PowerUp 18で過去と未来が衝突する
COMMON主催の初めてのPowerUpカンファレンスが日曜日にテキサス州サンアントニオで開幕しました。Power Systemsプラットフォームについて学び、他のユーザーとナレッジを共有しようと約1,000名の参加者が集まりました。ディスカッションの重要なトピックの1つは、30年に渡って信頼性の高いサービスを保ち続けてきたIBM iサーバーでしたが、IBMエグゼクティブのSteve Sibley氏とStefanie Chiras氏は、PowerのAIの未来について語ろうとしていたようでした。
今のような時代に、1つのプラットフォームが30年もの長きに渡って生き続けていられるのは、きっと常に正しい行いをしているからなのでしょう。今日のIBM iサーバーは、1988年6月にミネソタ州ロチェスターから登場してきた最初のAS/400と同じような怪物マシンではありませんが、時空を超えてマシンをつなぐ共通のデジタルDNAをしっかり受け継いでいるようです(事実、IBM iの伝統は、AS/400よりさらにさかのぼって1970年代後期に開発されたSystem/38や、1980年代初期に発表されたSystem/36から受け継がれてきたものです。さらに言えば、1969年のSystem/3までさかのぼることもできます)。
そのような卓越した連続性は、今日、他ではほとんど耳にすることがなく、IBMにとっては大きな誇りの源であり、と同時にフラストレーションの源にもなっています。日曜午前に行われたIBM iの未来をテーマにしたパネル ディスカッションで、あるPowerUpの参加者が「L」で始まる言葉を持ち出しました。すなわち、IBM iが使い古されたLegacy(レガシー) プラットフォームではないことを、テクノロジーの意思決定者に納得させるのはどうしてこんなに難しいのだろうか、という話題です。特に、5250グリーン スクリーンを目の前にしているときはなおさらです。
その話題は、IBM iチーフ アーキテクトのSteve Will氏を少し刺激したようでした。「このオペレーティング システムがモダンでないと思っておられるのですか」と彼はパネル ディスカッションで問い掛けました。「IBM iがそうではないという、そのモダンというものの特徴を教えてください。私はその特徴をお示しできます。その特徴を備えているのですから。」(実際、Will氏は水曜日に「モダンなオペレーティング システムとは」というテーマでトーク セッションを行います)。
「我々と彼らとの違いは、今でもあなたが、そして多くの人々が、1990年に使用していたのと同じやり方で我々のシステムを使用できるという点です」と彼は続けました。DOSでPCを動かしている人はもういません。そんなことは誰もしようとしないでしょう。しかし、我々のコミュニティは、それまで使用してきたのと同じように、我々のシステムを使用しようとしてくれます。そうできる環境を我々は守ってきたのです。ですから、私は決してそれを変えるつもりはありませんし、彼らからそれを取り上げるつもりもありません。」
一方で、当初はパンチ カードで開発されたアプリケーションと後方互換性を保つシステムであると同時に、最先端の人工知能アプリケーションのサポートのために業界でも最も強力なディープ ラーニング アルゴリズムを稼働できるシステムであることの両立。そこにある根本的な矛盾こそが、このプラットフォームを非常にユニークかつ魅力的にしているものであるようです。
もちろん、Chiras氏とSibley氏は、パンチ カードの話をしたかったわけではありません。彼らが日曜日の朝のオープニング セッションで行ったプレゼンテーションは、全体としてIBM iおよびPowerビジネスの前に広がる輝ける未来をテーマにしたものでした。
「今こうしてあるIBM iを作り上げてきてくださったのは、ここにお集まりの皆様方に他なりません。これまでのご尽力につきまして大いに誇りを持っていただきたいと思います」と、IBM Power Systemsオファリング マネジメントの、SoE(エンゲージメントのためのシステム)担当バイス プレジデントという肩書を持つChiras氏は述べます。「ただ、より重要なのは、将来IBM iはどのような姿になっているかということです。」
機械学習テクノロジーおよびテクニックの急速な普及は、ビジネス コンピューティングとはこういうものだと、いう従来の認識に対して強い影響を及ぼし始めているとChiras氏は述べます。「以前は、いわゆるプロセスを単位として業務を行っていました」と彼女は述べます。その日に行う業務に関するビジネス ルールのセットを手に取り、それをコーディングし、コンピューターでそれを実行しました。そして次回は、よりうまく、より高速に行えるようになると思っていました。さらに、次の世代には、さらに高速に実行できるようになると思ったものです。」
しかし、企業は今では、そのようなプロセス テクノロジーの先に目を向けています。競争力を手に入れるべく別の方法を見つけようとしているのです。「今、大事なのは、データからどのような知見を引き出すことができるかということです。私のビジネス ルールおよびプロセスの中で私が知らない関係性の中に隠れていたそうしたデータから、私はどのようなことを学ぶことができるのでしょうか。それらのビジネス ルールおよびプロセスは、どのようにしたら昨日よりスマートにすることができるのでしょうか。」
Uber社のような企業は、このような形態のコンピューティング(当初は「ビッグ データ」と呼ばれ、今は機械学習または人工知能と呼ぶ人が多いようです)に資金を投じてきました。そして、新たな形態のコンピューティングは、それに熟達している人々にとっては非常に有力なものになることに加え、消費者と企業との関わり合いの中に消費者が求める事柄も変えてしまいました。
