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IBMi海外記事2023.03.08

サウスウエスト航空のITの大失態から学ぶべき教訓

Alex Woodie 著

歴史に名を残すことになりそうな「2022年クリスマス暴風雪」の際、航空機の運航は米国全域でほぼ麻痺状態に陥りました。ほとんどの大手航空会社は、氷がまだ完全に溶けないうちに復旧しましたが、サウスウエスト航空は、ボーイング737を空へ戻すことができませんでした。主な原因として挙げられたものは、IBM i のショップにとっても聞き覚えのあることかもしれません。すなわち、老朽化したレガシー テクノロジーへの過度の依存です。

クリスマスイブに始まり、数日にわたって米国の東半分に大きな被害を与えた冬の嵐が過ぎ去った週に、サウスウエスト航空でどのようなことが起こっていたかについては、詳しいことがすべて分かっているわけではありません。しかし、いくらかの漏れ伝わってくる情報をもとに、ゆっくりと進行していったこの災害について、その概略をお伝えしようと思います。

トラブルの発端は、12月24日に米国を襲った冬の嵐「エリオット」でした。いつものことながら、運航の遅延が発生しました。気温が急激に下がり、雪が積もると、航空機、空港、そして航空関係者には大混乱が生じます。ジェット燃料はベトベトになり、機翼は霜に覆われ、搭乗橋は凍結してしまいました。

クリスマス当日には気温も次第に上昇して、ほとんどの航空会社は徐々に運航を再開し、乗客・乗員も帰途につくことができました。しかし、サウスウエスト航空は最初の運航停止からまったく復旧することができず、最終的には約17,000便が欠航を余儀なくされ、何十万人もの乗客が足止めされることになりました。

運航が止まったままになった主な原因の1つは、老朽化した乗務員スケジューリング システムにありました。Sky Solverと呼ばれるこのアプリケーションは、サウスウェスト航空の路線ネットワークでのフライトと乗務員のマッチングを行うために開発されたものでした。伝えられるところでは、このアプリケーションは、1日当たり最大300件のスケジュール変更を処理できる設計になっていたそうです。しかし、12月下旬の危機的状況下での処理量は、設計をはるかに超える量だったため、アプリケーションは実質的にクラッシュし、航空会社は運航スケジュールを手作業で組み直すことを強いられたようです。

現在、 米国最大手の航空会社 とされるサウスウエスト航空は、クリスマスから元日までの1週間をかけて徐々に復旧し、今日現在では通常運航に戻っています。しかし、この苦い経験を通じて、同社のオペレーションにおける大きな弱点が浮き彫りになりました。そしてその弱点は、この公開会社の第4四半期利益に3%~5%程度、打撃を与えることになりそうです。総費用は、足止めされた乗客に対する補償を含めて、7億2,500万ドル~8億2,500万ドルとなる見込みだと、先週の当局への報告書で同社は述べています。しかし、サウスウエスト航空の信用に対するダメージは計り知れません。

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サウスウエスト航空は、「2022年クリスマス暴風雪」の際、実に厄介なIT障害に見舞われました(画像提供: サウスウエスト航空)。

同社が、Sky Solverについて厳しく見直しを行うことになるのは必至です。このアプリケーションは、元々はCaleb Technology Corp.社という企業(後にGE Aviation社が買収)によって開発されたものですが、サウスウエスト航空は長年の間に大幅に修正を加えています。同社従業員は、冬の嵐「エリオット」に襲われる以前から、この老朽化したアプリケーションについて懸念を示していました。たとえば、同社のパイロット組合の組合員は、何もすることのない「デッドヘッド」と呼ばれる乗務で、サウスウエスト航空の乗客として遠回りのルートで他の空港へ送られることがよくあったと述べています。

「すでに知られている、乗務による疲労発生のいくつかのシナリオを考慮に入れて、疲労発生を予防できるようにするために、Sky Solverのコードの書き直しを行うよう会社側に求めました」と、 2017年にサウスウエスト航空パイロット組合の会長、Jon Weaks氏は述べています。

