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IBMi海外記事2019.01.10

日本は異質なIBM i 市場だが、ロイヤルティーは変わらない

Timothy Prickett Morgan 著

11月の初めに、日本のIBM i 市場について概観する記事を記しました。日本は、IBM iのインストール ベースの約10%を占めており、AS/400および後継のIBMミッドレンジ市場の中心であり続けてきた北米市場と欧州市場に次ぐ第3の市場です。

今回の記事では、前記事の続編として、日本のIBM i 市場についてもう少し掘り下げをしてみたいと思います。小誌『The Four Hundred』の日本におけるパブリッシング パートナーでもあるベル・データ株式会社と、イグアス社(日本におけるPower SystemsとIBM i機器のディストリビューター最大手)のダウンストリーム パートナーであるスター コンピューター サービス社という、2つのリセラーにインタビューを行いました(より高レベルのマスター リセラーについて、また、IBM iシステムにとっての日本市場に関してIBMが述べたことについて詳しくは、こちらの記事を参照してください)。また、今回の日本取材では、Maxava社(ハイ アベイラビリティーおよびシステム モニタリング ソフトウェア メーカー)のシニア バイスプレジデントであるSimon O'Sullivan氏にも、いろいろとお世話になりました。同社の日本市場参入の際に陣頭指揮を執ったO'Sullivan氏は、リセラーとの橋渡しの労を取ってくれたのみならず、我々のお気に入りのプラットフォームの、日出づる国における現況に関する彼独自の洞察も提供してくれました。

日本のカルチャーは、我々が北米や欧州で慣れ親しんでいるものとはかなり異なっていますが、そうした中で、AS/400およびその後継機が日本のビジネス カルチャーにすぐに入り込んでいったことについては興味深いところがあります。

「日本はまったく異質です。米国や欧州や東南アジアでのビジネスのやり方とは別物と言えるでしょう。まったく事情が異なるのです」とO'Sullivan氏は説明します。「弊社が日本市場への販売を開始してからしばらく経ちます。日本でビジネスを行いたい場合、選択肢は2つです。まずは、ブランチ オフィスとして営業することができます。ただし、それは全面的に事業パートナーを介しての営業展開ということになります。つまり、自前でサービスを提供することはまったくできず、それらはパートナーによって行われる必要があるということです。18か月前までは、弊社も日本ではそのような営業形態でした。全世界のIBM iの顧客の10分の1は日本にいること、そしてニュージーランドに比較的近いことも踏まえて、日本進出を決めたのがその時期だったわけです。ニュージーランド ブランチでの長年の営業もあり、よく分かっている市場だったとも言えるでしょう。」

Maxava社は東京に支社を開設し、オフィス マネージャーを採用しました。すでに技術担当者が日本におり、日本語と英語を話すもうひとりのサポート担当者を採用しました。また、日本で非常に著名なIBM iエキスパートである目黒 昭典氏に依頼して、Maxava社の日本駐在大使のような役割を担ってもらい、日本のIBM iコミュニティとの橋渡し役を務めてもらいました。その後、日本語を話す、ニュージーランド駐在の技術サポート スペシャリストがもう1人加わっています。その結果、Maxavaではかなり多くの日本人スタッフが事業の運営を支えるに至っています。

また、Maxava社はリセラー チャンネルにも支えられているようです。スター コンピューター社がMaxavaリセラーであることは確かなのですが、日本で報道されているところによると、最大手のマスター リセラーであり、スター コンピューター社のアップストリーム パートナーでもあるイグアス社も、日本でMaxava製品を販売する別個の契約を結んでいるとのことです。

Maxava社は現時点で日本に70の顧客がおり、今年の取引件数は、前年比で5倍に伸びているとO'Sullivan氏は述べます。一部はPower9ベースのマシンの取り扱い開始によるものですが、東京に直轄の支社を開設したことも大きいということです。現在、販売パイプラインは1年前の10倍に伸び、さらなる拡大の余地も大いにあるそうです。Maxava社が過去6か月で獲得した案件は7件になりますが、そのうち3件はスター コンピューター社によるものでした。

