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IBMiコラム2024.05.28

IBM i のウンチクを語ろう
~ その95:最新の市場調査結果から考えるIBM i の課題

安井 賢克 著

皆さん、こんにちは。米Fortra社では、南北アメリカやヨーロッパを中心とする世界のIBM i ユーザーを対象に市場調査を毎年実施しており、その結果をレポートとして公開しています。当サイトの「IBM i 海外記事」にて幾度となく参照していますし、私自身もこのコラムで取り上げたこともありますので、レポートの存在をご存知の方もいらっしゃるかもしれません。今回は最新2024年版のレポート「2024 IBM i Marketplace Survey Results」を参照しながら、IBM i ユーザーが抱える主な課題を考えてみようと思います。レポートは英語ではありますが、どなたでも無償でダウンロードすることができます。

IBM i のユーザーはどのような課題を抱えているのか、早速「Top Concerns」を見てみましょう。8年連続でトップとなったのはセキュリティでした。昨年の68%を11ポイント上回る、過去最高値の79%を記録しています。続く72%のスコアだったのが、モダナイゼーション(テクノロジー刷新)です。2021年の51%から3年間で21ポイントも急上昇していることから、レポートでは今回の調査におけるハイライトのトップに挙げています。次のIBM i スキル65%も、2021年の46%から19ポイントの急上昇です。その後は高可用性・災害対策63%、ITとビジネスの自動化44%、と続きます。

念のためですが課題の投票は複数選択式なので、全ての選択肢の得票パーセンテージ合算値は530%近くになっています。

昨今のセキュリティ事故やランサムウェア被害に関するニュースを見れば、セキュリティが記録的高スコアを得て懸念事項のトップになったことは納得できるのですが、対策の方は必ずしも進んでいるとは言えないとレポートは指摘しています。IBM i のセキュリティ神話はこれまでの実績に過ぎないものとして一旦脇に置き、打つべき対策を冷静に評価する必要があります。

対策

レポートの調査結果「Cybersecurity」をご覧いただいてもわかるように、セキュリティと言っても様々な観点があり、対策は一つではありません。レポートに掲載されているのは、特権ユーザー管理、出口点セキュリティからデータベースの暗号化にいたるまでの8項目があるのですが、これらはシステムセキュリティの一部に過ぎません。この他にもアプリケーション、ネットワーク、設備、企業ポリシーなどの各カテゴリにおいて考慮・実装するべき対策があります。対策に完璧はあり得ないとよく言われます。どこかが破れても他で守る、多層防御の考え方を取り入れることで安全性を高める、というのがセキュリティの基本姿勢とされています。

システムセキュリティの8項目それぞれについても、実装は進んでいるとは言えないようです。実装済みと実装を計画中の割合の合計値を見ると、特権ユーザー管理の44%がトップであり、どの項目においても実装の予定が無い方が多数派を占めています。詳細については、この事態を憂うべきとする記事「IBM i のセキュリティ上の懸念が最高潮に達する一方で、ソリューションの導入は遅れ気味、Fortra社の市場調査」が参考になるものと思います。正確にはわかりませんが、日本における状況はこれを上回ることはないだろうと想像しています。

あるべき論はわかるけれども現実的に直ぐに全てを実装するのは不可能だ、という声もよく聞きます。確かにおっしゃるとおりです。だからと言って、最低何をやれば良い、どこから順に手掛ければ良い、といった指針を目にしたこともありません。ユーザーによって優先度の考え方が違うだけでなく、優先順位を下げたところを破られて指針の不備だと非難されるのを恐れてしまう、といったところが背景にある本音なのでしょう。

私自身の肌感覚として最もよく実装例を耳にするのは監査レポーティングです。IBM i にはシステム内部の動きを監視・記録する監査ジャーナルという機能がOS標準で実装されているので、これを活かすものです。言わばシステム内蔵の監視カメラの様なものです。また、業務データをインターネット経由で送受信する際に、暗号化などの対策を取るのはほぼ常識化していると言って良いかもしれません。またIBM i のオープン化が進むにつれ、IFSというWindows互換のファイルシステムに対するアンチウィルスソフトも最近は実装例が増えています。

第2位の課題であるモダナイゼーションについては、レポートでは二つの要素が関連していると分析しています。一つは今後共IBM i を継続利用しようという意向があること、もう一つは第3位にランクインしているIBM i スキルに関する課題意識の高まりです。

課題

IBM i の継続利用についての調査結果「Plans for the platform」を見てみると、全面的に脱却するとしているユーザーは10%に留まっています。その内訳として脱却時期を2年以内とする回答は3%あり、実現に向けた具体的計画が進んでいると見て良いでしょう。2年以上先ないし未定という回答の残り7%は、脱却は構想のレベルに留まっていて計画は具体化していないと見て良さそうです。

