ついにIBM iにネイティブなクラウドバックアップが加わる
先週、IBMが行った発表のうち、最も注目せずにはいられないものの1つは、Cloud Storage Solutions for iの発表でした。この新たなオファリングは、10月28日より利用可能になり(料金は2,400ドルから)、IBM i 7.1以降を使用している顧客は、直接、BRMS(Backup and Recovery Media Services)を通じて、IBMのクラウド上に最大1TBのデータをバックアップできるようになります。IBMによれば、使用しているテープドライブをすべて処分できるケースさえあるとのことです。
もちろん、クラウドストレージは目新しいものではありません。10年以上の間、数多くのマネージドサービスプロバイダ(MSP)によってオンラインバックアップサービスが提供されてきたおかげで、IBM iプラットフォーム上でも目新しいわけではありません。けれども、今回の発表は、世界各地で50以上のSoftLayerデータセンターを運営しているIBMから直接提供されるものであるからこそ意義深いものがあります。そして、Cloud Storage Solutions for iにより、IBM iのショップのDB2およびIFSのデータが、すぐにこれらの世界各地のデータセンターへと配信されるようになるでしょう。
Cloud Storage Solutions for iは、顧客がIBM iのデータをクラウドへある程度シームレスに移動することを可能にする多数のAPIを含んだ、新たなライセンスプログラム製品です。アプリケーション開発およびシステム管理担当のIBM iビジネス・アーキテクトのTim Rowe氏によれば、Cloud Storage Solutions for iは、PCおよびモバイル ユーザーにとってのDropboxと同じくらい簡単に使えるとのことです。
「今まさに、SoftLayerに接続し、極めて迅速かつ簡単にデータをSoftLayerへ移動し、SoftLayerからデータをIBM iへ戻すことを可能にするソリューションを提供します」とRowe氏は『IT Jungle』に述べます。「実際、そうしたデータが行き来する様を目にするのは、実に素晴らしいものです。」
このIBMのクラウド オファリングは、IBM i OSのバックアップ ユーティリティである、Backup and Recovery Media Services(BRMS)と直接連動して、SoftLayerクラウド上にIBM iのバックアップを保存します。ただし、このオファリングはBRMSと結合されているわけではないため、顧客はIFSファイルなど、任意のデータをクラウドに移動することが可能です。現在のところ、IBM iのプロは、コマンド ラインや自動化スクリプトを用いてそうした処理を行っていることでしょう。今後、IBMでは、クラウドへのデータの移動をさらに行いやすくするGUIの提供を予定しています。
初期バージョンのクラウド オファリングでは、VPNおよびFTP接続がサポートされています。IBMはまた、非同期転送、パラレル転送、および転送進行状況表示のような機能もサポートする予定だとしています。
Cloud Storage Solutions for iを利用することにより、データの量が少なめの小規模のIBM iのショップでは、場合によっては、これまで使用してきたテープ ドライブをこのソリューションで置き換えることができるかもしれません。やがては、テープドライブはまったく必要とされなくなるかもしれないとRowe氏は述べます。「長期的に見れば、バックアップを行うのにテープドライブは使わないようになることも十分に考えられます」と彼は述べます。
インターネット接続環境は、顧客が自分で用意する必要があります。そして、その回線の帯域幅によって、クラウドへの最初のバックアップや、それ以降のインクリメンタルバックアップがどのくらい速く行えるかが決まります。たとえば、10Mb/秒の回線で500GBのバックアップをアップロードすると、この便利なデータ アップロード計算機this handy dandy data upload calculatorによれば、122時間かかるようです。1TBのデータベースをアップロードする場合は、51Mb/秒の回線(OC1)だとすれば、週末フルに(51時間)かかることになります。
IBMでは、バックアップデータが1TB以上になる顧客にはこのソリューションを使用しないよう勧めています。つまり、このオファリングは、データニーズが少なめな中・小規模のショップをターゲットとしたものと言えます。また、ファイルサイズに関してのいくつかの制限事項についても検討が必要です。
Cloud Storage Solutions for iを採用してしばらくは、多少のトラブルが生じるかもしれません。しかし、製品というのは時が経つにつれて改善されていくものだとも、IBM iのプロダクト オファリング担当マネージャー、Alison Butterill氏は述べます。
「ファイルサイズや接続速度に関して、いくつか制限事項があることに注意してください」とButterill氏は述べます。「もしかしたら制限事項ではなく推奨事項かもしれません。このような形でスタートしようとしている以上、もう少しカスタマーエクスペリエンスなどのフィードバックを頂いてから開発作業を続けたいと思っています。」
あと2週間足らずになりますが、提供開始の時点では、このオファリングはIBMのSoftLayerクラウドでのみ利用可能です。また、IBMでは、このオファリングを自社のクライアントへ再販しようとするビジネス パートナーとの提携も予定しています。
そのうちに、IBMは、疑いなく世界最大のクラウドを運営しているアマゾンウェブサービス(AWS)Amazon Web Servicesなど、他のクラウドもサポートする予定です。最終的には、Googleの巨大なクラウド上に、さらにはMicrosoft Azure上にも、大事なIBM iデータをネイティブに保存できるようにする予定だとIBMは述べています。
ところで、Cloud Storage Solutions for iを使ってSoftLayerにデータをアップロードすると、データは実際にはどこに置かれるのでしょうか。よい質問です。IBMでは、あるオブジェクトストレージシステムを使用してIBM iのデータを保存しているようです。約1年前、IBMは、Cleversafe社というオブジェクトストレージシステムのソフトウェアベンダーを買収しています。
先週のIBMの発表によると、Cleversafeをクラウドに置くことにより、大規模ファイルおよびビッグ データ セット向けの安価なクラウドベース ストレージを提供するということです。ここがIBM iのデータが置かれる場所となるのでしょう。IBMによれば、この新たなクラウド オファリングでは、アマゾンウェブサービス(AWS)のS3オファリングに比べて、24%安い料金でデータを保存できるそうです。また、クラスター内の複数のノード間にまたがって、さらには異なる地域に位置するデータセンター間にまたがってストライピングを行うCleversafeソフトウェアの先進的なErasure Coding(消失訂正符号)技術のおかげで、クラウドベースオブジェクトストアに置かれたデータはよりセキュアで信頼性が高いとのことです(Erasure CodingはRAID-50とされています)。
この新たなクラウドベースオブジェクトストアでは、S3およびSwift APIの両方をサポートしています。ただし、S3またはSwift APIを介してIBM iのデータにすぐにアクセスできるようになるわけではありません。IBMでは、IBM iのデータをSoftLayerクラウド上にアクセスを制限した形で保管しています(X86ベースのCleversafeオブジェクト ストレージ システムにデータを保存する場合、事前にEBCDICからASCIへの変換を行う必要がありますが、そのことによってS3またはSwift APIとの互換性も複雑になるかもしれません。そうした問題については、別の機会に、おそらくSteve Finnes氏というミステリアスなIBMのプロダクトマネージャーが解説してくれると思われます)。
IBMに、この新たなクラウド オファリングでは二通りの価格戦略を採用しています。価格表によれば、製品番号5733-ICC(データのバックアップ元となるパーティション数は無制限)の価格は5,000ドルです。バックアップ元となるパーティションが1つの場合は、より安価に2,400ドルで利用できます。詳細については、「IBM U.S. Software Announcement 216-419」を参照してください。