Sky Solverの書き直しまたはリプレースが必要なことは明白でしたが、経営側は、コストの最小化を重視し過ぎて、リプレースメントを優先しなかったと、同社のパイロット組合員は述べています。しかし、『 ウォール・ストリート・ジャーナル 』の12月28日付けの記事「How Southwest Airlines Melted Down(サウスウエスト航空のシステムはどのようにしてダウンしたのか)」によれば、同社は、実際、この数年間で新たな予約システムの実装に5億ドルを投じているということです。2022年2月からサウスウエスト航空の舵取りを担ってきたBob Jordan氏は、レガシー システムのモダナイゼーションの推進に、前任者に比べれば積極的だとパイロット組合員は述べています。しかし、今回の休暇シーズンの大惨事を防止するべく、そうした変更を間に合わせることができなかったのは明らかなようです。

こうした暗雲の中に希望の光があるとしたら、それは、Sky Solverにまつわるサウスウエスト航空の苦悩を、老朽化したテクノロジーで似たような状況に直面している他の企業にとっての教訓とすることができるということです。

ITモダナイゼーションの専門家で、カリフォルニア州を拠点とするアプリケーション モダナイゼーション ソフトウェアのプロバイダー、 EvolveWare社のCEOでもあるMiten Marfatia氏は、サウスウエスト航空のトラブルは、多くのIBM i のショップがそうしているように、老朽化したソフトウェアを稼働している企業にとっては学ぶところが多いと述べています。

「レガシー システムは、たいていは10年を超えて(30~40年以上の場合もしばしばです)本番稼働しています」とMarfatia氏は述べています。「開発時点では、サウスウエスト航空で処理を必要としていたデータの量は、今日と比べて、かなり少ない量でした。特に、今日のような成長著しいデジタル世界と比べれば、雲泥の差です。ソフトウェアが書かれたときに想定されていたデータ量および環境ではうまく動作していたソフトウェアも、そうしたパラメーターが変わると、システム障害が起こり始めるものです。こうした障害は、かなり前から表面化し始めていましたが、どうやら経営陣はしかるべき注意を払わないことにしていたようです。」

もうひとつ、ためになる教訓があります。すなわち、モダナイゼーションの取り組みは、退屈になりがちではあものの、企業に、いや応なく直面することになる現実世界の状況に向けての準備をさせるのに必要な訓練となるということです。

「これらの取り組みは避けられないものになっており、措置が講じられないとすれば、「問題の先送り」をした代償は甚大なものになる可能性もあります」とMarfatia氏は続けます。「サウスウエスト航空には、最優先課題としてこのソフトウェアの見直しを行い、必要なあらゆる是正処置を講じる以外に選択肢はありません。2023年にサウスウエスト航空がソフトウェア アプリケーション ポートフォリオ全体の見直しに踏み切ったとしても、驚きではないでしょう。そうすることにより、同社のITポリシーに対する国の審査が増えるのを防ぐことができるだけでなく、顧客およびスタッフにより多くのメリットがもたらされることにもなるでしょう。」

コロラド州に拠点を置き、企業に対してデジタル トランスフォーメーションに関するコンサルティング業務を行っている Third Stage Consulting社のCEO、Eric Kimberling氏は、先日、サウスウエスト航空のITの大失態から学べる4つの教訓について紹介しています。

Kimberling氏が最初に挙げたのは、現在の標準を満たしていない老朽化したテクノロジーを稼働することに伴うリスクに目を向けることです。

「サウスウエスト航空には、低コストという企業カルチャーがあります。同社は、低コスト、低運賃の航空会社です」とKimberling氏は Twitterに投稿した動画で述べています。「コストを最小に抑えるというのが、同社のビジネス モデルであるため、おそらく何に対しても多額の投資をしそうにないというのは理解できます。しかし、このケースでは、同社がこれから気付かされるのは、この問題を修正して、役に立たないシステムを使用する弊害に対処するのに、単純にテクノロジーのアップグレードを行っていた場合に比べて、はるかに多額の資金を費やすことになるということです。」

