生成AIは今やアプリケーション モダナイゼーションの一部になっている
生成AIは、チャット ボット インターフェースや、ハルシネーション(幻覚)を防止するためのガードレールが施された何らかのインテリジェントなプロンプト機能を備えているとすれば、それ自体でアプリケーションでありながら、コードのライブラリーで調整された大規模言語モデルに基づいて大量のアプリケーションを生成するためのツールとして使用することもできるという点で不思議な存在です。
これまでは、アプリケーションがどこからツールになるのか、あるいはツールがどこからアプリケーションになるのか、ということについて考えたりすることはありませんでした。それは、世界中のIT部門にとっては「卵が先か鶏が先か」という難問のようなものとなります。大事なのは、組織内のどこで生成AIを導入し始めるかということです。
世界中のCEO、CIO、およびCFOがその点について検討する際の参考にできるように、IBMのInstitute for Business Value(このITベンダー内の一種のシンクタンク)は、「 CEOのための生成AI活用ガイド(The CEOs Guide To Generative AI)」と呼ばれるドキュメント集を公開しています(「アプリケーションのモダナイゼーション」、「カスタマー サービス」、「人材とスキル」などをテーマにした章ごとにまとめられています)。
IBMが実施した調査によれば、経営層の64%は、生成AI機能を活用するには自社のアプリケーションをモダナイズする必要があると回答しています。しかし、どこから始めたらよいのでしょうか。人間が関わるほとんどのことがそうであるように、ポイントは3つあります。そして、それらについては、IBMが以下のように簡潔にまとめてくれています。
- すでにモダナイズしたアプリケーションに生成AIを適用し、まずは簡単に達成できる成果を確保する
- 以前は「手が入れられなかった」機会、すなわち基幹システムのアプリケーションやプロセスなどに着手する
- ビジネス部門とIT部門の目標を別個に評価するのを止め、ビジネス価値に最も強くつながっているITプロジェクトをはっきりと優先させる
これは大胆なアドバイスです。基幹アプリケーションは、コード行数が数百万行から数千万行に及ぶこともあり、絶対に必要な場合を除いては、いかなる新しいコードでも導入するリスクを嫌うビジネス環境での厳しいテストを経てきているため、それに手を付けるよう勧めるというのは、ほとんどのIBM System zおよびPower Systems顧客が信じていることとは相容れないように思われます。しかし、アプリケーション開発ツールには、たとえば、ILE RPGからフリーフォームRPGへ、さらにはJava、PHP、またはNode.jsといった他の言語へ変換できる、大規模言語モデルをベースにしたコード変換機能がそのうち備わるだろうと思います。IBMには、プレイン イングリッシュのプロンプトに基づいてAnsibleのランブックを作成できる生成AIをベースにしたコード ジェネレーターがすでにありますので利用しては如何でしょうか。
生成AIに関してIBMにどのような利害関係があるのかについて常に留意しておく必要があります。IBMは、GPUを搭載したハードウェアの販売で儲けようとしているわけではありません。さらに言えば、近頃のNvidia GPUの高いコストを考えると、大金が動いても、おそらく利益はわずかでしょう。Nvidia社はかなり儲けているでしょうが、同社のパートナーの利益がどのような具合かははっきりしていません。一方、IBMは、コンサルティング サービスを販売し、顧客のITインフラストラクチャーにどのようにして生成AIを導入したらよいかを顧客が理解する支援を行おうとしています。自身がこのテクノロジーの熱烈なユーザーでもあるIBMは、そのようなアドバイスをするのに適した立場にいると言えます。
興味深いことに、生成AIをどのようにして組織に追加したらよいかについてのInstitute for Business Valueの見解が示された箇所を読んだ後に、一瞬、Y2Kの日付危機の時と状況が似ているかもしれないと思いました。1998年、1999年当時は、System zおよびAS/400ベースには大量のレガシーな自家製コードがありました。そうしたアプリケーションで日付のアップデートを行うのは、SAP、PeopleSoft、Oracle、またはJD Edwardsアプリケーションへ移行するのに比べて、費用が掛かり、混乱を生じやすく、リスクが大きかったことから、サードパーティ アプリケーション開発者は、それらのアプリケーションをお払い箱にさせるチャンスを物にすることができました。そして、非常に多くのショップがそのようにした結果、心機一転して、おまけに外部からアップデートできる最新のアプリケーションを手にすることになりました。そうだとすれば、生成AIモデルを訓練し、推論APIをアプリケーションに統合する難しさのせいで、IBM i ミッドレンジ市場のITショップは、お手上げだと諦めてしまって、AI機能がすでに組み込み済みのアプリケーションに移行するだけかもしれません。
その一方で、必要に迫られ、意地でも自力でやろうとするショップもあるでしょう。
どうなるかは見てのお楽しみです。今はまだ、生成AIの黎明期です。はっきりしていることは、企業は 何かを行う必要があるということです。