私個人の経験でも、構想はあるけれども他サーバーへの移行ワークロードやリスクを見て、検討を進める動機を見失ったまま棚上げにするケースを見聞きすることがあります。具体化することはまず無いので、販売店の立場からするとIBM i のビジネスに影響は無くて済むとは言えますが、他に良い選択肢が無いので継続利用するという状況は望ましいものではありません。IBM i のユーザーであることに自信を持っていただきたいと、私自身も日々活動しているのですが、全てのお客様に理解を行き渡らせることはなかなかできないのが現実です。

結局のところ、IBM i からの脱却を考えていないユーザーは90%、脱却を考えてはいても実際には実現しないと想定できるユーザーを含めると、IBM i を継続利用するであろうユーザーは97%に達することになりそうです。

念のために投資対効果(ROI)がどのように評価されているのか、「Return On Investment」の結果を見てみましょう。IBM i は他のサーバーと比べてROIに優れていると思いますか、という設問に対して94%が「はい」と回答しています。レポートによると、過去10年間の調査において90%を割り込んだことがありません。要するにほとんどのユーザーは、導入効果を考えればIBM i は安い、と評価しているのです。

明示されていませんが、ここで言う投資とはハードウェア、ソフトウェアとそのサービスだけでなく、システム管理・運用やアプリ開発における人件費も含まれていると考えられます。ITに関わる総所有コスト(TCO: Total Cost of Ownership)を分析すると、最も大きな割合を占めるのが人件費の時代です。社内で人が動けばコストが生じる、という意識が無いと、すなわちハードウェア、ソフトウェアとその周辺サービスだけを考慮するならば、IBM i は割高と見なされてしまいがちです。

高い

ROIに優れているのでIBM i を継続利用しようと判断する傾向があることは理解いただけたとして、もう一つの要素であるIBM i スキルについても見てみましょう。レポートが指摘するのは、IBM i 熟練者の退職を見据えて、経験が少ない方が短期間で業務を引き継げるよう準備を進めているというものです。モダナイゼーションによって、よりわかり易い運用・利用環境を構築するだけでなく、アプリケーションについてもクラウドへの移行または連携によるハイブリッド化を推進しようとします。

日本においては、人材確保が困難になりそうだから他のサーバーに移行しよう、という発想がやや優勢かもしれません。私自身もこのような発言を何度か聞いていますが、本当にこのようなことが妥当なのか、半信半疑になりながら情報収集を進めるケースが多いように感じます。移行はIBM i のメリットを放棄することでもありますし、上述したようにワークロードやリスクも考慮しなければなりませんので、迂闊にできる判断ではありません。最後の手段と見なしていただいた方が良さそうです。

脱却の前に検討するべきことは以下の3つに集約できそうです。モダナイゼーション(オープン化)によって新しい人材を受け入れ易い体制を作る、モダナイゼーションによってアプリケーション開発や運用において生産性を高め人材需要を減らす、どちらも良い解決策が無ければ社外にリソースを求める、といったところでしょう。

ちなみに人材過不足の状況は日米で大きく異なることが、「DX白書2023」(独立行政法人情報処理推進機構)にて報告されています。2022年時点でDXを推進する人材が充足しているとする割合は、アメリカが73.4%に達するのに対して、日本は10.9%に留まります。アメリカにおいては、IBM i 以外の領域から人材を獲得できる可能性がありますが、日本ではなかなかそうもいかない可能性があります。IBM i からの脱却は「特効薬」にはならないかもしれません。

ではどうすれば良いのか。考えられる対策をこの場で全て説明すると膨大なものになりそうです。個々にお持ちの課題を考慮しながら個別勉強会を開催することもできますので、関心ある方は「IBM i の次を考える勉強会」をお申込みいただければと思います。

ではまた

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著者プロフィール

パワーシステム・エバンジェリスト

安井 賢克
やすい まさかつ

2017 年 11 月付けで、日本アイ・ビー・エム株式会社パワーシステム製品企画より、ベル・データ株式会社東日本サービス統括部に転籍。日本アイ・ビー・エム在籍時はエバンジェリストとして、IBM i とパワーシステムの優位性をお客様やビジネス・パートナー様に訴求する活動を行うと共に、大学非常勤講師や社会人大学院客員教授として、IT とビジネスの関わり合いを論じる講座を担当しました。ベル・データ移籍後は、エバンジェリストとしての活動を継続しながら、同社のビジネス力強化にも取り組んでいます。

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