタマイズ度の高いビューを作成でき、IBM iジョブで何が起こっているかを表示することができます。「独自のメトリクスを追加できるため、極めて自由にビューをカスタマイズできます」とRowe氏は述べています。「ユーザーは独自のアプリケーション メトリクスを追加することもできます。これは非常に面白いかもしれません。」
前述の通り、New Navは、システム値や、New Navが必要とする他のデータを取得するのに、裏側でSQLサービスに依存して処理を行っています。しかし、重要なSQLサービスの構築が完了していないことから、一部の処理では、New Nav自体が、CLコマンドまたはAPIを使用します。また、たとえば、Advanced Job SchedulerやBRMSなど、利用可能なCLコマンドおよびAPIがあっても、New Navが対応していない領域もいくつかあります。
現時点で、New Navに欠けているもうひとつの大きな領域は、メッセージ監視機能だとRowe氏は述べています。昨年9月の「GA(一般向け提供開始日)に向けては、その機能を組み込むのに十分な時間とリソースがありませんでした」と彼は述べています。「しかし、あとほんの一歩でそのような機能を追加できるところまで来ています。これは優先すべき機能です。管理者が使用する重要な機能の1つであるからです。その機能が必要であることは管理者から教わりました。それもまた、優先されるべきことの1つです。」
New Navが、IBM i管理者向けの戦略的なGUIであることは明らかであり、この製品の将来は明るいように思えます。IBM iプロダクト マネージャーのAlison Butterill氏によれば、今後数か月間は、IBMによるNew Navのプロモーションや、IBM i顧客にNew Nav導入を促す働き掛けを目にする機会が増えそうです。
「Log4jによって方向性が変わったことは確かです」とButterill氏は述べています。「どのようにNew Navを展開して行くかについては計画を立てていました。そうした計画を前倒ししただけです。そのため、IBMは、今この瞬間も、そうしたコミュニティ グループとともに作業に取り組んでいるのです。」
IBMは、IBM iメディア(小誌も含めて)を使ってNew Navの広報活動を行っており、 COMMON や COMMON Europeといったユーザー グループと関連のある様々なアドバイザリー カウンシルと協働しています。「現在、私たちは彼らと連携して動いています」とButterill氏は述べています。
しかし、引っ掛かる点がまだいくつかあります。まず、New Navは、IBM i 7.3および7.4でのみ稼働し、IBMは、IBM i 7.1および7.2のような 以前のリリースではNew Navをサポートしないことを明らかにしています( HelpSystems 社の最新の「IBM i Marketplace Survey」によれば、IBM i 7.1および7.2は、IBM iユーザーのそれぞれ10%および8%によって使用されているそうです)。
また、IBMは、 Old NavのLog4jの脆弱性のパッチは提供しないとも述べています。Old Navは、現行サポートのIBM iリリース上でも、IBMがサポートしていないリリース上でも引き続き稼働しています。そのため、サポートされていない以前のリリースを使用しているユーザーには、いくつか選択肢があるとButterill氏は述べています。
「Old Navの使用を止めて、ツール(BRMS、Job Scheduler)を利用して引き続き作業を行うこともできます。システム ツールがたくさんあるため、それらをグリーン スクリーンから呼び出すこともできます。それらを使用すれば問題なく作業することができます。いくつか使用できない機能もあるかもしれませんが、そうした作業を行うことができます」と彼女は述べます。
「そういう選択肢もあります」とButterill氏は続けます。「もうひとつの選択肢は、7.3または7.4へアップグレードすることです。そうすれば、New Navigatorを使用し始めることができます。」
IBMがどの選択肢を勧めようとしているかは明らかです。