サウスウエスト航空の安定した成長は、今回のトラブルのもうひとつの要因でもありました。同社の収益は、この10年間で2倍以上に伸びており、COVID-19の規制解除以降は、とりわけ利益が好調でした。しかし、同社の基盤となっているシステムは、そうした成長に追い付いていなかったようだとKimberling氏は述べています。

「これは、部分的にはテクノロジーの問題でした。このテクノロジーは、制約があり、大幅にカスタマイズされ、システム自体に数多くの変更がありました。しかし、この問題を生み出した運用上の問題もあったのです」と彼は述べています。「現行のプロセスには制限がありますが、彼らは制限について認識していなかったか、あるいは、そうしたリスクがどの程度のものなのか数値化していなかったようです。しかし、サウスウエスト航空が行っておくべきだったと思われることは、本当は、これまで達成してきた成長や、現在続いている成長に対して、経営モデルの将来像がどのようなものである必要があるかを明確にすることだったのです。」

もうひとつの要因は、サウスウエスト航空の自由闊達な企業カルチャーです。この航空会社を利用したことがある方なら、機内アナウンスで機長の冗談を耳にしたことがあるでしょう(客室乗務員も、カリフォルニア州オークランドに着陸後に「ようこそ、美しきフロリダ州ジャクソンビルへ」などとよく冗談を言います)。

この航空会社は、楽しい、のんびりしたカルチャーと成長とを両立させることができますが、楽しいカルチャーのために、オペレーションの整合性の確保が犠牲にされてはならないとKimberling氏は述べます。

「サウスウエスト航空は、今や、かなりの大企業になっています。ビジネスのレシピを増やすことにもっと重点を置く必要があるのです。」と彼は述べます。「言い換えれば、そうした自由闊達なカルチャーとそうした起業家精神を捨て去ってしまうのではなく、もっと組織性を高め、能率化し、規模を広げ始めることです。サウスウエスト航空は、そうしたカルチャーの転換、そうしたカルチャーの移行をこれまでに行っておくべきだった、と私は述べていましたが、そうではなかったようです。彼らが経験したばかりの問題の重大さを考えると、おそらく今こそ、そうした移行を行う必要があるのでしょう。」

サウスウエスト航空は、Sky Solverシステムを詳しく調査する必要がありますが、批判する人をなだめるだけのために、同社のテクノロジーのすべてを取り払ってリプレースする必要があると思うべきではないとKimberling氏は述べます。

「多くの評論家、業界アナリスト、そして間違いなく業界のソフトウェア ベンダーは、この機に乗じてこう言うでしょう。サウスウエスト航空は、まずはすべてのオペレーション、すべてのテクノロジーを全面的に見直して、すべてリプレースするべきだ。ゼロから始めて、新品のテクノロジーを導入して、大規模なERPシステムを導入して、と言いたい放題です」と彼は述べています。「サウスウエスト航空は、必ずしも今すぐにすべてのシステムの大規模な見直しを行う必要があるとは私は思いません。」

より望ましい方法は、最も差し迫ったニーズを詳しく調べ、状況に応じて対応することだと彼は述べます。

「彼らは、彼らのテクノロジーに戦略的な投資を行う方法を考えることができます」とKimberling氏は述べます。「言い換えれば、数億ドルも費やし、さらなる膨大なリスクを組織が負うことになる大規模なデジタル トランスフォーメーションを経験する必要はないのです。それは、彼らが経験したばかりのリスクをまた経験することになるのです。しかし、彼らが行えることを言うとすれば、実際に、自分達の技術的ニーズや弱点に優先順位を付けてみましょう。すぐに取り組み始めれば、すぐに何らかの成果が得られます。」

サウスウエスト航空は、アプリケーションのモダナイゼーションの必要性に関して実世界での体験から教訓を得ただけでなく、危機管理に関してもまさに特訓を受けた形になりました。ただし、そのストーリーに関しては別の記事に譲りましょう。

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