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IBMiコラム2024.09.25

IBM i のウンチクを語ろう
~ その99:オープンかプロプライエタリかハイブリッドか

安井 賢克 著

皆さん、こんにちは。前回のコラム「最近JAVAは『元気』なのだろうか」を書きながら、JAVAと似たような状況にある製品は他にもあるなぁ・・・とふと気付きました。機能性と使い勝手の良さゆえに数多くのユーザーを獲得し、デファクトスタンダードと目されるほど市場に浸透したにも関わらず、開発元企業の環境の変化に伴い使用条件が変更されて実質的料金が上がり、結果的にユーザーの反発を招いてしまった製品です。とは言っても、いずれ次第に沈静化してゆくのだろうとは思いますが。

ユーザーが負担するべきコストの大きさは製品に付けられた「値札」で決定されるのは当然として、普段はどちらかと言うと日陰の存在でありながら、料金に対して時に決定的な役割を果たすのが使用条件という「曲者(くせもの)」です。何らかのアプリケーションをインストールしようとすると、退屈極まりない長々とした文章が表示され、最後まで読んで「同意する」にチェックを入れることを求められるという場面には、ほとんどの方が遭遇した経験をお持ちだと思います。金額の大小といった単純なものではなく、記述されている各条項がコストにどのように影響するのかを考えなくてはなりません。

考える

前回のコラムではJAVA人気の右肩下がり傾向の原因を検討し、その一つとして使用条件変更がもたらした「実質的な有償化」を述べ、「『JAVAはオープンな言語』という世間の印象を、『オラクルの言語』に変えてしまった」点を指摘しました。金額の多寡が問題視されたのもさることながら、メーカーの思惑一つで製品を使用する際の条件が如何様にも変更されてしまう現実を、ユーザーはいきなり突き付けられたわけです。

細かな事情は異なりますが、VMwareにおいてもBroadcom社による買収を機に、使用条件が変更され同様のことが起きてしまったようです。「VMWareはオープンな仮想化環境」だったのに、「Broadcomの仮想化環境」に様変わりしたというわけです。

何が変わったのか、様々なメディアの情報を総合するとおそらく以下に集約できるようです。漠然と眺めているとわかり難いですし、実質的値下げになるケースも皆無ではありません。ですが多くのメディアでは、大きな値上げを招く可能性があるため市場の反応は否定的だ、最適な移行先製品をどうやって選択すれば良いのか、といった論調の記事・情報で賑わっています。私自身はこの製品の料金体系に関して何ら知見を持ち合わせていないのですが、取り敢えずはコストへの影響を冷静に評価することが先決なのではないかと思います。

  • 数多くのメニューの中からアラカルト的に選択できた機能が、4つのエディションに集約・提供されるようになった: 機能の数が多過ぎるので購入し易くなったという見方もありますが、必要な機能を入手するために、不要な機能を含む上位エディションを買わざるを得なくなる可能性が生じます。製品体系が変更されたためにコストがXX倍になった、といったコメントをメディアで見ますね。
  • プロセッサ・ソケット単位の永続ライセンスが廃止され、プロセッサ・コア単位のサブスクリプション・ライセンスに移行した: プロセッサのソケットあたりに搭載されるコア数が増加する傾向があるとか、サブスク型の料金体系が市場において一般化するのであれば、課金体系がそれなりに見直されるのは止むを得ないように思います。構成とかソフトウェアの使用期間次第では実質的値上げ・値下げのどちらも考えられるはずですが、どうしても値上げの方に目が行くのは避けられないものです。放置すると売り上げ減少を招くでしょうから、かつて製品企画に携わった身としては、メーカーの立場を多少は擁護したくなるのが正直なところです。
  • 主にハードウェア・メーカー向けの組み込み用OEMライセンスが廃止された: ハードウェアとVMwareとを一体化した、HCI(ハイパー・コンバージド・インフラストラクチャ)ビジネスの見直しが必要になります。これによりユーザーはハードウェアに統合されたVMwareではなく、独立したソフトウェア製品としてBroadcomからライセンスを直接購入することになります。実質的値上げになるケースがあるようですが、むしろハードウェア・メーカーからの反発の方が大きいかもしれません。
  • ユーザー企業によって購入できるエディションが制限された: 詳細はわかりませんがメディア情報によると、ユーザーのランク分けがなされ、それに応じて購入できるエディションが決まるのだそうです。当然のことながら、必要以上に上位のエディションを購入せざるを得なくなるケースが生じます。ランクの基準は公開されていないこともあり、この施策は不評だろうなと想像できます。

