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真実は個々の技術論を超えたところにある

一言で言うとしたらIBM i とはどのようなシステムなのか。レガシー系なのかオープン系なのか。

私自身もこのような問いをもらったことが何度かあります。IBM i を使用した経験が無く、新たに採用するべきか検討中のお客様に向けてIBM i の特徴を一通り説明すると、投げ掛けられることが多かったように思います。説明会に参加していない社内の他の方に向けて、どういうサーバーだと紹介すれば良いのか迷われるのでしょう。

IBM i はハイブリッド型システムである

私のとりあえずの回答は、レガシー系とオープン系のどちらか一方とは言えない、両側面を備えたハイブリッド型システムです、というものです。ただ世間にはこのようなサーバー・カテゴリは存在しないので、質問された方は今一歩しっくりきていないような表情を浮かべます。IBM i が備えるテクノロジー全般を網羅するような、もっと本質的な特徴を挙げるためには、テクノロジーの視点から一歩引いた地点に立って、俯瞰してみる必要がありそうです。

「テクノロジーと市場」は「卵とニワトリ」

様々なシステムの誕生経緯を追いかけてみると、最初にテクノロジーがあって、用途を見出しながら発展してきたものが多いことに気付かされます。IBM i の場合はこれとは逆に、ビジネス用途という市場を理解するところから始まって、実装するべきテクノロジーを規定していると言えそうです。もっとも市場とテクノロジーの関係はニワトリと卵のようなもので、どちらか一方が他方を産み出し相互に作用し合うものなのですが、どちらが主導的立場にあるのかというシステムが抱える文化のようなものは、意外に根強く残っているものだと感じることがあります。

「哲学」から産まれたシステム

ハイブリッドの次の答えは、ビジネスのためという明確なコンセプトに基づいて設計されたシステムであること、というものです。もっと乱暴に短くするとしたら、周囲を煙に巻くような回答になってしまいますが、哲学があること、です。凡そテクノロジーを語るのにそぐわない言葉を持ち出したのには理由があります。

何年か前に、米国IBMの何ヶ所かの開発部門を見学するツアーに参加されたお客様がいらっしゃいました。各部門が担当する製品やテクノロジーの説明を聞く機会を持たれたわけですが、ツアーの印象として「オースティンは技術者、ロチェスターは哲学者」といった対比を語っていたことを憶えています。念のため解説しておきますと、テキサス州オースティンにはAIX、ミネソタ州ロチェスターにはIBM i の開発を担当する部門があります。ロチェスターでは哲学者が製品開発に携わっているわけではありませんし、数多くの技術者が集まっているのは紛れもない事実です。ここはロチェスターで働く技術者が「哲学」を語っていた、と考えるのが自然でしょう。一方のオースティンでは市場性を度外視してテクノロジーの実装に明け暮れているわけでもありません。しかしながらテクノロジー主導の姿勢というのは開発者の中に染みついているために、短期間のうちに両者を観察したお客様が、ロチェスターとの違いを明確に感じ取ったのだと想像されます。

市場のためにテクノロジーは「背伸び」した

IBM i の起源にあたるシステムはSystem 38と呼ばれていました。1978年に発表されたこのシステムには、それまでのコンピュータシステムには実装されていなかった画期的なテクノロジーがいつくか盛り込まれました。それらは今日のIBM i に至ってもなお先進性を保っています。当時画期的だったということは、裏を返すとテクノロジー面における未熟さでもありました。System 38 出荷開始当時は、期待したようなパフォーマンスが得られずに苦労したという逸話も残されています。

なぜ敢えてリスクを抱え込んでしまうかも知れないテクノロジーを盛り込もうとしたのでしょう。それはIBM i のコンセプトとして掲げた、ビジネスのためのシステム、という言葉で説明することができます。当時の多くのコンピュータは、文字通り計算機(Computeは「計算する」の意)に過ぎなかったのですが、ビジネスを支えるシステムの需要が急速に拡大することを開発者達は予見していました。ビジネスを支えるのだから、ユーザーにとってはどうするのが使い易いのか、利用形態としてどういった状況を想定するべきなのか、一般的なコンピュータが抱えるテクノロジー上の課題の中でどれに対して優先的に対処しておくべきなのか、といった事が徹底的に検討され、それぞれに対する解決策が実装テクノロジーに結びついているわけです。目の前にたまたま面白そうなテクノロジーがあったから、とりあえず実装してみたというわけではありません。

「哲学」を語った技術者

ロチェスターの開発者達は、その検討の過程を述べながら、最新テクノロジーの説明を行ったのでしょう。テクノロジーには解決されるべき課題が先にあり、解決策の価値やメリットといった背景を伴いながら、その仕組みが存在しています。ロチェスターには昔のSystem 38開発当初の心意気というか、このような思考プロセスが根付いていたのでしょう。他所では感じられないようなこの点こそが、IBM i の特徴なのだと言えます。



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