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IBMi海外記事2019.03.28

IBM Power10以降のチップのエッチングプラン

Timothy Prickett Morgan 著
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昨年の夏、AMD、IBM、およびChartered Semiconductor Manufacturing社のファウンドリー事業から成るチップ製造コングロマリットであるGlobalFoundries社は、計画されていた7ナノメートル チップ製造技術の積極的な開発推進の中止を発表しました。サーバー チップ製造をGlobalFoundries社に依存しているAMDとIBMは、GlobalFoundries社が7ナノメートルの開発および量産を停止する意向であることを発表前に知らされていたのは明らかであり、一見、それほど窮地に追い込まれたわけではありませんでした。

最前線にとどまろうとしていたファウンドリーが複数あることは、両社にとって幸運なことです。けれども、そのことは、チップ製造ビジネスで収益が減ってはいない、ということではありません。AMDが、Intelにチップの製造を依頼できないのは確かですが、それにはそれ相応の2つの理由があります。1つには、競合するAMDがIntelに対抗する形でチップを販売しているからで、どのような価格であってもその製造を引き受ける道理はまったくありません。2つには、10ナノメートルまたは7ナノメートルいずれの開発および製造に関してもIntelは準備が整っていないからです。Intel自身の10ナノメートル チップは数年遅れて市場に登場することになり、このことにより、Taiwan Semiconductor Manufacturing Corp社と提携している誰に対してもサーバー ビジネスの門戸が開かれた状態になっています。TSMC社では、最先端の12ナノメートル チップを製造(Nvidiaの「Volta」V100 GPUコプロセッサーが最初)しており、2019年には、7ナノメートルのAMD「Rome」EpycおよびArmチップの出荷(おそらく、Marvell/Cavium社の「Triton」ThunderX3が最初になる)に向けて順調に準備を進めています。

IBMにとって非常に幸いなことに、最先端のファウンドリーとして、4つ目の選択肢が存在していました。実際のところ、そのファウンドリーは世界最大の半導体メーカーであり、メモリーおよびフラッシュ価格が急騰した2017年には、売上高でIntelを上回っています。また、2014年2月からはOpenPower Consortiumのパートナーとして、IBMがPowerプラットフォームで行っていることに対する洞察を提供しています。おそらく最も重要なことですが、この会社は、14ナノメートル、10ナノメートル、7ナノメートル、および5ナノメートル ノードにおける基礎研究を含む、ますます微細化するチップをエッチングするための技術および手法の開発において、IBMおよびAMDとのパートナーでもあります。その会社というのは、もちろん、Samsung Groupとして知られる年商2250億ドルの韓国のコングロマリットのチップ製造部門である、Samsung Electronics社です。

IBMのCognitive Systems部門担当シニア バイスプレジデントのBob Picciano氏は、『The Four Hundred』のインタビューで、IBMの今後のプロセッサー ファウンドリーにSamsungを選んだことについて認めるとともに、今後何年かの間にIBMが行おうとしていることについての見通しを話してくれました。

Power10の当初の計画は、GlobalFoundries社の10ナノメートル プロセスを使用してエッチングするというものであり、7ナノメートルへのシュリンクは、Power11チップの世代まで予想されていませんでした。これらのチップに関するタイミングというのは、常に少しぼんやりとしたものでした。というのも、チップ製造ではいつものことですが、開発する必要のある技術が幾分ぼんやりとしていたからです。しかし、トランジスタ ジオメトリーが小さくなればなるほど、課題はますます厳しいものになって行きます。そのため、18か月(過去数十年間のペース)~24か月(ここ2、3年間のペース)ごとにトランジスタをシュリンクするというムーアの法則のペースを維持することだけでなく、長期間にわたりCMOSチップ製造の道にとどまり続けることもますます難しくなっています。しかし、比較的安価でCMOSに代わるものはないため、今後10年ほどの間はそれで間に合わせるしかないことになり、そのことはコンピューティングとメモリーとストレージのパッケージングや相互接続の技術の動向に機敏に対応できる必要があることを意味します。しかし、その話は別の機会に譲るとします。

IBMとGlobalFoundries社との契約は、Power11チップで2024年に終了とされていましたが、両社は現行の14ナノメートルPower9チップの製造で協働し続けており、また、GlobalFoundries社の精緻化された14ナノメートル プロセスをベースに、マイクロアーキテクチャー、メモリー、およびI/Oの微調整が施されて今年中に登場すると見られている、今後のPower9'(プライム記号)チップでも協働しています。いつの日にか、GlobalFoundries社が7ナノメートルの開発を再開することがあるとしたら、IBMがPower10チップのソースを二重化することも可能性としてはわずかながらありますが、GlobalFoundries社が7ナノメートルの開発の取り組みにどれほど早く見切りをつけたかを考えると、これはまず起こりそうにないことと思われます。そうした開発の取り組みには、可視光を使用した従来の液浸リソグラフィーや、より先進的な極端紫外線(EUV)リソグラフィーも含まれていました。この技術は、将来的に7ナノメートルおよびより微細なジオメトリーのトランジスタを手頃に入手しやすくするためのコストを低減すると、TSMC、Intel、およびSamsungのいずれもが認める技術です。

