Power Systemsの再起構想を練る
IBMはSystem xサーバーの事業を切り離しました。IBMは自身のシステムを推し進めたい願望と、システム市場で圧倒的な出荷量を占め、多額の収入をもたらしているWindows及びLinux X86サーバー分野で重要な役割を演じたいとする願望の矛盾を解決したことになります。今後IBMはPower SystemsとSystem zに的を絞ります。
ただ、IBMは汎用機ベースの方法でX86プラットフォームをサポートして行けると本当に信じているのでしょうか。またドットコムのブーム以前のあの着実で継続的な伸びをPower製品がこの先再び実現すると本当に信じているのでしょうか。
IBMがどう考えているかは別として、これはIBMにとって、またIBM iとAIXの顧客及び特にパートナーにとって大変良いことであり、X86チップのIntelがPowerチップのIBMと競合することになるだけでも望ましいことです。得られるものは大きいでしょう。IBM iとAIXプラットフォームの将来について、IBMは長い将来にわたりPower8のハードウエア上でこの両プラットフォームのサポートを継続してゆくことは間違いありません。さらにいまPower9チップがこれらのプラットフォームの将来をさらに延ばすために設計されています。しかしながら、これら両プラットフォームの将来はPower Systems事業が生み出す収入と利益、及びこれらの利益をセールスとマーケティングを広げるビジネスに還元・投資するIBMの能力、及びPowerハードウエアとIBM i及びAIXオペレーティングシステム双方に差別化をもたらす機能を加え得るIBMの能力に常に依存しています。
皮肉にもPower Systemsプラットフォームの将来はLinux on Powerの成否に懸っているかもしれません。しかしながらIBMが1999年にLinuxをPowerと汎用機に移行し始めたこと、及びOS/400のショップと当時のIBM iショップがLinux on Powerに強いアレルギーを抱いていたことを考えると、多分多くのIBM iのショップにとって快い情勢ではありません。もし、保守的なIBM iショップがPower System上の論理区画を増やしてLinuxをインフラストラクチャーのワークロードに使うことに積極的でなかったり、LinuxをPHP、Javaその他の言語で書かれたアプリケーションのアプリケーションサーバーに使うことに前向きでないとすれば、ショップがLinux on Powerを稼働させるためにX86マシーンを買うことなどは期待できません。
IBMは過去数年来Linuxのコミュニティー及び商業的にサポートされているLinuxディストリビューションの2大ベンダーRed Hat、SUSE Linuxと多くの仕事をしてきており、特にPowerマシーン上でLinuxを良好に稼働させることに取り組んできました。一般的にいえば、Linuxは一定のシステム上のAIXあるいは数百のコアと数千のスレッドを持つ最大のPower 770、780、795マシーンと同等、あるいはそれ以上のスケーラビリティーとパフォーマンスを提供します。またLinux on PowerのJavaとデータベースのパフォーマンスはAIXのそれと同じです。
これはIBM i以上です。IBM iについてIBMはコアとスレッドの数を確実にもっと多くすることが可能ですが最新リリースはそれほど多くはありません。現在のパフォーマンス以上を必要とする顧客の数の少ないことが多分その理由でしょう。1990年末期と2000年初期、AIXとOS/400のスケーラビリティーが同等で、一部の極めて大規模な顧客が最大のOS/400マシーンを使って自社のデータベースとアプリケーションをサポートしていたとき、IBMはOS/400のコアとスレッド、及びNUMAソケットのスケーラビリティーを拡張しなければなりませんでした。
