新人営業のつぶやき ~ IBM i Forum 2020に参加して
「はい、わかりました」と答えてはみたものの、「それってムチャぶりでは」と続く言葉を思わずのみ込んだ。製品知識が十分とは言えない私をつかまえて、「勉強がてらにフォーラム参加レポートを書いてね」なんて、こちらの表情(密かな抗議とも言う)が相手に伝わらないのはリモートワークのデメリットかもしれない。
ベル・データに入社して1年と少々。それまでIBM i はおろかITに関与した事は「1ミリ」も無い。IBM i はレガシーだけれどもオープンな側面も備えている、在宅勤務にあたってこんなソリューションはいかが、と最近ようやく自分の言葉でお客様に説明できるようになってきたばかり。少しずつこの製品を身近に感じられるようになったところだ。ところが距離が縮まってきたような気がするのはこちら側の一方的な片想いだったらしい。フォーラムが終わる頃には、IBM i は実はロケット・サイエンスの塊だった、みたいなインパクトを感じた。
幕開けはベル・データ安井の講演「IBM i 再認識と最新製品戦略」だ。IBM i の製品戦略については社内研修の中でも既に聞いている。ソリューションの充実を最重要項目として掲げ、これを推進するためのオープン性の追求と各種テクノロジーの統合、を加えたものが三本柱だ。講演冒頭で紹介されたのは、IBMは今後全社的にハイブリッド・マルチクラウドに注力していこうとしているという戦略と、それを支える各種テクノロジーやミドルウェア製品群だ。そしてIBM i が掲げる製品戦略とはつまるところ、基幹業務サーバーとしての従来の強みを活かしながら、IBMが目指すところをサポートしていこうというものらしい。なるほど、こんなところでIBM i とIBMの戦略が相互に関連しているわけだ。IBM i のクラウド・サービスはベル・データでも提供しているしお客様にも紹介した事があるが、IBMが主張するクラウドはオンプレミスと社外のインフラ群全体を視野に入れながら、アプリケーション稼働環境を幅広く整備していこうとするものだと言えるだろう。 AIや量子コンピュータだけでなく、その他の様々なクラウド・ベンダーから提供される先進アプリケーションも含めて、それぞれの「おいしいところをつまみ食い」すれば理想的なシステムができあがる、という主張らしい。何だかマユツバ的であるが、コンテナやOpenShiftを駆使すれば既に実現可能なレベルにあるとの事だ。
クラウドの次に来たのは、IBM i の位置付けは旧来とは違ってきているという説明だ。利用できるプログラミング言語のバリエーションは、オープン化推進の重要な柱になっているためか、常に拡大を続けている。概要レベルに留まるのだが、このあたりはお客様に説明する機会も多いのですんなりと頭に入ってくる。製品の位置付けを既に理解いただいているお客様も数多くいらっしゃるのも事実だ。とても重要なポイントなので、今後も様々な観点から繰り返して訴求していこうと思う。
注目すべきIBM i の最新機能もいくつか紹介された。中でもACSすなわちJava版のIBM i Accessは実際に自分でも提案した事がある馴染みの製品だ。しかし5250エミュレータ関連以外にも多くの機能が含まれており、奥が深くて全貌を把握できている気がしない。SQL文で投入するOSコマンドだとか、OSS製品を管理できるとか、知らない用語が次々に登場する。何でもできるような印象なのだが、ここから先は残念ながら理解が追い付いて行かない。今後もっと勉強していかねばと思う。
次に登壇したのはティアンドトラスト社小川様、テーマは「OSSが拡げるIBM i の可能性」である。IBM i の製品戦略の二番目の柱である、オープン性の追求にフォーカスした内容だ。お客様向けに、IBM i にはオープン性が備わっているといった説明をする事は多いのだが、オープンソース・ソフトウェアに踏み込んで説明・提案した事は無く、自分にとっては未経験の領域だ。実際に説明を聞いてみると網羅されている機能範囲が、データベース、アプリケーション開発ツール、Webサーバーからセキュリティまで非常に幅広くて、お客様に紹介しようにもわからない言葉が頻出する。一体どこから取り掛かれば良いのだろう。
