メニューボタン
IBMiコラム2023.04.26

IBM i のウンチクを語ろう
~ その82:RPGへの見方は変わってゆくのかもしれない

安井 賢克 著

皆さん、こんにちは。IBM i のユーザーにとって最大の関心事の一つは、RPG言語を継続的に利用するのは妥当なのか、それとも他の言語へと置き換えるべきか、という点にあるのではないでしょうか。利用可能なプログラム言語として、PythonやNode.jsなども含めて多様な選択肢が用意されてはいるのですが、IBM i イコールRPGという側面があるのは否定し難い現実です。すなわちRPG言語の動向はIBM i そのものの動向でもあり、ひいてはIBM i を利用し続けることの妥当性を判断するための指標ともなっています。

DXブームもRPG言語動向に対する関心を高める上で一役買っているようです。経済産業省による「DXレポート2(中間とりまとめ)」(2020年12月28日)の中で、「DX=レガシーシステム刷新」という図式は本質的ではないとわざわざ断っています。逆の見方をすれば、そのような思い込みが世間に根強いので、払拭しなければならないという意識の表れだとも言えます。RPGを利用するシステムは、レガシーだから刷新されるべきなのか、DX実現の阻害要因になってしまうのか、という問いはよく投げ掛けられます。

RPGについてまずは統計値から見てみたいと思います。参照するのはHelp SystemsあらためFortra社から公開されている、IBM i ユーザー動向を示す市場調査レポート「2023 IBM i Marketplace Survey Results」です。私自身も定点観測的にこのコラムで何度か取り上げたこともあるレポートの最新版です。この中に「IBM i で新たなアプリケーションを開発する際にどのプログラム言語を採用しますか」(Which development languages do you use today for new development on IBM i?)、という質問があります。

質問

トップ3を見てみると、RPG 93%、SQL 80%、CLP 70%の順になっています。RPGの過去を振り返ってみると、2022年版のレポートでは同率の93%、その前の2021年版では87%となっていました。ユーザーの間にRPGの将来性に対する不安を覚える方がいらっしゃることは間違いありませんが、データの方は逆にRPGがより一層活用される傾向にあることを示しています。Fortra社は、IBMによるプログラム言語のモダナイゼーション、すなわちRPGのフリーフォーム化(以下FF RPG)が、この言語をより一層必要不可欠な存在に押し上げることになったと指摘しています。かつては私も「必ずしもIBM i イコールRPGではない」と主張していたこともあるのですが、こうなると「強弁」するのはやめて、実をありのままに受け止めておこうと思ってしまいます。

Fortra社のもう一点の指摘は、複数のプログラム言語を組み合わせて使用するケースが増えているというものです。レポートに掲載されている全言語シェアのパーセンテージを単純合計すると394%になりますので、計算上は平均3.9種類の言語が使用されていることになります。同様に2022年版レポートでは371%、2021年版では376%だったことは、この指摘の裏付けになっています。FF RPGを含むILE RPG(RPGⅣ)は他の言語と組み合わせるのに適しており、旧来のRPG/400(RPGⅢ)からの移行が進んでいることが、この傾向を押し進めることにつながっているのでしょう。

どの言語との組み合わせケースが多いのか、レポートには明確なデータは示されておりませんが、昨今のIBM i のアプリケーション開発言語周辺の機能強化内容から想像できるのは、オープンソース言語の併用です。安井の感覚でしかありませんが、主要と思われる言語群(JAVA、PHP、Python、Node.js、Perl、Ruby)についてシェアを合算してみると、2023年版レポートでは105%、2022年版は98%、2021年版は97%になります。これらオープンソース言語群が使われるケースは、近年明らかに増加傾向にあることがわかります。

これを後押ししているのが、RPMとyumという事実上の業界標準であるオープンソース製品の配布・更新管理ツールです。ACSバージョン1.1.8以降において利用できます。ACS GUIの「オープン・ソース・パッケージ管理」メニューから起動すると、導入済みまたは導入可能なパッケージ一覧を見ることができます。様々なプログラム言語やミドルウェア、さらにはそれぞれのバージョンもあるので、利用可能なパッケージ数は現時点で600近くにもなります。