私は以前にも言ったことがあり、繰り返しますが、IBMはOS/400のショップに対してプロセッサー性能とソフトウエアライセンスの価格を過剰に高く設定しました。従ってSun MicrosystemsのSolarisやHewlett-PackardのHP-UXプラットフォームよりもマシーンは安い価格設定ができました。しかしながら、このソフトウエアライセンスの過剰に高額な価格設定の結果OS/400の顧客ベースの約半分を失いました。それらの一部はAIXに移行しましたが、大部分はWindowsに移行しました。WindowsはIBMのハードウエア上が多かったのですがその数はHPとDell以外のハードウエア上のWindowsと同じくらいの数に過ぎなかったと思われます。この結果IBMがマーケットシェアを狂ったように食べまくりSunとHPは価格面でIBMに対抗できなかったので、短期間にPower Systemsの事業を担ったエグゼクティブにとっては良い戦略であったかもしれません。しかしながら、IBMはAIXの顧客とOS/400の顧客に「買い得品」を提供して、Unixのマーケットシェアを食い、Linux on Powerを育んでさらなる伸展を図りながら、OS/400ベースの成長を維持しようとすればできたのです。IBMは自社株買い入れと純収入の継続的な増加にのみ夢中になっており、競合者が行っているようなボリュームを増やす戦略を採ろうとはしません。これは結局IntelとMicrosoftと同じです。その行き着くところは、International Business Machinesはどのようにすれば低価格の製造者になり得るか、その答えを決して見つけ出そうとしないということです。DellとHPもこれが得意ではありません。従って、Supermicro、Foxconn、Quantaなどがシステムの製造コストを下げてボリュームを増やすことをやろうとすればできることを示すまでは、IBMのこの問題はそれほど浮彫になってはきません。さらに私は続けますが、もしIBMが1991年にPowerのアーキテクチャーを開発していたら、もし1980年代に当時のTCP/IPとEthernetよりも信じられないほど優れているオープンソースのSystems Network ArchitectureとToken Ringを持っていたら、OS/400はフラグシップのオペレーティングシステムになっていたでしょう。Unixは1980年代の終期にオープンソースの掛かりを掴みましたが、これより以前にOS/400がオープンソースとなっていたことを想像してください。そこには間違いなく別の世界があります。多分いつの日かこれが実現するでしょう。Power SystemsプラットフォームとIBM iオペレーティングシステムの将来がLinux on Powerの成否に懸っているということに対して、私は煩わしい苛立たしさを覚えています。しかしながら、IBMの競合と資産を考えると、この苛立たしさを打開し得る妙案が浮かびません。
我々はPowerマシーンへの継続的な投資を望んでいます。しかしながら、IBMはこれ以上自社で製造工場を持つ余裕がなく、さらにPower8チップはIBM自身のチップ製造工程に組み入れられており、この工程は自身の銅、シリコン・オン・インシュレーター及びhigh-kメタルゲートのテクノロジーを使用しています。
もしIBMがゲーム・コンソールのチップ事業を支配し続けてAdvanced Micro Devices社に失っていなければ、もしOS/400とAIXマシーンの双方によって積極的に競争を仕掛け、これらにLinuxを加えてPower Systemsのボリュームを増やしていれば、もしAppleのチップ事業をIntelに失っていなければ、事態は異なっていたでしょう。
もし米国政府がスーパーコンピュータの巨大なプロジェクトに年間数億ドルをなおも費やしていれば、またIBMがこれらペタスケールのワークロードに向けてPowerベースのシステムを推進し続けてエクサスケールに到達するまでの努力を続けていれば、これも助けになっていたでしょう。しかしながら、途中、大不況に陥った4~5年前、IBMは卓越した品質の高度化されたマシーンを作る能力が有りながら、ハードウエアの心を失いました。これはソフトウエアに携わる人間とサービスに携わる人間がIBMを引き継ぐときに起きることです。
いまIBMは賢明にもサードパーティーの製造者―GlobalFoundriesあるいはTaiwan Semiconductor Manufacturing Corp―との協業でPower8+とPower9チップをこれらの最も高度化された処理工程に移行しました。TSMCの16ナノメータープロセスは、来年Oracleの32コアSparc M7プロセッサーのエッチングに使用され、優秀さを期待できます。