「弊社は全面的に勢いを実感しており、さらに多くの潜在顧客やビジネスチャンスが見込まれています」とO'Sullivan氏は述べます。「日本は弊社にとって重大な市場になるという確信があります。実のところ、競合製品は、Syncsort社のVision Solutions HA製品だけなのです。この国におけるHAソフトウェアのビジネスチャンスは、かなり大きなものが見込めます。日本でのHAの普及は、一般に予想されるほどのものは実際には見られません。他の地域では、なんらかの形のレプリケーションが行われるHA製品の普及率はインストール ベースの10%程ですが、日本では約5%であり、たびたび台風や地震の被害を受け、時には津波の被害に見舞われることもある国としては驚くべき低さです。」

日本におけるIBM iの顧客が15,000として、HAのショップのインストール ベースが約5%とすれば、日本でHAを導入しているIBM iの顧客は約750ということになります。Maxava社のシェアは約10%で、残り90%のうち、ほとんどがSyncsort/Vision Solutionsというのが現状です。しかし、今後、インストール ベースの10%~15%でHAソフトウェアが使用されるようになるとしたら、さらに750~1,500の潜在顧客が見込めることになります。先程、O'Sullivan氏が述べていた大きなパイプラインというのは、このことだったのです。

日本市場でのHAにおける競合相手は、ほとんどが、MIMIX(旧Vision Solutions社製品)を擁するSyncsortグループということになります。これにはQuick-EDD(旧Trader社製品)が加わります。旧Vision Solutions社には日本に強力なパートナーがあり、そのつながりが続いているようです。他にもBitisという会社がQuick-EDDを販売していましたが、同社も現在はSyncsort社の傘下です。そして、もちろん、Bug Busters社を買収したHelpSystems社を忘れてはなりません。ただし、「日本における大量トランザクション処理ということになると、選択肢は、実際のところ、Maxava HAとMIMIXの2つに絞られます」とO'Sullivan氏は述べます。「日本でHelpSystems Bug Bustersの取引はあまり目にすることはありません。IBM PowerHA、Rocket iCluster、iSam Blueについても同様です。」

ご推察の通り、日本におけるIBMベースは銀行または製造業界が中心ですが、そうした分野ではHAが極めて重要であるはずです。日本でHAソフトウェアが使用される傾向が低い理由は、少し理解しづらいところがあります。Maxava社の取引相手は、概して、HAを新規に導入する企業であり、災害発生に備えて大事なデータを保管するのを、テープ バックアップ頼みにしてきた企業がほとんどです。「そうした企業はぜひとも獲得したいお客様です。なぜなら、弊社を通じてHAの仲間に加わることになるからです」とO'Sullivan氏は述べます。「他の地域では数多くのリプレースメントを手掛けていますが、日本でも同様に、一風変わったリプレースメントを行うことになります。」

遠慮することが美徳とされるタテ社会の日本の企業カルチャーからすると、日本市場において1人の会社員に自身の率直な意見を述べてもらうことは難しいことなのかもしれません。しかし、島国の中央部に位置する大港湾都市、大阪(首都東京に次ぐ日本第2の都市)に本拠を置く、スター コンピューター社のセールス マネージャー、神野 陽士氏は、快くインタビューに応じてくれ、自身の考えや洞察をつまびらかにしてくれました。

スター コンピューター サービス株式会社は、白石工業株式会社(80年程前に設立された炭酸カルシウム メーカー)の完全所有子会社として、1977年に設立されました。設立以降、グループ会社向けにコンピューターのレンタル事業を行ってきましたが、2010年、それまでに培った専門知識を活かすべく、グループ外の企業に向けて、ITシステムを販売し、システム インテグレーションおよびそれらのシステムのテクニカル サポートを提供する事業を開始しました。従業員は23名で、最近では、業務の差別化の一環としてHAソフトウェアの販売に力を入れています。