フォルダ

なお、RPG言語のシェア向上は、iMagazine社サイトの「IBM iユーザー動向調査2022」においても明らかにされています。RPGⅢ、RPGⅣのシェアはそれぞれ昨年比で伸びています。先のFortraレポートはアジア圏を含む世界規模、一方のiMagazineレポートは日本限定ではありますが、どちらも似たような傾向を示しているのは興味深いところです。今後少しずつRPGに対する世間の意識が変わってゆくことを示唆しているのかもしれません。

ここでRPG言語の利用動向にも間接的に関わりそうな、意外に思ったデータを見つけましたので、「DX白書2023」(IPA: 独立行政法人 情報処理推進機構)に目を転じてみたいと思います。日米企業を比較しながら、日本におけるDX動向を解説する文書です。これまでのDX進捗状況や推進体制など、あらゆる面における日本企業の問題点が浮き彫りになっているわけですが、目を引いたのはエグゼクティブサマリーのページ29にある図表1-31「レガシーシステムの状況」です。企業のITシステム全体の中で、レガシーシステムが占める割合をまとめたものです。ここで半分以上がレガシーシステムだとする会社の割合が、米国の22.8%に対して日本は41.2%であり、日本はレガシー脱却できていないとIPAは指摘しています。ところが一部でもレガシーシステムが残っているとする割合も加味して再計算すると、米国64.3%に対して日本69.4%とあまり大きな差はありません。DX先進国の印象がある米国においても、レガシーシステムは必ずしも一掃されているわけではないようです。

レガシーだからどうこうでなく、旧来のアプリケーションも使えるものは使う、という適材適所の考え方が徹底されているからなのでしょうか。調査会社のGartner社もIBMのレガシープラットフォームから脱却することを決断する際には、感情を排すべき(Remove emotion from the decision-making process)だと主張しています。「感情」は極端だとしても、目的であるビジネスと、手段であるITとを取り違えてはいけないということでしょう。取り違えによってリスクある決断をしてしまったケースは、第37回目(2019年7月)の当コラム「モダナイゼーションは正しい課題認識から」でお話ししたこともありますし、他のケースを見ても、このような判断は概ね良い結果はもたらさないようです。コラムに書いたケースにおいては、プロジェクトの中断を余儀なくされ、その後方針転換を図っています。

方針転換

リスクの高さが認知されつつあるからでしょうか、最近はテクノロジー刷新を第一とする考え方は下火になり、代わって新旧テクノロジーの組み合わせの方が優勢になりつつあるような気がします。きっかけとなっているのは(テクノロジー刷新とイコールだと短絡しない)DXであり、IBM i におけるREST APIのサポートです。インターネット越しのサーバー連携手段が整備されたことを活かして、既存アプリケーションとの組み合わせも視野に入れながら、迅速・安全に次世代のアプリケーションを構築する実績が積み上がりつつあります。

RPGプログラムから直接REST APIを利用できるのかという疑問を持たれる方もいらっしゃるでしょう。FF RPGを含むILE RPG(RPGⅣ)は問題無く利用できますが、RPG/400(RPGⅢ)はできませんので、中継用のILE RPGプログラムを新たに用意する必要があります。RPG/400の経験しかない方が中継用ILE RPGプログラミングに取り掛かれるのか、また社内基幹業務のみに携わっていた方がインターネットに関わるREST APIを使いこなせるのか、といった懸念もあるかもしれません。私達のお客様は、サンプル・プログラムと何カ月間かのQ&Aサポートの提供を受けて、そのハードルを実際に越えています。B-Core API-HUBの活用です。もし仮にレガシーアプリケーション、レガシーシステムからの脱却があるとしたら、おそらくそれは結果論であって目的であるべきではない、という点は念のために付け加えておきたいと思います。

ではまた。

あわせて読みたい記事

サイト内全文検索

著者プロフィール

パワーシステム・エバンジェリスト

安井 賢克
やすい まさかつ

2017 年 11 月付けで、日本アイ・ビー・エム株式会社パワーシステム製品企画より、ベル・データ株式会社東日本サービス統括部に転籍。日本アイ・ビー・エム在籍時はエバンジェリストとして、IBM i とパワーシステムの優位性をお客様やビジネス・パートナー様に訴求する活動を行うと共に、大学非常勤講師や社会人大学院客員教授として、IT とビジネスの関わり合いを論じる講座を担当しました。ベル・データ移籍後は、エバンジェリストとしての活動を継続しながら、同社のビジネス力強化にも取り組んでいます。

PAGE TOP