IBM iのショップにとっての良い知らせは、GlobalFoundries社がドイツのドレスデンのFab 1、ニューヨーク州マルタのFab 8、およびニューヨーク州イースト フィッシュキルのFab 10で、14ナノメートル チップの生産体制を増強していることです。そのため、IBMは、しばらくの間はPower9プロセッサーを必要なだけ提供することができるでしょう。その一方で、現時点では、おそらくPower10の登場は、2020年後半または2021年前半まではなさそうです(Power10の計画は、10ナノメートル プロセスを使用し、コア数を1ソケットにつき48に倍増し、2019年後半から2020年前半までに登場というようなものでした)。2コア(プロセッサーではなく)でワークロードを稼働している多くのIBM iのショップの場合、現行のPower8チップで、それらのショップで必要とされるコンピューティングおよびメモリーのヘッドルームのすべてを提供可能です。彼らの増加しているワークロードのニーズを満たすためにIBMが行うべきことがあるとしたら、それは3年ごとにコア価格を半分にするということに尽きるでしょう。そうすれば、一般的なショップであれば、毎年平均で30%の価格/性能の増となり、毎年、33%の性能アップとなります。そうなれば、IBMはPower S914またはPower S924システムをまったく変更する必要がなくなります。さらに厳密に言えば、48コア マシンは、2035年の終わり頃までは、演算能力を大幅に増強したショップに対応可能でしょうし、2コアでこのプラットフォームを稼働しているIBM iのショップのジョブは2033年頃まで対応可能でしょう。その頃には、Power14チップが登場していることが予想され、Power14は、1つのソケットに何百ものプロセッサーが詰め込まれ、おそらく、メモリーや不揮発性記憶装置が埋め込まれた3Dマルチチップモジュールで、液体窒素または新奇な冷却剤によって冷却されるようになっているかもしれません。このときには、ソケットはコンピューターです。

数年前からプロセッサー事業への参入について検討していたSamsungにとって朗報なのは、同社の技術を向上させる手段としてIBMのプロセッサーを利用できるということです。現行の計画によれば、Power10チップは7ナノメートル プロセスで実装され、将来のSystem z16メインフレーム プロセッサーとなります。一方、System z15メインフレームのプロセッサーは、Power9チップの製造に使用されているのと同じ精緻化された14ナノメートル プロセスを使用してエッチングされます。それ以降のPowerおよびSystem z世代では、精緻化された7ナノメートル プロセスが予想され、さらに精緻化が進んで最終的には5ナノメートル プロセッサーへの移行が予想されます。その先については、チップ業界の最高の技術者たちが述べている以上のことは分かりようもありません。ただし、1つ分かっていることがあります。それは、製造部門を持たなくなった他のプロセッサー デザイナーや、今でも製造部門を持っているプロセッサー デザイナーであるIntelと比べても、IBMは少しも悪い状況に置かれているわけではないということです。

これはまさに厳しいビジネスであり、ますます厳しくなっています。そして、Power Systems事業がうまく行くということは、Intelについて行って、あらゆる利点を活用して、Intelから大事なデータセンターの収益のいくらかを奪い取ることを意味します。

技術的な面でPower9チップは、IntelやAMDやArmグループが市場に出すことができるどのような製品に対しても引けを取らない高い競争力がありますが、それでもなお、Power9を選ぶのはより難しく危険です。AMDのEpycプロセッサーは、Intel Xeonの最も容易な代替製品であり、PowerまたはArmプロセッサーが次の候補として互いより良いかどうかは議論の余地があります。しかし、IBMがプロセッサー デザインおよびシステム構築のビジネスにとどまるためには、Powerチップは進化し続ける必要があり、機械学習、スーパーコンピューティング、データ アナリティクス、従来のデータベース プロセッシング、およびインメモリーおよびストリーム プロセッシングの分野で勢いを増し続ける必要があります。1990年代後期および2000年代初期にPowerチップが旧AS/400およびRS/6000ビジネスを牽引したように、IBMおよびそのOpenPowerパートナーにとっての40億ドルから50億ドルのサーバービジネスになってゆく必要があります。IBMは、ここから収益を上げる必要があります。なぜなら、チップの慈善事業を行っているのでないからです。IBMは、顧客と同じくらい要求の厳しい株主がいる株式公開会社なのです。

IBMの認識は的確ですし、それを理解しようとしないのは愚か者だけでしょう。しかし、復活したAMDや血気盛んなIntelは、やはり手ごわい競争相手です。世の中は好き嫌いや偏見ばかりだからです。世界のHPCセンターおよびハイパースケーラーが何を行い、行わないかを注意深く見守ってください。そこにIBM iプラットフォームの未来を示す先行指標があります。

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