たとえ何割かのユーザーが離反することになったとしても、実質的な有償化や料金値上げはメーカーのビジネスを安定・成長させるためには必須だという判断が働いたのでしょう。既存ユーザーを蔑ろにしたのに?・・・と言いたくなるかもしれませんが、他の仮想化ソフトウェアに移行するのは簡単ではないのが現実です。不満を溜め込みながらも値上げを受け入れざるを得ないユーザーが多数派を占めるのではないでしょうか。今回の施策が良策・愚策のどちらだったのかは将来の判断に委ねるしかありませんが、少なくとも現時点における冷静なビジネス的評価は株価に現れるのではないかと思います。

調べる

過去からの経緯を紐解いてみると、Broadcomが旧VMwareを買収すると発表したのは、2022年5月26日でした。前日の25日のBroadcomの株価は53.16ドルだったのに対して、2024年8月26日時点の株価は166.36ドルですから、ざっと3.1倍に上昇しています。ユーザーの感覚に反して、と言って良いと思いますし、他の要因もあるはずですが、株式市場は概ねBroadcomの施策を否定的には捉えていないようです。

IT業界には皆が使っているからオープンだ、といった認識がよく見られます。JAVAは元々サンマイクロシステムズ、その後は買収に伴ってオラクルが版権を引き継いでおり、オラクルの裁量で使用条件が変更されたというのが過去の経緯でした。同様にVMwareの使用条件はBroadcomの裁量で変更されたというわけです。使用条件の観点から見れば、これら製品をオープンであると表現するのは無理がありそうですね。

意外な感じがするかもしれませんが、冷静に見るならば、オラクルのJAVAやVMwareはIBM i と同様にベンダー独自のプロプライエタリ(Proprietary)製品です。多くのユーザーは頭ではそれをわかっていながら、これらをオープンな製品だと見なしても、実際には不都合が生じることはありませんでした。正確ではないけれども長年の実績ある心地良い認識が、正確だけれども不都合な認識を覆い隠し続けていたところへ、メーカーが使用条件を変更したのは「パンドラの箱」を開けるに等しい行為だった、ということなのでしょう。昨今のVMwareを巡るメディアの賑わいは、料金値上げ幅の大きさよりも、心情的な影響の大きさを物語っているような気がします。

IBM i について歴史的に見れば、これまでに何度か使用条件は変更されてきました。製品としてリリースされた当初はマシンあたり一律料金、その後マシン規模に応じたプロセッサ・グループ毎の料金、ユーザー単位料金、プロセッサ・コア単位料金、使用期間に応じたサブスクリプション料金、といった具合です。前提とする構成や使用状況など様々な要因によって一概には言えませんが、新たな概念に基づいて計算すると、どうしても値上げになるケースは生じておりました。

値上げ

JAVAやVMwareの様な「騒ぎ」にならないのは、ユーザー数が大きく違うというのもありますが、そもそもプロプライエタリ製品であると明確に認知されていたことも多少は影響したのではないかと思います。値上げ幅の大きさが議論されることはあっても、それ以上のものではありませんでした。

オープン性とは特定のベンダーに縛られないことだと定義するのであれば、「真の」オープンな製品はOSS(オープンソースソフトウェア)でなければなりません。ちなみにOSSと称するためには、字義どおりにソースコードが公開されていることに留まらず、Open Source Initiativeが定めたいくつかの条件を満たす必要があります。この翻訳版はOpen Source Group Japanから公開されていますので、一度さらりとでも目を通してみることをお勧めします。

これらを一つずつチェックしてゆくのは現実的ではありませんので、それぞれの製品が参照するライセンスが、OSSライセンスの文書リストの中にあるのかどうかで判断できます。例えば以前のコラム「意外に使えそうな無償開発ツールVSCode+Code4i」の中で紹介したCode4i (Code for IBM i )のライセンス文書によると、OSSのMITライセンス(翻訳版はこちら)の元でソースコードが公開されていることがわかります。IBM i 上で稼働するPHPやPythonといったプログラム言語も独自のOSSライセンスに基づいています。当然のことながら、JavaやVMwareは該当しません。

機能性だけでなく、使用条件の観点で見ても、多くのOSS製品がプロプライエタリ製品であるIBM i 上でサポートされています。基盤となるテクノロジーはベンダー独自のものだけれども、手に触れるテクノロジーには多くのオープン性が実現されている、というハイブリッド性がIBM i の特徴なのですね。

ではまた

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著者プロフィール

パワーシステム・エバンジェリスト

安井 賢克
やすい まさかつ

2017 年 11 月付けで、日本アイ・ビー・エム株式会社パワーシステム製品企画より、ベル・データ株式会社東日本サービス統括部に転籍。日本アイ・ビー・エム在籍時はエバンジェリストとして、IBM i とパワーシステムの優位性をお客様やビジネス・パートナー様に訴求する活動を行うと共に、大学非常勤講師や社会人大学院客員教授として、IT とビジネスの関わり合いを論じる講座を担当しました。ベル・データ移籍後は、エバンジェリストとしての活動を継続しながら、同社のビジネス力強化にも取り組んでいます。

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