将来のPower Systemsに向けて設計されているPowerプロセッサーが存在している事実はIBMがウエハーを製造している事実よりもはるかに重要です。IBMがイノベーションを加速させてIntelに頼っているだけでなく、ドットコムブーム終期のUnix戦争でPower4世代をスタートさせてSunとHPを飛び越したようにIntelを飛び越すことはさらに大切なことです。IBMはそれよりむしろ本道から分かれてSynapseニューラルチップやWatsonコグニティブシステムといった科学プロジェクトを進めています。これらは素晴らしいことであり、一定の分野に向けた将来のコンピューティングを示しているといえます。しかしながら、他方多くの企業はいまもなおクラスターを買って自社の業務を遂行するためのアプリケーションを稼働させています。
4月に発売されたScale-Out Power8マシーンはこれらを行うための多くの利点を有しています。IBMがプロセッサーのバイトオーダーを変えてX86プロセッサーのバイトオーダーに適合させたので、X86-LinuxのワークロードをLinux on Powerに移植するのがいっそう簡単になっています。IBMはKVMハイパーバイザーとOpenStackクラウドコントローラーの独自のバリアント(変型)を創り、PowerベースのクラスターをX86と同じに変えて、Canonical社のUbuntu ServerのLinuxバリアントをPower8マシーンに追加しました。IBMはPower8システムのPower-Linuxバリアントを2ソケットのXeon E5マシーンに積極的に対抗できる価格を設定しています。しかしながら、私は嫌な予感がしています。IBMがここで価格を抑えた分を今年末までに出荷が予測されているPower8 Enterpriseマシーンの価格に上乗せして転嫁するのではないかという恐れです。これはAIXとIBM iショップがPower上のLinuxの拡張でその転嫁コストを負担することを意味するものであり、純損失をもたらす戦略です。IBMはこれらAIXとIBM iの顧客を大切にしなければならず、それにより彼らはIBMの忠実な顧客で有り続けるのです。
私はLinuxに対してなんら反感を持っているわけではなく、Linuxは多くのサーバープロセッサーに広がるオペレーティングシステムであり、またアーキテクチャーあるいはメーカーに関わりなくほとんどのシステム上で使用できるオペレーティングシステムであることが素晴らしいことだと思っています。これはコンピュータビジネスの歴史で決して過去に見ることができなかったオペレーティングシステムです。IBMはIBM iマシーン上に無料のLinux区画を提供し、RHEL、SLES、あるいはUbuntu Serverをセットアップすることができます。これにより顧客は最初からIBM iと並行してLinuxを使ってスタートすることができます。IBMは顧客にインセンティブを与えてキーのグループウエアとデータベースのワークロードをX86上のWindows SevereからPower上のLinux区画に移行させることさえもできます。IBMはかつてSolarisとHP-UXのワークロードをAIXに移行させるために多大な移植の努力を払った経緯が有り、同様のことをLinuxパーティション上のExchange ServerとSQL Serverで行えば顧客が移行するのを助けることができます。IBMは多分このようなサービスに多額の料金を課そうとするでしょうが、これを長期の投資と考えれば大変好ましいことであり、同じことをメインフレーム上で稼働するLinuxのワークロードですでに実行しています。
LinuxがSystem/390上のVMオペレーティングシステム内に有る論理区画で試験的に稼働してから15年が経っており、現在Linuxは全世界のSystem zメーンフレームベースにおける合計インストールベース3千万MIPSの中でプロセッシング能力合計約8百万MIPSを占めています。これは偶然ではありません。Linuxのコアをアクティブにするための価格はz/OSのそれの5分の一で、Red HatあるいはSUSE Linuxから得るLinuxライセンスは、X86マシーン向けの同じソフトウエアに比べれば非常に高額ですが、z/OSよりは可なり低額です。
LinuxはPowerプラットフォームを再び成長させてこのプラットフォームを救うことができると私は考えています。しかしながら、もちろん単独では不可能です。このプラットフォームがこの先のUnixと共に沈んで行かないためには、IBMが同じくIBM iとAIXの進展を積極的に促進しなければならないと思います。