同様の疑問を持ったお客様がいらっしゃったのだろうか。「IBM i の上で稼働するOSS製品のカタログはありますか?」という質問が投げ掛けられていた。そうそう、おっしゃるとおりだ。各製品がどんなものかがわからなければ使えない。これに対する回答はとてもシンプルで「ありません」というものだった。これでは取りつく島が無いではないかと思ったのだが補足コメントが続く。要するにOSS一覧から選ぶという製品ありきの発想ではなくて、何か実装したい機能があったらそこから探しましょう、というものだ。例えばAIアプリケーションを開発するために何かのプログラム言語やツールを利用したいと思ったら、それらはIBM i の上で稼働するのかな、と思って調べれば良いわけだ。必要ならば当社にご相談いただくとか、ティアンドトラスト社が幹事を務め、当社も参加している「オープンソース協議会」に相談する方法もあるだろう。確かにカタログがあったとしても、全部を読み解くなんて非現実的だ。
旧来のレガシー的な環境とOSS環境とを両立・連携させる事ができるのはIBM i の大きなメリットだという点は、あらためて確認する事ができた。お客様からの質問の中にも、「OSSをIBM i 上で稼働させる意義がありますか?」というものがあった。小川様が回答されたように、今後のアプリケーションにおいてはレガシーをも含めた各種テクノロジーの統合性が重要になってくるのだろう。確かに旧来の基幹業務システムの中に、重要なデータやアプリケーションがあるので、それらを活かさない手は無い。先にIBM i の製品戦略の話を聞いたこともあり、至極もっともだと納得した。
最後はIBM澤田様のセッション「DX対応のためのIBM i 機能拡張ご紹介」だ。在宅勤務が拡大する中で、あるいはデジタルトランスフォーメーションを推進する中で、お客様に提案すると喜ばれそうな、身近で具体的な機能紹介てんこ盛りといったところだ。印象に残った機能・製品をいくつか書き留めておこう。
- スプールのPDF化
- 在宅勤務を可能にするために取り組むべき事はいくつか考えられるが、省資源のためにも書類をデジタル化する必要性は、従来からよく耳にしていた。それでも残念ながら緊急性が低いと見なされたためか、解決が後送りされたままのお客様はかなりいらっしゃるようだ。在宅勤務の実施は待った無しの状況に追い込まれた中で、IBM i のスプールをPDF化する機能を活かせば、書類を印刷する事無くシステムの中に出力イメージのまま蓄積できるようになる。今後の提案の中に盛り込めるネタの一つとして憶えておこう。
- クラウドへのバックアップ
- テープへのバックアップについて、もしかしたら運用方法を見直した方が良いのだろうかとお客様から相談いただいた事もある。確かにテープの架け替えが必要になるし、バックアップの世代管理とか、保管方法も考慮しなければならない。テープ自体も経年劣化するだろうし、長期的にはテープ技術の世代交代と共に、いずれは利用できなくなる時期がやってくる。そんな中でバックアップをクラウドに保管するというのは良い方法かも知れない。少し情報を整理すれば、今後の提案のネタ候補にできそうである。
- モバイル化
- ベル・データではaXesを提案する事が多いのだが、ニーズ次第で選択できるソリューションの数はざっと見たところ20近くはあったのだろうか。ここまで細分化して厳密に選定できる自信は無いが、IBM i 向けソリューションの品揃えもなかなかのものだ。
- AI
- 多くのお客様の関心事である一方で、コストと導入作業の大きさを想像しただけで怯んでしまい、なかなか具体的な検討に進まない、といった印象がある。あるお客様から「(事前に画像を学習させるために)写真を何万枚分も用意しないといけないのでしょ」と言われて、誤解ではないかなと思ったが、確信もないために何も返せなかった事がある。導入効果もさることながら、コストとか作業量を明らかにしてゆく事も今後の課題なのだろう。
フォーラム全体を通じて理解できない箇所が多かったのは今後の修行で解決していくとして、IBM i はレガシーでありながらもオープンで先進的である、という点はどうやら間違い無さそうだ。ちょっと矛盾した表現だけれども、IBM i の多面性が表れているのではないかなと思う。だから一部機能を理解したとしても、それだけで製品を評価するべきではないし、未知の領域をそのまま放置しておくのはもったいない。いつかようやく理解が追い付いたと感じる頃には、製品の方は更に先を行っているのかも知れないが。フォーラムに参加された多くのお客様が、何か一つでも持ち帰っていただけるとありがたいな、と思う。