こうしたことは、IBM iのショップにとって良い知らせでもあり、悪い知らせでもあります。IBMはそう口にはしませんでしたが、1990年代ものの薄いグリーンの色が付いたレンズ越しにテクノロジーを見続けているIBM iのショップは、予測分析や機械学習のような技術を活用している技術的に何歩も先を行くライバルたちとの競争では苦戦を強いられることになりそうなのは明らかです。しかし、明るい面もあります。IBM iのショップは、自らを優位に立たせてくれるものをすでに持っているのです。すなわち、光速に近い速さでRPGアプリケーションを稼働することより、はるかに多くのことを行うことができる非常に強力なサーバーです。
プラットフォームを持つことが大事だとChiras氏は述べます。「業界の中でPower Systemsのイメージはどのようなものとして位置付けることができるか尋ねられて、私は、イノベーションのためのエンタープライズ プラットフォームと答えました」と彼女は述べます。「今日あなた方の会社が必要としていて、明日も引き続き必要とするものを提供し、また、業界内の他のどのプラットフォームとも違った形でコグニティブやAIを行う機会を提供するプラットフォームということです。」
チップ好きであることを誇りに思っているChiras氏は、大きな驚嘆の声を上げながらPower9チップを手に取りました。「Power9チップはエンジニアリングの最高傑作です」と彼女は述べます。「この小さなスペースに80億個のトランジスタが詰め込まれています。チップ内の配線は全長15マイル以上になります。とてつもないものがこの中に詰め込まれているということです。ですが、さらにとてつもないものは、このチップの中から外へ出てきて、ビジネスの世界へ届けられることになるものなのです。」
IBMは、Power9プロセッサーによってX86テクノロジーに対するハードウェアの優位性を積み上げてきました。IBMによれば、Power9プロセッサーは、コア ベースでX86の2倍のパフォーマンスを提供し、経済性はPower8の1.5倍だそうです。Nvidia社のGPUのようなハードウェア アクセラレーターや、Mellanox Technologies社の高速相互接続技術を組み合わせれば、極めて強力なセットアップが出来上がることになります。現在、米国国防省がオークリッジ国立研究所とローレンス・リバモア国立研究所で、ちょうどそのようなセットアップのインストールを行っているのは偶然ではありません。両研究所ではスーパーコンピューターを使用して米国の核兵器備蓄の有効性のシミュレーションを行うようです。
「コモディティでは駄目なのです」とChiras氏は断言します。「コモディティ タイプのハードウェアの時代は終わったのです。IBM iは、このようなものであったことはありません。ハードウェアを手に取り、ソフトウェアを手に取り、両者を1つに組み合わせたのです。一緒にして強力になりました。そして、このAIの時代が、業界内でのIBMiの場所に再び火をつけたのです。」
「X86に対するPowerのパフォーマンス優位性によって、AIワークロードでは大きな違いが生じます」とIBMは述べます。
Power9のおかげでIBMは、ハードウェアの面で、ディープ ラーニングへの関心の急増から恩恵を受けるための良い位置につけています。Power9システムには、プロセッシング集約型のモデル トレーニングを行う上で、Intel X86搭載システムに対してかなり大きなパフォーマンス優位性があります。しかし、Google独自のTensor Processing Unit(TPU)など、専門のAIベースのハードウェアの新たな波は、トレーニング分野で桁違いの高速化を実現しはじめています。
IBMが望んでいるのは、IBM iのショップに、機械学習やAIの威力を解き放つソフトウェアに興味を持ってもらうことです。IBMは、Tensorflow、Caffe 2、Torch、PyTorch、およびTheannoといったオープンソースのディープ ラーニング ライブラリーを使用して開発者が予測モデルを開発することを可能にする、PowerAIおよびData Science Experienceなどの製品のコレクションを開発してきました。IBM iサーバー(およびメインフレーム)がどれくらい多くのトランザクショナル データを保持しているかを考えると、ある1人のデータの中にまだ見つかっていない有用な相関関係があるかもしれないという考え方は、興味深い考え方かもしれません。
狙いは、AIツールを、十分に簡単に使えるものにすることにあります。その結果として、「あなたの会社の開発者にとって新たなAIアプリケーションを開発することは、以前にRPGまたはRPG Free Formアプリケーションを開発したのと同じくらい簡単なことになります」と、Power Systemsオファリング マネジメントのバイス プレジデントという肩書を持つSibley氏は述べます。
「我々は、このような新たなコンピューティングの時代の到来をまさに今、迎えようとしています」と彼は続けます。「そして、この新たなコンピューティングは、あなた方のほとんどまたはすべてがポケットに入れて持ち歩いているものに非常によく似たところがあるように思えます。そう、携帯電話です。10年前、AppleがiPhoneを世に送り出し、この10年間で我々のほとんどの生活が変わりました。ですから、たとえば今から10年後のCOMMONで再会するとして、あなた方の会社で稼働しているアプリケーションや機能を目にしたとしたら、同じように、アプリケーションの使われ方が、会社での仕事のやり方をすっかり変えてしまったのだと感じることになるのだろうと思うのです。」