「今もなお、金融保険業界だけでなく製造および流通業界において多くのインストレーションが見られると思います」と、日本におけるIBM i市場の拡大をテーマに話を伺ったメール インタビューで、神野氏は説明します。「ただ、弊社の場合は、顧客にしても潜在顧客にしても、大半は製造業界です。そうしたお客様から求められるのはダウンタイム ゼロであり、Maxava社とパートナー契約を締結したもう1つの理由には、そのことがありました。」

神野氏によれば、ハイ アベイラビリティーおよびディザスター リカバリー以外にも、レプリケーション ソフトウェアが使用される目的がもうひとつあるということです。それは旧型のIBM iマシンから新たなPower9マシンへの移行です。新旧のマシンでHAレプリケーションをセットアップして、新たなPower9マシンでライブ データを用いてアプリケーションをテストし、すべてがきちんと稼働することを確認してから新たなマシンにフェールオーバーすることができるというわけです。これは、テープ ベースのマイグレーションに付き物のダウンタイムを覚悟することに比べると、はるかにより良いやり方と言えます。

スター コンピューター社からすると、ベル・データ社はIBMミッドレンジ市場におけるかなりの先輩ということになり、規模もかなり大きいと言えます。ベル・データ社の設立は1991年で、従業員は238名、顧客数は約2,600に上り、これは日本のIBM i市場においてかなり大きなシェアと言えるでしょう。本社は東京で、名古屋、大阪、九州に支社を置き、直接リーチできない(またはその必要のない)場合は他のITパートナーを通じて、日本全国のクライアントをサポートできる体制が整っている、とベル・データ社の小野寺 洋会長は『The Four Hundred』のメール インタビューで述べています。

30年前にAS/400が発売された当時は「オフィス コンピューター」としての位置付けで、製造および流通業界の中小企業に向けての販売がほとんどだったと小野寺氏は述べます。しかし、その後、Powerベースのモデルが市場に投入され、マシンの処理能力が向上するにつれて、AS/400は銀行、金融、医療、および教育セクターでも広く使用されるようになりました。

小野寺氏によれば、日本は、IBM iベースに関して、1つの重要な点において北米や欧州と比べて独特なのだそうです。「日本では、ほとんどの顧客が自分でアプリケーションを書きます」と彼は述べます。「企業によって事業慣行が実に様々なため、パッケージ ソリューションの採用を決めるにしても、顧客はスイート製品に大きなアドオン プログラムを開発する必要があるのです。けれども、問題はRPGプログラマーの減少であり、顧客はオープン システムに移行しつつあります。そうした状況を受けて、日本IBMでは今年の3月に、人材派遣会社との協業で2,000名のRPGエンジニアを育成する取り組みを発表しています。弊社でも、IBM iの経験のある、スキルの高いベトナムのソフトウェア エンジニアの採用を試みています。」

なお、ベル・データ社でも、ディザスター リカバリーおよびハイ アベイラビリティーを求める顧客向けにMaxava HAを販売しています。

今回の日本取材で話を伺った人々の間では、日本のIBMベースはP05ティアのマシンが中心を占めており、次いで多数のP10マシン、次いで相当数のP20マシン、そして少数のP30マシンがこれらに続く、というのが共通認識のようです。これは、米国のインストールベースで見られるものと一致しており、こうした分布状況は、この20年間での、Powerアーキテクチャーにおけるムーアの法則の進化によってもたらされたものとも言えるでしょう。システムの演算性能は、トランザクション処理ワークロードに比較して、はるかに速いスピードで向上しています。そのため、かつては複数ソケットでより多くのコアを持つはるかに大きなNUMAシステムが求められていたところでも、今日では、1コアまたは2コアのコンピューティングで事足りてしまうといったケースがよく見受けられるようになっています。

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